74 / 85
70急展開
しおりを挟む私達は辺境伯の屋敷を出て騎士隊と合流した。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。私は北辺境伯騎士隊長のレナン・トマーソンです。どうぞよろしくお願いします」とすぐに挨拶をされる。
「レナンは警務部長ダニーと薬物研究室のリンハルの弟だ。レナンよろしく頼む」
そう挨拶を返すのはネイト様。さすがだ。彼はまだ若いけど西の辺境伯なんだなと改めて思う。
「そうか。シュナウト・ブルタニウスだ。いろいろ不慣れだがよろしく頼む」
シュナウト殿下が手を差し出す。騎士隊長は慌てて握手をする。
あれ、意外と立ち直ってる。良かった。これなら大丈夫そうだな。ってなんで私があいつの心配なんか!
「私はリンローズ・コリーと言います。私も聖女としては二度目の結界修復ですのでどうかご指導よろしくお願いします」
「とんでもありません。主人を助けていただいてありがとうございます」
「こちらこそ、知らなかったとはいえご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「もう、挨拶はこれくらいでいいだろう。それより時間がない。レナン手はずは?」
「はい‥」
そこに神官のシバ様と聖女のロドミール嬢が走って来た。
「大変です。神宿石がおかしいんです!」シバ神官ともあろう方が取り乱し真っ蒼な顔で言う。
「そうなんです。まあ、ラセッタ辺境伯。ほんとにいて下さって良かった。早く神殿に急いでいて下さい」
ロドミール嬢はネイト様に縋りつくと目をうるうるさせて言った。
彼女ってこんなキャラだったかな?
「すぐに行く。ロドミール嬢悪いがこれでは動きが着かない」
「ああ、すみません。私恐くて。つい‥」
彼女はすっとネイト様から離れるがその時私を見る視線にものすご~い殺気を感じる。
なにこれ?彼女、ネイト様を好きなの?でも、あなた婚約者いましたよね?って私もか‥
実はさっきからネイト様とは腕が触れあうほど近くにいた。私は慌ててぱっとネイト様から離れるといきなり彼に腕を掴まれた。
「リンローズ急ごう」
「‥はいっ!」
とにかく私たち4人は神殿まで馬で駆け上がった。
「「「「こ、これは!!」」」」
神宿石が光を失い黒くなっていた。
「どういうことだ?これはもはや神宿石の神力が失われたと言う事か?」騎士隊長がおびえたように言う。
「わからない。こんなになった神宿石は見たことがない」ネイト様も驚いている。
「とにかく魔力を注いでみよう。殿下、リンローズ。頼めるか。俺も一緒に加わる」
「「わかりました。わかった」はい!」
3人で神宿石に手を当てて魔力を込める。
私はここに来て神宿石に手を当てた時の事を思い出していた。
もしかしてセレネーン様やポトス様の怒りが?どうしよう。もしそうだったとしたらこの国の神宿石は崩壊する。
新しい神宿石をすぐに捧げて神様にお詫びをしなければならない。
3人の魔力が辺りを包み込んでかなりの魔力が神宿石を包み込んだ。
だが‥神宿石はその魔力を吸収しようとはしない。魔力はビリビリ辺りの空気を揺るがしそして時間の共に消えて行った。
「おかしい。なにがあったんだ?」ネイト様が首をかしげる。
「私もこんなの初めて見ましたわ。いつもなら神宿石に魔力が吸い込まれて行くはずですのに‥」つかつかとネイト様のそばに来てコテンと首をかしげるロドミール嬢。
ああ、今来たのね。それにしても素早い。
でも、ネイト様はそんな事は見てはいない。まあ、それどころではない。
私は瞬時にロドミール嬢には聞かせない方がいいと判断した。
「シュナウト殿下。ラセッタ辺境伯お話があります」
「「リンローズどうした?何かわかるのか」」ネイト様、シュナウト殿下同時ですか。
「ちょっと中に来て下さい」私は神殿の方に向きを変える。
「ああ、わかった」ふたりが私について来ようとするが‥
「お待ちになって。リンローズ様。お話はここでもいいんじゃありません?あなたシュナウト殿下というものがありながら、さっきから何です?ラセッタ辺境伯にすり寄ってばかり。見るに耐えられませんわ」
あっ、それあなたですから。
「ロ‥「ロドミール嬢君はさっきからうるさいぞ。今は急を要するんだ。言いがかりばかりつけるならもう帰れ!」‥」
私が言う前にネイト様がバッサリ切り捨てた。
「ひ、ひどい~私はお手伝いしようと‥」ロドミール嬢は泣きながら神殿の中に駆け込んで行った。
あれ、泣いてないよな。まったく今はそんな事言ってる場合?違うでしょ。言い寄ってる場合じゃないよねぇ~。
私は脳内で気持ちをすぐに切り替える。
そして神宿石に触れた時の事をふたりに話した。
「ちょっと待てリンローズ。その時声がしたって言ったな?俺もお前が言うような話が聞こえた。あの時はそんな訳がないと思って俺の勘違いだって思おうとした。でも、まさか‥あれが神の?‥」シュナウト殿下が驚く。
えっ?シュナウト殿下も聞こえた?それって最初に神宿石を一緒に触ったからなの?じゃあ、どうして今まで黙ってたのよ!
まっ、私も彼には話していないけど‥
脳内で情報処理も追いつかないうちに。
「それって神が相当怒ってるって事か?」とネイト様に尋ねられシュナウト殿下への気はそがれた。
「はい、きっとそうだと。神話にもありましたよね。西のセレネーン様と北のポトス様が愛し合っていたって、ふたりは地上から天に帰るつもりなんですよ。このままでは国は大変なことになるはずです。大至急神宿石を何とかしなくては‥それに王都のガイアン大神にも祈りを捧げなければと思います」
「リンローズの話は信じる。これはどう見てもおかしいからな。そうとなれば急いで王都に帰らなくては‥シュナウト殿下。もしもの時には国王代理を頼むかもしれない。覚悟をしてくれ」
「協力はいくらでもする。だが、こうなったらすぐにでも国王をドーナン兄上にした方がいいんじゃないのか?」
「本気か?」
「もちろんだ」
「そうとなれば急いだほうがいいな。レナン騎士隊長、俺達は転移陣で王都に帰る。神宿石の事は何とかするからここは任せていいか?」
「はい、お任せください!」
そうして私たちは急いで王都に戻る事になった。
神殿に入ってくとロドミール嬢が走り寄って来る。
「私も協力しますわぁ、ラセッタ辺境伯。何でもおっしゃってぇぇ~」ロドミール嬢は懲りずにネイト様に視線を送る。
「君はここで騎士隊長に協力をしてくれ。それが聖女としての役目だ!」
「でも、それならリンローズ様をここに残せばいいじゃないですか?どうして彼女ばっかり!」
「彼女は王都でやることがあるんだ。そんな事もわからないのか!」
「そんなぁ~」
「レナン!いいからこいつを連れて行け。俺達は急いでるんだぞ!ったく。さあ、リンローズ。俺と一緒に転移陣へ」
「でも、一人ずつで「俺なら一緒でも行けるくらいの力はある。さあ、行こう」はい」
「待て、俺はどうすればいいんだ?」シュナウト殿下が狼狽える。
そこにシバ神官が走り込んで来た。
「シバ。シュナウト殿下を王都に送ってくれ。俺は先に行く。お前も来い!」
「わかりました」
「ラセッタ辺境伯~」ロドミール嬢の叫び声が聞こえる中慌ただしく私とネイト様はカルキース辺境伯領を後にした。
29
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる