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  ダミアンとレイモンドはランフォードを王宮のすぐ隣にある騎士隊の本部まで連れて帰った。

 とにかくランフォード様は歩くのもやっとなので、人目を避けて運ぶのは大変だったが、騎士隊の彼の部屋まで運び入れるため急いだ。

 騎士隊では隊長と副隊長には私室が与えられるのだ。

 ルヴィアナはドレス姿なので後ろをついて行くので精いっぱいだったが騎士隊のほとんどが練習のため出払っていたので助かった。

 先に3人が建物に入ってルヴィアナは木の影で待つことになった。

 

 ふたりはやっとランフォードの私室に入って彼をベッドに横たえた。

 「ランフォード気分はどうだ?」

 「ああ、レイモンド、ダミアンありがとう。おかげで助かった」



 ランフォードは牢を出るとき上に羽織らされていた胴衣は脱いでいたが、シャツやズボンは3週間も着ていたままだったし、とてもひどい匂いだった。

 「気分も良くなったから、体を少し流したいんだが…」

 ランフォードは自分の部屋に戻ってやっと落ち着いたのかさっと起き上がった。

 「ああ、そうだな。こんな匂いではルヴィアナ嬢が気分を悪くするかもしれんな」

 「すぐにすませるから」

 ランフォードはそう言うとすぐバスルームに消えた。



 その間にレイモンドがルヴィアナを迎えに行く。

 ルヴィアナが部屋に入って来た。

 「ランフォード様は?」

 「ああ、隊長はシャワーをしているところだ。ルヴィアナ嬢にひどい姿を見せたくないんだろう」

 ダミアンが笑った。

 「まあ、そんな事をして大丈夫なんですか?体の具合もまだ悪いのに…」

 「あれくらい隊長に取ったらどうってことはないと思いますよ。そんな事よりあなたに嫌われる方がこたえるんじゃないですか」

 また、彼はクックッと笑った。

 ルヴィアナは真っ赤になる。


 ドサッ!

 突然何かが倒れる音が響いた。

 「バスルームだ」

 ダミアンが言うより早く駆け出した。

 レイモンドもルヴィアナも後ろに続く。

 バスルームの扉は開け放たれて中にはランフォードが倒れている。

 「隊長!しっかりして下さい!」

 ダミアンがすぐに彼を起こしてレイモンドも一緒に彼を連れ出す。

 すっ裸のまま体は濡れていてルヴィアナは見るのも恥ずかしいが、急いでタオルを彼の体にかぶせる。

 「ランフォード様しっかりしてください」



 「ウー、グフッ、…やめろ!ウグッ…」

 彼はうめき声を上げて暴れそうになる。

 それをダミアンとレイモンドが押さえつけてベッドに転がす。

 ふたりは両手を掴み叫ぶ。

 「しっかりしろ!何があった?」

 ランフォードはさらに声を上げて雄たけびを上げる。目を見開き体中で起き上がろうと暴れる。

 「ダミアン仕方がない手を縛れ」

 レイモンドがランフォードの上に馬乗りになって抑え込む。その間にダミアンがブーツの紐をほどいてランフォードの手をベッドサイドに縛り付けた。



 ランフォードは暴れてベッドが激しくきしんだ。

 「ルヴィアナ下がって。どうなってるんだ?ランフォードに何があった?」

 「お兄様、私がランフォード様に」

 ルヴィアナはそう言うが早いか手が勝手にランフォードに触れていた。

 激しく上下する胸の筋肉はとてもたくましく凛々しいはずなのに今はその体は電気を帯びたかのようにブルブル震えている。

 彼の顔は引きつったようになって瞳は赤く染まっていた。

 下半身にはどうにかタオルが絡まるように巻き付いていたので少しほっとする。



 その途端ルヴィアナの脳内におびただしい罵詈雑言が浴びせられる。

 ”ふざけるな!なめてるのか?俺は気高き狼の魔族なんだ。俺を手にかけたやつをこのままにしておくとでも?俺がお前を乗っ取ってやる。そして命を頂く!クッソ。このやろう、てめなめてるんじゃねぇぞ。まだ逆らう気か。ふざけるなよ。これでもか……”

 元ヤクザの杏奈でさえ耳を塞ぎたくなるような言葉がさらに続く。

 もう、いい加減にしてよ。こんな乱暴な言葉を使うなんてこれは絶対ランフォード様ではない。

 これは病気というより何かが彼に憑いているのでは?



