37 / 47
36. 水辺に芽吹く
しおりを挟む
豊かな緑に囲まれた湖岸に立ち、私は髪を抑えた。
放っておくと、風でなびいて鬱陶しい。
この風も。どことなく錆のような臭いを含んでおり、下方の湖は赤茶けていた。
岸辺に落ちる石も湖水の色に染まっている。その異様に、私は目をしかめた。
「この湖の水が……」
「完全に、毒ですね!」
アルジェンの調子は明るい。人のいる土地なのだから、もっと……言い方というものが、ないかしら。
いつもの溌剌さを丸ごとここまで持ってきたのね。
このまま「でもわたしならこの水だって飲めますので!」くらい言って飲み始めそう。
そうなる前に話題を変えたい、私は彼女に問いかける。
「アルジェンは、今回のお話、重荷に感じていないの?」
「ぜんっぜん。サムが、私を信じて任せてくれるから。それに、前回と違って今回はダリアもいてくれるんですから!」
「ええ、私も、サムも……それにシリルだってついてきているから」
「それ! シリル様は……ダリアを放っておけないんですから!」
口元に手を当てて、ウシシと笑われた。
アルジェンにまで冷やかされて、参ってしまうわ。シリルったら、もう!
˚˙༓࿇༓˙˚
今回、私たちが汚染された湖に向かったのは、国王からの思いつきからだった。
「アルジェン聖女化計画の一環として、王都からほどないところにある毒湖の浄化をしてもらおうと思う!」
シリルを伴い行儀作法の授業に乱入して国王は、遠慮なく自分の発案を披露した。
とうのアルジェンは激しく手を打ち鳴らす。
「ヒュー! いいですねサム!」
「だろう? アルジェン! 今回は、敵がいるわけでもない。将軍ルートには入らないはずだ!」
「やった! 回避! 回避ですぞ!」
このやりとりに、シリルが冷ややかに指摘を入れる。
「で、どうやって湖の浄化なんかするの? アテはあるの?」
「ないっす!」
「…………」
シリルが、微笑む。目だけ蔑みきった冷たさで。
その沈黙を取り繕いたかったのか、アルジェンは拳を握った。
「ただ湖の汚染を前に無力を嘆くより、行動こそが大事だと思って!!」
「それは立派な心がけだけど、君、何ができるの?」
「ガッツです!!」
「…………ごめん、知ってたや……」
シリルの笑顔はついに引き攣っていたけれど、国王は目に入っていない。アルジェンを激励する。
「よく言ったぞ! アルジェン!!」
「サンヴルタン……君は本気? 本気でこの子、派遣するの……?」
「アルジェンなら!! やってくれる!!!!」
「本気なんだ……」
シリルはもう隠さずうろんな顔つきをしていた。
アルジェンが何かするというなら、私は今度こそ力になりたい。
だから。
「国王陛下、私もアルジェンについて行っていいですか?」
「ええ!?」
私の発言に、シリルの驚きの声がつづいた。けれどシリルに構わず、国王は深々頷く。
「ダリア殿がついてくれるというなら、安心だ!」
「ダリア!! ありがとうございます! わたし! 心強く聖女になれます!!」
「それだけで聖女になれる気!? 冗談じゃない!! ダリアをそんなワケわかんない用件に行かせるくらいなら……僕も行く!」
「シリル!?」
シリルの剣幕に、びっくりよ……。
アルジェンだけ行くという話のときは無関心そうだったのに、今はどんなに仕事の都合をつけてでもぜったい来るという気迫で漲っている。
「じゃあ、いっそみんなで行くか!」
「サムも!? おおごとになってきましたね! わたし一人でもやるつもりでしたが、いいんですか? みんな?」
国王までって、来られるのかしら?
