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しおりを挟むルヴィアナはレイモンドの考えを知ってランフォードが逃亡したことを知る。
だが、すぐに今は知らないことにしておいた方がいいと思った。
とにかく叔父様に会って、私が国王の娘だと言えばこの結婚は取りやめになるはず。そうすればここからだって出してもらえるわ。
「お兄様、私どうしても叔父様に会わなければならないんです。何とかここから連れ出してもらえませんか?」
「ルヴィアナそんな切羽詰まった顔をして一体どうしたんだ?心配事なら俺に言ってくれないか。俺達は兄妹なんだ。確かにここでの生活は窮屈かもしれないがそれもすぐになくなるだろう。だが、殿下にも、もう少し優しくしてやったほうがいいぞ。あの男は褒めれば何でも言う言事を聞いてくれるタイプなんだから…それにお前も殿下があんなに好きだったじゃないか」
ルヴィアナは口ごもる。私はそんな切羽詰まっているのだろうか?いや、その通りです。だってランフォード様を早く探し出さなくてはありませんもの…
それに、私が国王の娘ということはお兄様とは血の繋がりがないという事ですし…
途端にあまり無理を言ってはいけないと思ってしまう。
「ええ、わかってますわ。でも、私はランフォード様が…」
その先を遮る用にレイモンドが口をはさんだ。
「それを言うなと言ってるだろう?お前は次期国王と結婚が決まっている。これ以上そんな事を言うべきではない!」
はぁ…お兄様にお願いするのは無理かもしれませんが、そんな事を言っている余裕はありません。
覚悟を決めて口火を切る。
「ですが、お兄様ランフォード様は牢を破って逃げられたのでしょう?」
「どうしてそれを?」
「私、なぜかしら触った相手の事が分かるようになったんです」
「何を言っている?また、そんな冗談を言うのはよさないか」
「いいえ、本当なんです。だからさっきお兄様がランフォード様が逃げてどこに行くのか心配されてることが分かったのです。お兄様はランフォード様をかくまってもいいと思っているんですよね?」
「ルヴィアナ!言っていい事と悪いことがあるだろう。そんな事を言って誰かに聞かれたらどうするつもりだ?」
レイモンドは驚いて辺りをきょろきょろ見回した。
「これで信じて頂けましたか?」
「また、誰かが話しているのでも聞いたのではないのか?そんな事信じられるわけがない」
「ですがお兄様本当なんです。お母様が秘密にしている事を聞いて私は叔父様に大急ぎで会う必要があるんです!」
「一体どんな事なんだ?俺にも言えない事なのか?」
「ですが…きっと腰を抜かすくらい驚きますよ」
「いいから行ってみろ!ほら、早く言えよ」
「もう…知りませんからね」
そう言ったが何とも話しにくい。ルヴィアナは何度か息を吸い込んで気持ちを落ち着ける。
レイモンドは今か、今かと待っている。
「実は…私はクーベリーシェ伯爵の子供ではないらしいのです。私は亡くなった二コライ国王の娘だとお母様が…」
「ブッ!なんだ。それ?言うに事欠いてそのような嘘を…そんな事があるはずがない」
「ですが…お母様がそう思ってらしたことは事実で」
「思っていた?聞いたわけでなく考えていただけなのか?それを言ってるのか…ったく」
レイモンドはルヴィアナの顔をじっと見つめた。
瞳や髪の色は母親に似ているので特に気にしたこともなかった。
だが、この性格は…とてもクーベリーシェ家の人間とは思えない所があった。
父親はそれは温厚で優しく人との協調性があった。
それに引き換えルヴィアナは、極端に優しいところとゆがんだところがあり、それに思い切りがよすぎるほどいい。
そんな人間はクーベリーシェ家には今までいなかったが…母上はどうだ?彼女も温厚で優しく…いや、うっかりもので決断したら早いな。確かに…
そんなところは親子そっくりじゃないか。これでは何の解決にもならない。
こうなったら母上に聞くしかないかないな。
ルヴィアナがこれほど宰相と話がしたいのはきっとランフォードの事が心配なんだろう。
それにしてもランフォードの奴。逃げたとしたらもしかしてもう戻ってこないかもしれないつもりなのでは?