 「ダミアン様魔獣盗伐で何かありませんでしたか?この様子は何かが彼の体に憑依しているとしか?」

 「どういうことです?憑依するって」

 しまった。この世界ではそんな考えはないのかも…

 「いえ、何でもありません。そうだ、死んだ魔獣とかはいませんでしたか?」

 「はい、3体ほどいましたが」

 「その中に狼に似た魔獣は?」 

 「はい、隊長があの剣で一刀両断で倒した奴がそうでしたが、その剣は今回のために特別に作った物らしくてそれはもう素晴らしい剣でして…」



 なぜかこの時杏奈の父親が言った事を思い出す。

 あれはパパが日本刀を手入れしている時だった。父は日本刀を集めるのが好きでいくつか刀を所有していた。

 いつも手入れを怠ってはいけないと入念に手入れをしていた。その時杏奈も何度か日本刀を見たことがあって…そう、あの時パパは…

 ”杏奈、日本刀の中には妖刀というものがあって、持ち主の意志に関係なく刃が己の意志を持って血を求めたり人を呪うと言われているんだ。

 ほら、刃の怪しい光を見てみろ、なんだかそんな雰囲気が伝わると思わないか。もし、この刀でパパが刺されたら刺した人間を呪うかもしれんぞ” 

 見せられた日本刀の刃は大きくうねり薄気味悪い光を放っていた記憶が蘇る。

 まさか…



 「ダミアン様、まさかここにその剣はないですよね?」

 「いや、王宮に出向くとき隊長がマントと剣をここに置かれて行った。だから…持って来た方が早いな」

 ダミアンは部屋を出てしばらくすると戻って来た。手には大きなあのスピリットソードが握られていた。



 ランフォード様の体が大きくバウンドした。

 ”クッソ。それだ。その剣の中に俺の魂が。そいつでお前をぶった切ってやるからな。覚悟しろよ”

 彼の中から恐ろしい声が聞こえた。



 ルヴィアナはとっさにダミアンが持っている剣を取るとその剣を引き向いた。

 「こ、これは…どうして剣の刃が…」

 スピリットソードの刃は、日本刀のように妖しくうねった刃紋を描いている。

 「隊長が特別に作らせたと聞きました」

 元ロッキーだった彼なら日本刀の事を知っていてもおかしくはない。刀の刃を剣に成形することが出来るかも知れないわ。



 ランフォードが激しく暴れ出す。剣に向かって近づこうとしているらしくベッドが激しく揺れてガタガタと音が響く。

 これはもしかしたら…ううん、きっとそうです。

 「ダミアン様この剣を壊して下さい。早く。急いで!」

 「ですが…」

 ああ、もう!どう説明したらいいのかしら?ルヴィアナはしばらく考える。



 「どうやらこの剣には、ランフォード様が殺した魔獣の魔源の力が入り込んでいるみたいなんです。そのせいで彼が苦しんでいるのです。だから早く剣を壊して下さい」

 「剣に魔源の?」

 ダミアン様はようやく納得されたらしく、急いでそれを持って走り部屋を出た。それに続いてレイモンドお兄様も。

 「ルヴィアナそう言う事なら一緒に行って剣を叩き折って来るから、安心して待ってろ、その間ランフォードに近づくな。いいな?」

 「わかりましたお兄様」

 ルヴィアナも今のランフォードに近づくつもりはなかった。

 だって彼は物凄く恐い顔で目はらんらんと光ってすごく恐いんですから…



 「ランフォード様もう少しの辛抱です。私わかっていますわ。これはあの魔獣のせいでランフォード様のせいではないと」

 少し離れたところで彼に声を掛ける。

 ランフォード様はその言葉が聞こえたかのように一瞬顔が和らいだ気がした。

 ”ルヴィアナわかってくれてありがとう”とでも言ったような気がした。

 ええ、もちろん分かっていますからランフォード様。

 ルヴィアナはただ祈るしかなかった。





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