でも、前回が前回だったから……。
私の思ったことを、隣のシリルがこっそり漏らす。
「前回、アルジェン一人で行かせた結果が、あのザマだったからね……」
「ねえ……」
アルジェンと国王は聞いていない。二人で意気を大いに高めている。
「お前の聖女ぶり、今度こそ認められるぞ!! はっはっは!!」
「まかせてくださいサム! 前回は少し逸れただけ、でも今回はド真ん中をブチ抜きましょう!!」
ああ、シリルがすごく苦々しく、微笑みを顔に貼り付けている。
「そのブチ抜くとかいう発想が、聖女から遠ざけるんだよ」って呟いてるけど、肝心な人に届いていないわ。
国王とアルジェンは肩を組んで楽しそうに小躍りしている。
たしかに、この二人の相手は……大変ね、シリル。
放っておくと、風でなびいて鬱陶しい。
この風も。どことなく錆のような臭いを含んでおり、下方の湖は赤茶けていた。
岸辺に落ちる石も湖水の色に染まっている。その異様に、私は目をしかめた。
「この湖の水が……」
「完全に、毒ですね!」
アルジェンの調子は明るい。人のいる土地なのだから、もっと……言い方というものが、ないかしら。
いつもの溌剌さを丸ごとここまで持ってきたのね。
このまま「でもわたしならこの水だって飲めますので!」くらい言って飲み始めそう。
そうなる前に話題を変えたい、私は彼女に問いかける。
「アルジェンは、今回のお話、重荷に感じていないの?」
「ぜんっぜん。サムが、私を信じて任せてくれるから。それに、前回と違って今回はダリアもいてくれるんですから!」
「ええ、私も、サムも……それにシリルだってついてきているから」
「それ! シリル様は……ダリアを放っておけないんですから!」
口元に手を当てて、ウシシと笑われた。
アルジェンにまで冷やかされて、参ってしまうわ。シリルったら、もう!
˚˙༓࿇༓˙˚
今回、私たちが汚染された湖に向かったのは、国王からの思いつきからだった。
「アルジェン聖女化計画の一環として、王都からほどないところにある毒湖の浄化をしてもらおうと思う!」
シリルを伴い行儀作法の授業に乱入して国王は、遠慮なく自分の発案を披露した。
とうのアルジェンは激しく手を打ち鳴らす。
「ヒュー! いいですねサム!」
「だろう? アルジェン! 今回は、敵がいるわけでもない。将軍ルートには入らないはずだ!」
「やった! 回避! 回避ですぞ!」
このやりとりに、シリルが冷ややかに指摘を入れる。
「で、どうやって湖の浄化なんかするの? アテはあるの?」
「ないっす!」
「…………」
シリルが、微笑む。目だけ蔑みきった冷たさで。
その沈黙を取り繕いたかったのか、アルジェンは拳を握った。
「ただ湖の汚染を前に無力を嘆くより、行動こそが大事だと思って!!」
「それは立派な心がけだけど、君、何ができるの?」
「ガッツです!!」
「…………ごめん、知ってたや……」
シリルの笑顔はついに引き攣っていたけれど、国王は目に入っていない。アルジェンを激励する。
「よく言ったぞ! アルジェン!!」
「サンヴルタン……君は本気? 本気でこの子、派遣するの……?」
「アルジェンなら!! やってくれる!!!!」
「本気なんだ……」
シリルはもう隠さずうろんな顔つきをしていた。
アルジェンが何かするというなら、私は今度こそ力になりたい。
だから。
「国王陛下、私もアルジェンについて行っていいですか?」
「ええ!?」
私の発言に、シリルの驚きの声がつづいた。けれどシリルに構わず、国王は深々頷く。
「ダリア殿がついてくれるというなら、安心だ!」
「ダリア!! ありがとうございます! わたし! 心強く聖女になれます!!」
「それだけで聖女になれる気!? 冗談じゃない!! ダリアをそんなワケわかんない用件に行かせるくらいなら……僕も行く!」
「シリル!?」
シリルの剣幕に、びっくりよ……。
アルジェンだけ行くという話のときは無関心そうだったのに、今はどんなに仕事の都合をつけてでもぜったい来るという気迫で漲っている。
「じゃあ、いっそみんなで行くか!」
「サムも!? おおごとになってきましたね! わたし一人でもやるつもりでしたが、いいんですか? みんな?」
国王までって、来られるのかしら?
でも、前回が前回だったから……。
私の思ったことを、隣のシリルがこっそり漏らす。
「前回、アルジェン一人で行かせた結果が、あのザマだったからね……」
「ねえ……」
アルジェンと国王は聞いていない。二人で意気を大いに高めている。
「お前の聖女ぶり、今度こそ認められるぞ!! はっはっは!!」
「まかせてくださいサム! 前回は少し逸れただけ、でも今回はド真ん中をブチ抜きましょう!!」
ああ、シリルがすごく苦々しく、微笑みを顔に貼り付けている。
「そのブチ抜くとかいう発想が、聖女から遠ざけるんだよ」って呟いてるけど、肝心な人に届いていないわ。
国王とアルジェンは肩を組んで楽しそうに小躍りしている。
たしかに、この二人の相手は……大変ね、シリル。
108
あなたにおすすめの小説
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました
ラム猫
恋愛
セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。
ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
※全部で四話になります。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる