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しおりを挟む温室の裏手にある小道をしばらく歩くと、木々の合間にぽっかりと空間が見える。そこには、正面の洋館と比べると見窄らしい、でもちゃんとした平屋の家がある。
「母屋の自室より、俺はこっちにいることが多い。ここは静かだから」
そう言いつつ、玄関のドアを開けて中に入る。母屋は土足だが、こっちは靴を脱いで上がる。単純に俺は土足が嫌いだから。
全体的に長方形でリビングダイニングの一面はガラス張りになっていて、丸見えだけど周りは草木ばかりなので気にならない。個室はふたつあって、ひとつは俺の寝室、もう一つは使ってない。
久しぶりに室内に入ったけど、メイドの誰かが掃除しておいてくれたようで、主人不在にしては綺麗だった。
寝室へと入り、灯がここにいる違和感をおぼえながらベッドに腰掛ける。洗い立てのシーツの匂いがした。
「前の汚い……悪い、あの古いアパートもゴミ以外何もないなと思っていたが、ここも何も無いんだな」
「汚いって言った?酷いよ、俺は気に入ってたのに……ここは寝るくらいしかしないから特に他のものを置いてないんだ」
そう言いつつ、思わずしょぼしょぼする目を擦った。自分が如何に寝不足かを痛感した。
「少し寝たらどうだ?」
「……夢を見るから、寝たくないんだ」
灯は辛そうに、少し視線を外した。そんな優しい灯に、俺は久しぶりに笑顔を向けた。
「灯、こっち来て」
無表情な灯がおずおずと近付いてくる。そして俺の隣に座った。
「もし、危険だと思ったら制御装置を使ってね。絶対だよ?」
「わかった……何をする気だ?」
俺は灯の左手に触れて、それからそっと持ち上げた。灯は俺に見えるように、ちゃんと制御装置のリモコンを右手に握る。
「少し痛いかもしれない。でも、ちゃんと知って欲しい。俺は吸血鬼だ。本来はこうやって食事をするだよ」
それから、灯の左手の親指の付け根あたりの、膨らんだところをペロッと舐めながら、上目遣いで灯の顔を見た。そこで察した灯は、なんだか、愛しげに目を細めて見つめ返してきた。
「痛かったら言ってね」
忠告してから、俺は灯の手に牙をたてた。ズブっと鋭い牙が肉に刺さり、ジワリと甘い液体が口の中に広がる。灯の顔を見ると特に変化はなくて、それよりもまるで小動物でも見るような、そんな優しげな顔をしていた。
俺は灯から溢れる血をこぼさないように舐め、本来の欲求を満たす感覚に脳みそが蕩けそうになる。
「ルナ…?」
「何?」
「ひとつ聞いてもいいか?」
名残惜しくてぺろぺろと舐めながら、甘い余韻を味わっていると、灯がバツの悪い顔で言った。
「お前の、それは、おれに何か影響があるのか?」
そういえば、と俺は思い出した。そして灯のその、テントを張ってしまったところを見てクスッと笑った。
「ごめん。言うのを忘れてた……というか、俺ね、実は今までこうやって直接血をもらったことがないんだ。吸血童貞ってやつなんだけど。それでね、吸血する時の俺の唾液にそういう効果があるのを忘れてた」
つまりは俺の唾液には、血を貰った時にだけ傷を早く治す効果と、催淫効果があるのだった。これは過度な痛みや苦痛を与えない為だと言われている。
「たいていはさ、男女でこういう行為をするんだ。なんでかって言うと、どちらにせよどうしても吸血された人間の方に影響がでてしまうから。で、まあ、その流れで解消するわけだけど」
俺はちょっと照れくさくなって顔を背けた。だって俺は初めて直接血を貰って、だから相手がそんなに反応するとは知らなくて。
「灯、する?」
複雑な灯の表情を見て、俺は言葉を選びつつ続けた。
「前はさ、お前も信用できない、みたいなことを言ったけど、本心では違うんだ。危険な状態の俺から離れて欲しかったからそう言っただけで、灯は怖くないよ?というか、灯の部屋にずっといて、その血に似た匂いに囲まれて……欲求不満だったのは本当なんだ」
「……触れてもいいのか?」
「ダメって言ったらどうするの、それ」
「気合いでなんとかする」
とんでもなく悩ましげな灯の顔を見て、もう堪えきれなかった。
「ブッ!!アッハハハッ!!」
「何がそんなに面白いんだ?」
「だって、それ気合いでなんとかできるの?灯ってすごいね!俺は無理だよ!フフッ」