何とかしてやらなければ。
そんな事を思っている兄レイモンドの考えが脳内に流れ込んできてルヴィアナはうれしかった。
「分かった。明日にでも母上と一緒にこちらに来る。そしてはっきり母上に聞いてみよう。もしそれが本当だったら宰相のところに一緒に行こう。そう思わないか?」
「ええ、どうせ、今夜は宰相もお忙しいでしょうし、明日の方がいいですね」
「じゃあ、今夜はおとなくし帰って休みなさい。いいね?」
「はい、わかりました」
ルヴィアナは今夜は仕方がないと諦める事に。
**********
翌日、王妃から呼び出しがあった。
ルヴィアナは、マーサにレイモンドや母が来たら待ってもらうように伝えて王妃のところに出向いた。
王妃クレアは昨夜の一部始終を知っていた。クレアは離宮の見張りに立っている近衛兵にルヴィアナの見張りを頼んでいた。彼女が言った事や起きたことをすべて報告するようにと命令を出していた。
「王妃様、お呼びでしょうか?」
「ええ、王の国葬も無事終わりました。ディミトリーは国王としての責務を果たさなければなりません。あなたとの結婚式です」
「はい」
「それで、このティアラをあなたにと思って…」
クレアは立ち上がると宝石箱から、恭しく白金で出来た美しいティアラを取り出した。
中央には大きなダイアモンドがはめ込まれてその周りをアメジストやラピスラズリ、琥珀などの宝石が取り囲んでいる。
すべてこの国でとれる鉱石。魔石にもなる素晴らしい宝だ。
「さあ、これを頭に乗せてごらんなさい」
ルヴィアナに近づくと彼女の頭の上にティアラを乗せようとする。
すかさずルヴィアナがその手をつかんで言った。
「ですが…王妃様。無理なんです。そんな事は出来ないんです。私は…国王の娘らしいのです。だから殿下との結婚は無理なんです」
ルヴィアナは思わずクレアの手をつかんでいた。
彼女の考えていることが脳内に流れ込んで来る。
”まあ、何を言っているのよ。あなたにはディミトリーの妻と言う座をあげると言ってるのよ。大体ニコライの娘と分かっていたら、もっと早く別の令嬢を婚約者にしていたのに、でも遺言状がある以上こうするしかないわ。まあ、それにディミトリーはニコライの本当の子供でもないから、これで帳尻が会うと言えばあうわね。ルヴィアナと結婚すれば王家の血筋も引き継がれるということだもの。これですべてうまく行くわ。早くディミトリーを王位につけてしまわなければ…これでやっとカルバロスにも運が向いてくるというものです。レントワールばかり鉱山や魔石で豊かなのは不平等ですもの。後は予定通りパトリスがこの国に攻め入って来ればいいのですから…”
「エッ!うそですよね?」
思わず声が漏れる。
「何を言ってるのですルヴィアナ?」
「いえ、何でも…」
ルヴィアナはあまりの恐ろしさに体がプルリと震える。
そして脳内でさっきの話が再生されるととっさに聞いてしまう。
「王妃?殿下は国王のお子ではないのですか?それにカルバロスが攻め入って来るとはどういうことです?そんな事を考えていらしたのですか…だれか」
ルヴィアナはまずいと思った。
すぐに向きを変えて王妃の部屋から逃げ出そうとした。
「今のはどういう意味です?私がそのような事…どうしてあなたに…?」
クレアは訳の分からないままルヴィアナを力いっぱい引き寄せた。
そのまま首に手を掛けられて羽交い絞めにされる。
王妃はこれでも武芸をたしなんでいるらしく剣や馬術にもたけており、護身術も身につけている。
「はなして…く、るし……」
あっという間に手首を王妃が身に着けていたスカーフのようなもので縛られた。声を出そうとするが恐怖で喉が張り付いたようになって思うように声が出せない。
それに出せたところで王妃がかまうなとでも言えば誰も入ってこないだろう。
王妃は急いで立ち上がると何かを取り出した。
「あなたを可愛がろうと思っていたのに残念だわ。さあ、これを飲みなさい」
「いやです。私を離してここから逃がしてください。もうここには戻りません。だから…いや。いやです!」
ルヴィアナは首を左右に振って王妃が飲まそうとする丸薬を拒む。
「いい加減諦めなさい」
王妃がルヴィアナの上に馬乗りになって鼻をふさぐ、息が出来なけければ口を開けるしかない。
ルヴィアナは出来る限り呼吸を我慢するがとうとう口を開いてしまう。
その隙に丸薬が口の中に入れられる。そして無理やりカップのお茶を流し込まれる。
ごぼごぼ水が流し込まれて謎の丸薬はルヴィアナの胃の中に流れ込んで行った。
しばらくしてルヴィアナの呼吸がひどく乱れ始めた。
喉が痙攣したようになり息が吸い込めない。苦しくて喉をかきむしるが次第に意識が遠のいて聞く。
ルヴィアナはとうとう床に倒れ込んだ。
走馬灯のようにこれまでの事が脳を駆け巡る。
ルヴィアナに転生して何とか頑張ろうと思った日もあったわ。
ディミトリーに裏切られてあの時は辛かった。
国王にもひどい目に遭わされました。
それでもランフォード様を救いたいと頑張ったのに。
お母様ももっと早く本当の事を言ってくれればよかったのに。
そして最後に王妃のひどい裏切りなんて…
ああ、ランフォード様今どこに?
そして最後にランフォードの顔が浮かんだ。
今もあなたを心配しています。
でも、でも、もしかしてランフォード様もう二度と戻って来られないつもりなのでは?
ルヴィアナの心が張り裂けそうになる。
薄れゆく意識の中で最期に見たのは王妃が見せたくれたティアラと王妃の薄ら笑いを浮かべた顔だった。
どうしてこんな事に……
私、もう本当に疲れましたわ。
ずっと持っていた希望に、ぐさりとナイフが入るかのようにルヴィアナの心の中は切り裂かれた。
そしてルヴィアナの美しいアメジスト色の瞳は閉じられた。
「誰か来て!」
ドアの外に立っていた見張りの近衛兵が慌てて入って来る。
「近衛兵大変です。ルヴィアナが倒れました。すぐに医者を呼びなさい」
「はい、すぐに」
そしてルヴィアナは昏睡状態に陥る。
ルヴィアナは意識を取り戻さず目を開くことはなかったが息はしていて生きている事だけは確かだった。
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