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07.父親は、イケオジだった……。

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「はー……」

 私は着替えて泣きはらした顔を洗い、水で冷やし、水を飲み、リビングのテーブルにコップを置き、一息ついた。

「……お母さん、あと帰ってないの誰?」

 なんとなく、まだ兄弟はいるのか……家族構成がわからないので、探りを入れるようなそんな質問を対面キッチンで晩御飯を作っている美女母に問う。

「あと誰って……パパだけでしょ。本当にどうしたの……」

 美女母は困惑した顔をしている。
 ははは、申し訳ない。中身は彩衣ちゃんじゃないんでね。

 ということは4人家族の父母兄私……ってことか。ペットもいないようだし……お父さんどんな人かなー……。

 そう思っていると、美女母がほら、並べて!と、夕飯を渡してきた。
 今日は、カレーらしい。
 さっきからいい香りはしていたが。

「パパは少し遅れるから、先に食べましょ。」

 と、美女母が言って、ソファにいた兄もテーブルにやってくる。
 いただきます。
 と、三人で手を合わせ、綺麗に盛り付けられたサラダとおいしいスープと一緒にカレーを食す。

 その間中、ずっと隣から兄がにこにこと嬉しそうに笑顔で話しかけてきていた。
 うん、これはうざいな。

 私が適当に相槌を打ちながら食べていると、玄関からガチャガチャと鍵を開ける音がした。
 そして、開く音がする。

「あら、パパ帰ってきたのね。」

 美女母が立ち上がる。
 おお、父とご対面だ。

 ん?ちょっと待てよ。
 この世界の父っていうと……

 と、思ったその時だった。

 美女母が迎えに行って開きっぱなしだったリビングの扉から入ってきたのは……


「おお、彩衣。なんか今日、様子がおかしいんだって?」


 私は一瞬硬直して、持っていたカレーを乗せたスプーンがカターンと、テーブルに落ちた。



「イケオジーーーーーーーーーーー!!!!!!」



 そして叫びながら両手を顔に当て、仰け反った。


 リビングが、しんっ……と静まり返る……。
 私はハッとした。


「あ!ご、ごめん!ごめんね!!!なんでもない!!!あ、カレーこぼしちゃった!ふきん!ふきん!」

 慌てて私は立ち上がり、ふきんを持ち流しへと向かう。


 そう、そうなのだ……この世界の住人はみんな、イラストレーター、ユキ。先生のキャラクターなのだ。
 だから、私……彩衣の父も、ゲームには出ていないが、ユキ。先生のキャラクターデザインで……

 つまりはスーツを来た、40代の白髪混じりの渋いイケオジなのだ。


(ちょっと待って待って待って……!私がイケオジ大好物と知っての所業か!!!!!!)


 私は流しの前でしゃがみこみながら真っ赤になりながら心の中で叫ぶ。

 私はイケオジ……素敵なオジサマやおっさんが大好物だ。
 だが、それらの乙女ゲーが存在しないし、若い男子もいけるので、普通の乙女ゲーもプレイしている。
 普通の乙女ゲーにも攻略不可だがイケオジ出るしね!

 そう思った時、私はふとあるキャラを思い出した。


九五きゅうごさん!!!!)


 そう、神薙くんのお父さんだ。


(九五さんもいるんだよね!!??攻略不可キャラでくやしいい!ってなってたけど、会えるんだよね!!マジですか!!!ちょ、神社!!!神社通わなきゃ!!!!いや!会えない!!無理!!!死んじゃう!!!!)


 私がふきんを握り締めながらずっとしゃがみこんでると……

「彩衣?本当に今日は調子悪そうだな……どうした?」

「ヒッ!」

 頭上からイケオジボイスが聞こえて、思わずそんな悲鳴を上げてしまった。


 いけない……私はいい加減、このユキ。先生のイケメンワールドになれなくては……。


 大きく息を吸い吐き出す。
 そして立ち上がった。

 恐る恐る父親……彩衣の父親の顔を見る。

(うわぁ……イケオジだぁ~……顔がにやける……)

 私はぐっと表情筋をこらえて、そして笑顔を作り言う。


「お父さん……私ね、今日ちょっと思うところがあって、ママのこともお母さん、兄貴のこともお兄ちゃん、パパ……のこともお父さんって呼ぶことにしたの。よろしくね。それで、しばらく様子おかしいと思うんだけど、大丈夫だから心配しないで!体は問題ないし、何かあったとかもないし!ね!」


「……そうか……彩衣も一つ大人になろうとしているんだな……」



 イケオジはふっと笑う。



 だーかーらーやーめーろーよーーーーーー!!!!!!!!!



 私はまたもやガクガクとしゃがみこみそうになるのを必死に耐えて、痙攣する笑顔を作り続けた。




 イケオジの破壊力はんぱない!!



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