ムスッとした灯に、また笑いが込み上げてくる。しばらくクスクスとしていると、灯がふと笑った。
「またルナの笑顔が見れて嬉しい。おれはそれだけで幸せだから」
「だから、しない?」
「そうは言ってない」
灯の手が俺の頬を撫でる。赤くなった瞳を覗き込まれて、なんだかとても恥ずかしい。
「悔しいけど父の言うとおりだなぁ。灯の決断は本当は嬉しかった。そんな自分が許せないと思ったけど、受け入れた方が楽だね」
結局どう頑張ったって、ベルセリウスの三男として何も感じないようにしようとしたって、そんなことが出来るはずもなくて。
「機械になりなさい、ってね、叔父はよく言っていた。でも無理だよね、そんなの。だって愛情を知ってしまったんだ」
「おれは最初からそんな事無理だって知ってた。両親を亡くしたこともそうだったが、時々ある季節のイベントや学校の行事なんかが苦痛だった。おれだけ親が見にくることはないんだ。でもそんな悲しみをずっと持ってるわけにはいかない。おれにはおれの人生がある。感情を消すことはできないが、受け入れて前に進むことはできる」
なんだか少しショックだ。
「俺の方が歳上なのに、灯の方が大人びててなんだか複雑なんだけど」
「ルナは見た目の通り中身も子どものままなんじゃないか?実際お前の成長はいつほぼ止まったんだ?」
そう言われて思い返すと、俺は割と早くにそういう成長の変化が終わったように思う。
「多分、14年くらいかなぁ?300年かけて、やっとここまで変わったよ」
「……物凄く複雑なんだが、おれは見た目が10代後半の子どもとセックスしているのか……」
「ちょっと!気持ち悪いこと言うなよ!灯のスケベ!!変態!!」
そして、お互いに目を合わせてしばらく笑い合う。久しぶりにちゃんと顔を見た。ちょっとやつれてるのは、俺が心配をかけているからだろう。
「灯、あの、お前の喰われそうなねちっこいキスしてよ」
「もうお前は黙れ」
ケラケラ笑う俺をベットに押し倒して、灯がそっと俺の唇を塞ぐ。
「大丈夫か?」
「うん?何が?」
「……怖くないかって聞いてるんだ」
「どうかな…?今の所大丈夫だよ」
それからまた、今度は深く唇を合わせ、そして灯の熱い舌が恐る恐る侵入してきた。俺はそれに自分の舌を絡めながら目を瞑る。
大丈夫、目の前にいるのは俺の大好きな灯だ。そう自分に言い聞かせる。
灯はキスを続けながら、俺のシャツを捲って手を入れた。これもまた恐る恐るで、確かめるように色々なところを撫でていく。
「ふぁ、くすぐったいよ」
「ごめん。ちょっと体を浮かせてくれないか?」
言われた通り上肢を浮かせると、灯が器用にシャツを取り去った。そのついでのように、背中の羽の生える辺りを撫でていく。
「ひゃあっ!?」
ブルっと身震いして灯を睨むと、こいつはなんだかとても楽しうな顔をしていた。
それから灯は俺の首の辺りを舐めながら、両手で胸を撫でまわし、敏感なところをキュッと摘んだり引っ張ったりした。
「ぁ……ね、ちゃんと触って?ん、強くしても大丈夫だのよ」
「わかったからちょっと黙ってくれ。気が散る」
そうだった。俺が喋りまくると灯は怒るんだった。
灯は少し下へずれて、俺の胸に顔を埋めると左の胸の先を舐めて、それから噛んだ。
「やぁっ、ふ、痛ぃ…でも、きもちいよ…?ねぇ、右もやって…?」
「お前は……ちょっと口塞いでろ」
そう言って俺の口を手で塞ぐ。灯の匂いを間近に感じてしまって、俺は堪らなくなって少し、本当に少しだけ牙をたてた。
一瞬ビクッとした灯だけど、俺は夢中で、でもちゃんと自制してひたすら灯の手を舐めた。
美味しい。甘い匂いにクラクラする。このまま蕩けて、ドロドロになっちゃったらどうしよう。
「ルナ、ごめん、ちょっと待った」
「ン……やだぁ、手、返して」
「後でまた噛めばいいだろ。それより下触るけど大丈夫か?」
俺は良くわからないまま数回頷いて、灯が俺の履いていたデニムと下着を取り去るのを眺めた。俺のそこはもう見ていられないくらい濡れていて、灯が少し触っただけでイきそになる。
「と、灯、それ、あんまり触らないで!も、出ちゃいそうっ」
そう言うと、灯は手を止めて、それから徐に俺の腰をぐいっと持ち上げた。俺は腰が折れるかと思った。
「なに!?灯、何するの?」
「ここ、解さないとだろ。ちょっと我慢してくれ」
