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35.はじめてのはなし
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ああ……なんてこと、またみんなが盛り上がるわ。
だって、今もう私たちの一挙一足に目が釘付け! だもの。
そして、シリルは私の手を恭しくとって口付けた。
みんな、息を呑んでしまっているわ。
シリルは楽しそうな、悪戯な笑顔で私の手を引いて立たせ、抱きついた。
「し、シリル……っ」
ぎゅっと抱きしめながら髪に指を差し入れる。み、みなさんに見せつけでもしているの!?
「僕は、かわいい妻が……もう、離せそうになくて。今日はこれで失礼することをお許しください」
水を打ったような静けさ……から。
魔法が解けたみたいに、みんな一気に反応を取り戻す。
「あらああああ!」
「最高ですわあああ!!」
「キャアアアアアアア!!」
「ご褒美ですわよ!! ああっ! 生きていてよかったですわ!!」
大袈裟よ! たかだか……抱擁で。
みんな大いにシリルを支持して「どうぞどうぞお帰りになって」と興奮していた。
私がいなくなった後のお茶会が目に浮かぶようよ……。
(また、次にお茶会に出てくるの、気が重いわ……)
帰る馬車の中でシリルを睨んだ。
なんの威力もないみたい。彼は笑って受け流す。
「怒らないで、ペンネ夫人から貰ってきたお茶のことがあったから。様子を見たかったんだ」
「あ、あれは……しかたなかったの」
「うん、君は知らなかったものね」
みんなは理解していただけに、手痛い。
「しかし君はすごいな。お茶会の面々……社交界の女帝に、元締め集団だ。怖い人ばかりじゃないか」
「ええ? みんな、いい人だけど」
シリルが、怖いというなんて。わからないわ。シリルが誰かに臆するということが、意外。
「あのご婦人方に逆らおうものなら、翌日から社交界で冷ややかな目にあうこと間違いなし、裏でどこまで噂をされるかもわからない……」
「みんなそんな影響力ないわよ。たのしくお茶会しているだけだし」
「そのなかで君は可愛がられているから“楽しくお茶会”になるんだよ。呑気というか……すごい人たらしというか」
「シリルも大袈裟ね」
シリルが、私の手に唇を寄せる。
「そういってのけるところが、君がかわいい人な証拠だよ」
シリルが、目を細めて私を見る。
「……僕の奥さん」
「あ、あの……シリル!!」
馬車が停まる。家に着いた。
なのに、シリルは私を抱え上げ、夫婦の寝室から私たち専用の浴室まで運んでしまった。
「今日は、いっしょにお風呂にしよう?」
「う……うん」
つい、即了解しちゃった。
だって……湯気のなか水に濡れたシリルは、格別の色気があるから。眺められる機会は逃したくない。
着衣を脱ぎ、使用人が用意していたらしきお湯に二人して浸かる。
(やっぱりシリルは、かっこいい……)
締まって無駄なところのない筋肉の流れ。しなやかな身体を明るいところでみると、ため息が出てくる。
感嘆していると、シリルが水音を立てて私を後ろから抱きしめた。
「ねえ、ダリア。今日お茶会の話を、ほとんどきいていたんだけど」
「ええ!? き、聞いていたの」
「うん。どんな話をしているのだろうと、しばらく姿を見せないようにして」
あの会話を……?
私がシリルと閨を充実させているとか、シリルの夜の腕前とかいう猥談を……!?
「どうしたの?」
シリル……私の慌てぶりを楽しんでいるみたい。ひどいわ。
「だって……あんな話。そ、それに……その」
「うん?」
「みんな、シリルが経験豊富そうって言っていた、けど」
「……そう?」
「う、うん……だって、シリルはいつも、あんな……子づくりを……っ」
シリルが、ふっと、やさしく息を吐く。
「前も、君は僕に言っていたね……経験豊富だとか、どれだけ女性を抱いてきたんだ、みたいなこと」
「う……だって、そう、噂が」
シリルが、私の胸の前でぐっと、手を組んだ。
「僕だけど……はじめては、君だからね」
「…………え?」
言われたことが、すんなり入ってこないわ。
私が……初めてって言った?
