紺碧の精霊使い

たたたかし

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1章-追放冒険者

2.侮蔑

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 あれから一年が過ぎた。

 ギルファスのパーティに追放されてから一年だ。

 追放されてからすぐの二日は宿で塞ぎ込んでいたが生きるのに金が必要な以上塞ぎ込んでも居られなかった。

 一応五年の間に一人で稼いだ金はあったがその金で持つのは半年程だと記憶しているので早急に仕事にありつきたかった。

 しかし、眼に大きな傷を負っていて眼が見えない人間を雇ってくれる人などいなく、結局は冒険者として働くことになったのだ。

 一年がたった今ではとうに五年貯めた金も使い果たし、その日暮らしの生活を続けていた。


***


「おい、ゴミが来たぜ!」

「あぁ、ゴミのせいでなんだか一気にここが臭くなったぞ」

 スイが冒険者ギルドの館内へ入ると、そこにいた全員がスイの方へ顔を向け、ヒソヒソと話声を上げる。

 スイの服装は六年前からほとんど変わっていない。

 かつてギルファスに与えられた白い布で作られたぶかぶかの服はスイの成長により、今では布がほつれていたり、ところどころに穴が開いていたし、白かった布は使い古した雑巾のような濁った灰色をしていた。

 ズボンや靴は何度か変えてもらっていたが、服と現状はそうは変わらない。

 いくら洗っていても六年という時間はそれほどの年季を感じさせた。

 それに加えてスイは湯浴みというものをした記憶が無い。
 洗うとしても冷たい井戸水を被り体を軽くこするだけ。

 スイにとって厳しい冒険で付着した泥や汚れを落としきるにはそれだけでは不可能だった。

 服や体からは異臭を放ち、爪や肌は泥で薄汚れている。

 まるで犯罪を犯し、鉱山送りにされた奴隷。
 街の至る所で投棄された醜悪な匂いを放つゴミ。

 故にギルドの冒険者の間ではスイの事を侮蔑や嘲笑を込めて『ゴミ』と呼ぶ。

 スイ自身も自分が『ゴミ』と呼ばれ、蔑まれている事は知っている。
 その眼で自分がどれだけ酷い姿をしているか確認などせずとも、人が発する声で相手が自分に向けてくる感情はどんなに鈍感な朴念仁でも気付くことができるほど周りがスイに向ける感情は激しく侮蔑を含んでいた。

 向けられる強烈な蔑む視線を気にも留めないで、今日も今日とて変わる事なくボロボロの奴隷のような格好で受付へと足を運ぶ。

「おはようございます。ルマリアさん」

「スイさん。おはようございます!」

 元気よく返ってきた声の主はルマリアといってスイに出来る数少ない依頼を紹介してくれる受付の女性だ。
 ルマリアは半年ほど前にギルド受付になった新人の受付嬢だった。
 この一年、冒険者ギルドでも依頼書が見えないスイを迷惑に思う者がほとんどで誰もまともな応対はしてくれなかったが、ルマリアだけはスイに対しても他の冒険者と同様に扱っていた。眼の見えないスイに配慮しているのだから寧ろ特別扱いとも言えるだろう。

「今日も依頼を受けに来ました。僕に出来そうな依頼があったら紹介してもらってもいいですか?」

「はい。ございますよ!まずはいつもの薬草採取ですね。スイさんのアオバの採取は間違いがありませんから!」

 アオバは薬草と呼ばれる草の一つで傷を癒す薬になると呼ばれている薬草だ。
 アオバは魔力を帯びているのでスイが採取できる植物の一つだ。
 アオバと似たアオバモドキと呼ばれる雑草も存在するみたいだがそれには魔力が無いので、魔力でものを認識しているスイにとって薬草採取は確実な仕事だった。

「あとは最近ゴブリンがよく出現するそうなのでゴブリンの討伐依頼が出されてます。一匹につき1000メダですね!これは受ける受けないにしても、討伐証明の右足を提出してくだされば報酬を支払います!」

 ゴブリンは森に現れる魔物で手足が短い生き物。頭も力もそんなに良くないが繁殖力が高いので時折大量発生する。
 大量発生したゴブリンは冒険者にとっていいこずかい稼ぎになるのだ。

「紹介できる依頼はこの二つですね」

「薬草採取とゴブリンの討伐どちらともやります」

 考える間も無く二つの依頼を受ける。
 薬草のアオバを取りに行けば、おそらくゴブリンは現れるだろうし、ゴブリンはスイですらも簡単に殺すことができる魔物だからだ。

「わかりました!気をつけて下さいね」

「はい」

 そう言って冒険者ギルドから立ち去ろうとした時だった。

「あ…あの!」

「はい?」

 呼び止めたのはルマリアだった。
 ルマリアの声の方向に振り返り首をかしげる。

「あの、前言ったこと考えてくれました?」

 なにか、緊張したような震えた声でそう聞いてきた。

「前言ったこと…」

 心当たりがある。

 以前ルマリアに提案された事の答えを聞こうとしているのだろう。

 以前こんな事を言われた。

「この街から出てやり直してみないですか?」と。

 理由は簡単。この街ではスイの悪評が凄まじいからだ。

 充分身を綺麗にしているつもりだが周りの冒険者達はスイのことを『ゴミ』と言う。

 スイの悪評はこのミルドラの街では、当たり前のように蔓延っていた。
 ギルファスのパーティから別れると同時に酒場などの飲食店は使えなくなった。

 そんな過酷な環境で過ごすならとルマリアは他の街行きを提案してくれた。

 しかも、昔からのよしみで馬車も手配してくれると言うのだ。

 今までこの街以外の事は頭になかった僕にとって、その提案はその日のうちに飲み込めるものではなかった。
 その日は考えさせてくださいと言ってギルドから出たのを覚えている。

 それを今、再び提案された。

 提案されてから一週間は経っている。

 スイの心は実はもう決まっていた。

 ただ、それを答える勇気がなくて答えることが出来なかった。

 ルマリアさんに迷惑をかけてしまった。

 スイは最大の敬意を払うように頭を下げて言った。

「この依頼を達成したらルマリアさんの提案を受けさせてもらいます。本当にありがとうございます!」

「いえいえ!気にしないでください!私とスイさんの仲じゃないですか!」

 そう言って小さく笑ってくれるルマリアの声はどこか安心したように暖かい声だった。

 その日の依頼はしっかりとアオバを採取して、ゴブリンを二匹葬った。

 その後、依頼達成報酬を受け取ったあと、ルマリアと話し合って僕が街を出るのは一週後と決まった。

 
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