で、俺はそんなことされたのは初めてだったんだけれど、灯は俺の後ろを、なんの躊躇いもなく舐め始めた。
「うああっ、な、何してるのっ!?ひゃあ、ぁ、ちょ、と!中、入ってる、ンァ、きもち、よ……灯?」
「何だ?」
「……何でもない」
俺の尻に顔を埋めた灯が、不機嫌そうに顔を上げてくれて安心した。
……今、一瞬、俺のことを触ってる奴が灯じゃなかったらどうしよう、なんてことが頭をよぎったから。
多分俺は必死で目を開けて、これまた必死に灯の姿を確認していた。そうしていないと怖かった。
「もういいか……なあルナ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。それより早くしてよ。灯の灯が可哀想だよ」
呆れたのか、灯は何も言ってくれなかった。
「ゆっくりするから、無理だったら言ってくれ」
コクコクと頷くと、灯がゆっくり、でも確実に、俺の中へと進んで来た。
その瞬間、俺は一瞬パニックになりそうだった。記憶の断片が脳裏に過ぎって、で、息がし辛くなって。
「ルナ、ルナ?聞こえてるか?」
「あ、灯……早く突っ込んで抱き締めてくれない?その方がいいかも」
察したのか、灯は俺の言う通りに、素早く、でも優しく中に自身を埋め込んで、俺の体に密着した。それから両手で俺の頬を覆って、多分泣いているであろう俺の目を覗き込んだ。
「ルナ、おれは灯だ。わかるか?」
「……うん。灯、そのまま俺の顔見といてくれる?」
「わかった」
灯がゆっくりと動き出す。本当に優しく、俺の目を見つめながら。
「はっ、ぁ……ン、そこ、好き……も、と、激しくして、いいよ…?」
俺の言葉に答えるように、灯は少し強めに奥を責めてくる。
「うあっ、はぁ、ンン……ふぁああ、灯っ!気持ち良いよ…?あっ、ん……灯は…?」
「おれも気持ち良い。ルナ、お前は本当に綺麗で、可愛くて……愛してる」
ビクッと体が震えた。灯が眉間に皺を寄せる。
「キツい。もう少し力を抜いてくれ」
「ムリッ、灯が……ぁ、愛してる、なんて……言うからだよっ」
ふう、と息を吐いた灯は、そこからまた激しく奥を突き、俺は蕩けてしまった目で灯を見ていた。いや、正確には灯じゃなくて、俺は灯の首筋を見ていた。
「……ルナ、おれは別にいいんだ。ルナがちゃんと自制できると信じているから」
本当に察しが良くて困る。それで、もうあまり頭が働いていない俺の返事を聞く前に、灯は俺の背中を抱えて足の上に乗せた。
「うあっ、あ、またっ…!違うとこ、あたってるっ!は、アア……深いよぉ、灯……」
「自分であてに行ってるんだろ」
「ん、だって……気持ち良いからぁ……」
ふうふう息をすると、灯の匂いが俺を支配してしまうようで、もう何も考えずに灯の肩に顔を埋めて、興奮で尖った牙を突き立ててしまった。
またもビクッと体を震わせた灯だったけど、俺はもうそんなのどうでも良かった。
「甘い……おいし、よ……はぁ、止まんない」
灯が突き上げて来るのに合わせて腰を振りながら、俺はその首筋から流れる血を舐めて、ほとんど我を忘れていた。
「ルナ、中に出していいか?」
「ん、良いよ…?熱いの、いっぱい、ちょうだいね……」
灯はまた俺をベッドに押し付けて、思いっきり腰を打ち付けてきた。俺はその首筋に顔を埋めたまま、ビクビクと震えていて。
「ぅ、あっ!あ、灯っ、イっちゃ……ンンッ!!」
「くっ…!」
ほとんど同時に達して、灯の熱がお腹の中に溜まる感覚がした。
「ルナ、もう終わり。そんな名残惜しげな顔をしてもダメだ。いいな?」
脱力感で震えながら、でも俺はまだ灯の首に抱き付いて必死に血を舐めていた。そんな俺に、灯が優しく諭すように言う。
「……うん。わかってる。ちゃんと我慢できる」
「よし、じゃあシャワーでも浴びに行こう。ここにもバスルームはあるか?」
「あるよ。でもちょっと待って。キスして?お願い」
そう言うとすぐに、灯は俺のお願いを聞いてくれて、しばらく抱き合ったままキスをした。
「ありがと。もう大丈夫。バスルームはね、こっちにあるよ!」
「相変わらず切り替えがクソほど早いな」
なんか言われたけど、俺は無視して先にベッドからおり、バスルームへと向かった。
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