「君が最初、それに、最後だ」
「え? え?」
シリルが、肩をすくめながら教えてくれる。
「君の初めてのとき、僕だって初めてだった。君の中に入って、君で女性を知ったとき、気持ち良さで……なにもかも忘れかけたほどだった」
「えええ!?」
そういえば……はじめてのとき、シリルはひと時、快楽に浸った様子があったっけ……?
「でも、すごい、うまくて……」
「君にそう思ってもらえたのなら成功だな」
「あれで、はじめて……」
「叡星の加護があるから、君の反応を完璧に捉えられたんだ」
「ええ……!?」
「君のいいところを、正確に学習して。君にだけ、特化した技巧の男になったんだよ」
「!!!」
な、なんてとんでもないことを言うの。
まさか、シリルが……私としか夜を共にしたことがなかったなんて。その上で、あんな……あれは私だけに?
「ダリア……僕たちは、ずっと二人で覚えてきてたんだよ?」
「うそ……」
じゃあなんで、叡星の男はスゴイとか噂が出るの!?
私の動揺を読み取ったみたい、シリルはきまり悪そうに答えてくれる。
「僕の前代の父や、祖父も叡星の加護の男だったわけだからね。何代か前の先祖は、この力を使い女性で放蕩したと話も聞くよ」
そういうこと!?
ほんとの、本当に、シリルは……私だけ。
はじめから、私だけのシリルだったの……?
「お互い、ほかなんて知らなくていいと思わない? 僕は幸せだよ。一生、ダリアだけがいい」
「う、うん……?」
私……私も、シリルだけがいい。
「そろそろ、上がろうか。君だけの僕を、味わってほしいな」
「……うん……!」
のぼせたのかしら、ベッドに入る前から頭に血が上った感じがする。
水気をタオルに吸わせて、服を着ないままシリルにベッドへ誘導された。
「おいで……」
ああ、抗いようがないわ。
ライラックの瞳に吸い寄せられて、私はシリルが広げた腕の中に、そっと収まる。
シトラスとグリーンアップルの、石鹸とシリルの香りがする。
私は、私だけの甘いシリルに身を委ね、痺れるような官能から逃れられず、彼に没頭していった。
だって、今もう私たちの一挙一足に目が釘付け! だもの。
そして、シリルは私の手を恭しくとって口付けた。
みんな、息を呑んでしまっているわ。
シリルは楽しそうな、悪戯な笑顔で私の手を引いて立たせ、抱きついた。
「し、シリル……っ」
ぎゅっと抱きしめながら髪に指を差し入れる。み、みなさんに見せつけでもしているの!?
「僕は、かわいい妻が……もう、離せそうになくて。今日はこれで失礼することをお許しください」
水を打ったような静けさ……から。
魔法が解けたみたいに、みんな一気に反応を取り戻す。
「あらああああ!」
「最高ですわあああ!!」
「キャアアアアアアア!!」
「ご褒美ですわよ!! ああっ! 生きていてよかったですわ!!」
大袈裟よ! たかだか……抱擁で。
みんな大いにシリルを支持して「どうぞどうぞお帰りになって」と興奮していた。
私がいなくなった後のお茶会が目に浮かぶようよ……。
(また、次にお茶会に出てくるの、気が重いわ……)
帰る馬車の中でシリルを睨んだ。
なんの威力もないみたい。彼は笑って受け流す。
「怒らないで、ペンネ夫人から貰ってきたお茶のことがあったから。様子を見たかったんだ」
「あ、あれは……しかたなかったの」
「うん、君は知らなかったものね」
みんなは理解していただけに、手痛い。
「しかし君はすごいな。お茶会の面々……社交界の女帝に、元締め集団だ。怖い人ばかりじゃないか」
「ええ? みんな、いい人だけど」
シリルが、怖いというなんて。わからないわ。シリルが誰かに臆するということが、意外。
「あのご婦人方に逆らおうものなら、翌日から社交界で冷ややかな目にあうこと間違いなし、裏でどこまで噂をされるかもわからない……」
「みんなそんな影響力ないわよ。たのしくお茶会しているだけだし」
「そのなかで君は可愛がられているから“楽しくお茶会”になるんだよ。呑気というか……すごい人たらしというか」
「シリルも大袈裟ね」
シリルが、私の手に唇を寄せる。
「そういってのけるところが、君がかわいい人な証拠だよ」
シリルが、目を細めて私を見る。
「……僕の奥さん」
「あ、あの……シリル!!」
馬車が停まる。家に着いた。
なのに、シリルは私を抱え上げ、夫婦の寝室から私たち専用の浴室まで運んでしまった。
「今日は、いっしょにお風呂にしよう?」
「う……うん」
つい、即了解しちゃった。
だって……湯気のなか水に濡れたシリルは、格別の色気があるから。眺められる機会は逃したくない。
着衣を脱ぎ、使用人が用意していたらしきお湯に二人して浸かる。
(やっぱりシリルは、かっこいい……)
締まって無駄なところのない筋肉の流れ。しなやかな身体を明るいところでみると、ため息が出てくる。
感嘆していると、シリルが水音を立てて私を後ろから抱きしめた。
「ねえ、ダリア。今日お茶会の話を、ほとんどきいていたんだけど」
「ええ!? き、聞いていたの」
「うん。どんな話をしているのだろうと、しばらく姿を見せないようにして」
あの会話を……?
私がシリルと閨を充実させているとか、シリルの夜の腕前とかいう猥談を……!?
「どうしたの?」
シリル……私の慌てぶりを楽しんでいるみたい。ひどいわ。
「だって……あんな話。そ、それに……その」
「うん?」
「みんな、シリルが経験豊富そうって言っていた、けど」
「……そう?」
「う、うん……だって、シリルはいつも、あんな……子づくりを……っ」
シリルが、ふっと、やさしく息を吐く。
「前も、君は僕に言っていたね……経験豊富だとか、どれだけ女性を抱いてきたんだ、みたいなこと」
「う……だって、そう、噂が」
シリルが、私の胸の前でぐっと、手を組んだ。
「僕だけど……はじめては、君だからね」
「…………え?」
言われたことが、すんなり入ってこないわ。
私が……初めてって言った?
「君が最初、それに、最後だ」
「え? え?」
シリルが、肩をすくめながら教えてくれる。
「君の初めてのとき、僕だって初めてだった。君の中に入って、君で女性を知ったとき、気持ち良さで……なにもかも忘れかけたほどだった」
「えええ!?」
そういえば……はじめてのとき、シリルはひと時、快楽に浸った様子があったっけ……?
「でも、すごい、うまくて……」
「君にそう思ってもらえたのなら成功だな」
「あれで、はじめて……」
「叡星の加護があるから、君の反応を完璧に捉えられたんだ」
「ええ……!?」
「君のいいところを、正確に学習して。君にだけ、特化した技巧の男になったんだよ」
「!!!」
な、なんてとんでもないことを言うの。
まさか、シリルが……私としか夜を共にしたことがなかったなんて。その上で、あんな……あれは私だけに?
「ダリア……僕たちは、ずっと二人で覚えてきてたんだよ?」
「うそ……」
じゃあなんで、叡星の男はスゴイとか噂が出るの!?
私の動揺を読み取ったみたい、シリルはきまり悪そうに答えてくれる。
「僕の前代の父や、祖父も叡星の加護の男だったわけだからね。何代か前の先祖は、この力を使い女性で放蕩したと話も聞くよ」
そういうこと!?
ほんとの、本当に、シリルは……私だけ。
はじめから、私だけのシリルだったの……?
「お互い、ほかなんて知らなくていいと思わない? 僕は幸せだよ。一生、ダリアだけがいい」
「う、うん……?」
私……私も、シリルだけがいい。
「そろそろ、上がろうか。君だけの僕を、味わってほしいな」
「……うん……!」
のぼせたのかしら、ベッドに入る前から頭に血が上った感じがする。
水気をタオルに吸わせて、服を着ないままシリルにベッドへ誘導された。
「おいで……」
ああ、抗いようがないわ。
ライラックの瞳に吸い寄せられて、私はシリルが広げた腕の中に、そっと収まる。
シトラスとグリーンアップルの、石鹸とシリルの香りがする。
私は、私だけの甘いシリルに身を委ね、痺れるような官能から逃れられず、彼に没頭していった。
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