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しおりを挟むジェルディオン邸に帰って来るとヨゼフ先生はマール様の容体を見に行こうとした。
「あの…先生?私これからもここでお世話になっていいんですよね?」
あんな態度を取ったけど良かったのが急に不安になった。
「まあ、アルベルト様がああ言ったんだ。もちろんいてくれていいよ。でも悪いね。あんな侍女の部屋なんかで」
「とんでもありません。もともと住んでいたところが森の中の小さな家でしたのでこちらの部屋の方が随分きれいですわ」
もう、ヨーゼフ先生というかやっぱり叔父様優しい。
あの日いきなり追い出されてヨーゼフ先生に助けを求めたら使えそうなのは侍女部屋だったところくらいだけどと言われて私はどんな部屋でも構いませんとお願いした。
だが、長年手入れを怠っていた建物は痛みもひどいらしく2階には上がらない方がいいと言われてキッチンの奥にある侍女用の部屋に置いてもらうことになったのだ。
「まあ、シャルロットがいいなら構いませんが。僕はマールの様子を見て来ます」
「はい、では私は夕食の支度をしますから」
私たちの間には恋愛感情などは存在してはいない。だって私たちは叔父と姪ですから…
私は急いでキッチンに入って夕食の支度を始めた。
そうそう、忘れる前に瞳の色を変える目薬を…
今夜はポトフを作ろう。マール様もいるしチキンと野菜たっぷりのポトフならきっと食べれるんじゃないかしら…
そんな事を考えながら私は料理を作った。
夕食をマール様に持って行く。
「失礼します。ご気分はいかがですか?夕食をお持ちしました」
「すみません。お世話になります」
すっかり顔色も良くなって安心した。
マール様は金色の輝く髪をされて澄み渡る青い空のような色のブルーの瞳を持った男性で、とても優しいお顔立ちの男性でした。
この方が騎士をされているとは思えないような優しそうな顔でこちらを向かれてきちんと挨拶されました。
すごく感じの言い方です。私マール様みたいなタイプ好きですね。
「ありがとうシャルロット、すっかり良くなった。シャルロットにはすっかりお世話になってありがとうございます。今晩一晩お世話をおかけします」
「とんでもありません。本当にご無事でよかったですわ。何かあったら遠慮なさらず何でも言って下さいね」
「ああ、ありがとう…そうだ。ヨーゼフ先生から聞いたんだが君、今度の建国記念の夜会に行きたいんだって?」
「えっ?…あっそれは…」
私は真っ赤になった。
そんなもの欲しそうにしていたのだろうか…確かに夜会など行ったこともなくて憧れるけれど、あくまでこれは目的のためで…
マール様が面白そうに笑った。
「いいんだよ。恥ずかしがらなくて、あの夜会はこの街の人ならだれでも参加できるんだ。だからシャルロットも行きたいなら行ってもいいんだ」
「まあ、そうでしたの?私この街に来て日が浅いのでそんなこと知らなくて…まあ、ヨーゼフ先生もご存じなかったんでしょうか」
「ああ、きっと‥年頃の娘でもいない限りそんなところに行くこともないだろうし…もしよかったら僕にエスコートさせてくれないか?」
「そんな事…いけません。私のようなもの…公爵様がお知りになったら何とおっしゃるか」
「父はそんな心の狭い人じゃないから安心して、君は命の恩人だし夜会のエスコートくらい。そうと決まれば今度の週末馬車で迎えに来るよ」
「本当にいいんですか?」
生まれて初めて夜会というものに参加すると決まると気持ちが高揚した。
「もちろんだ。今夜はなに?さっきからいい匂いがして…実はお腹が減っていたんだ」
「あっ、すみません。今夜はチキンとお野菜たっぷりのポトフです。お嫌いではないですか?」
「ポトフ、僕は大好きなんだ」
「それは良かったです。ひとりで食べれます?」
そう聞きながら支度をする。
「シャルロットが食べさせてくれるつもり?」
「まあ、ご無理なようならお手伝いをと…」
「ああ、ひとりじゃ無理だな。頼む」
「まあ。仕方ありませんね。今晩だけですよ」
私はマール様の背中にクッションを差し入れるとしっかりと座らせて顎の下にタオルを巻き付けた。子供みたいにマール様はスプーンを口に運ぶたびに大きく口を開けてポトフを美味しそうに食べられた。
自分の作ったものをこんなおいしそうに食べていただけるとこっちまで嬉しくなった。
誰かさんとは大違いだわ。
アルベルト様なんか大嫌いですから…
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