紺碧の精霊使い

たたたかし

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1章-追放冒険者

10.説明

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 スイが頼まれたのはスラフの事務作業の補佐だった。

 スラフの仕事は農場と奴隷の管理なのでそれらの書類をまとめているらしい。
 
 なので、スラフの部屋に入った時に最初に眼についた書類の山の整理をして欲しいらしい。

 何でもスラフは整理が苦手らしく、いつも彼女の上司への書類の情報をまとめた報告書の提出に時間がかかってしまうらしい。
 しかも今回は大麦の収穫時期とも重なってしまい、必要な書類が増えてしまったらしい。

 スイはこれから三日間やる仕事の詳しい内容を聞く事にした。

 すると、スラフから仕事をするにあたって、この街での奴隷についての概要を説明されることになった。

***

 エルシールには街を囲む壁があり、壁の外には、それを囲むように奴隷達が住む場所がある。

 この農場だけでなく、外周には工場や製鉄所があり、そこで絹や毛の織物であったり、金属の部品が奴隷によって製作されている。

 その工場や農場などを取りまとめている人達がいて、その一人がスラフである。

 管理といってもスラフの仕事は農場に使われる備品の管理や収穫高の計算、奴隷達の諍いの仲裁まで幅広い内容がある。
 それらからできた書類を取り纏め、市庁舎と呼ばれる、街の管理を行う施設に報告をするのだ。

 そこでスイは奴隷達の仕事ぶりについて気になった。

 奴隷というのは犯罪を犯したものや借金をしたものなど他にも色々いるのだが、ピンからキリまであると言っても過言ではない。
 借金をした奴隷はいいとして犯罪を犯して奴隷となったものは言うことを聞くのかという疑問が湧く。
 言うことを聞かなければこの仕組みは成り立たない。

 しかし、スイの疑問はスラフの話を聞くうちにすぐに解決した。

 犯罪奴隷というのは犯罪奴隷となった時点で体にある魔力器官を破壊される。
 つまるところ弱体化されるので言うことを聞かなければ犯罪奴隷は生きていけないのである。

 スイ自身の体験だが魔力のあるものと魔力のないものの差は天と地ほど違う。

 次に借金奴隷。
 借金を犯して奴隷となった場合は魔力器官を破壊されずに済む。
 しかし、問題を起こせば犯罪奴隷に落ちて魔力器官を破壊されるので問題を起こすものは少ない。

 しかし、このように鞭だけでは奴隷は働かない。
 飴も用意してある。

 ここで働けば奴隷にも給料が出る。

 借金奴隷ならば、その給料で借金を少しずつ返すこともできるのだ。
 借金を返すことができれば奴隷という身分から解放されることも可能。

 犯罪奴隷には罪の重さに従って無給で働く期間がある。
 しかしその期間を過ぎれば一定額の借金を背負い、借金奴隷になることができる。更に真面目に仕事に従事をすれば無給で働く期間は縮む可能性が出来るのだ。

 よく出来た仕組みだと思う。

 奴隷達からの反乱の芽を摘み、奴隷解放を餌にして仕事にも従事させられるのだ。
 それに食住が保障されているし、定期的に健康診断もするらしい。

 そしてふと思い出した。

(あの三人の少年達は魔力が無かったな)

 農場で少年達に出会った時の事だ。

 スイは一定の範囲内であれば魔力を感じ取ることが出来るのだが、あの三人組からは一切感じずに気付くことが出来なかった。

 それはよしとして、奴隷達と仕事の仕組みについてはよくわかった。

 スラフは監視と管理をする立場の人間だ。

 そしてスイの仕事は奴隷や農場などの書類をタイプごとに分けてスラフに提示する事だ。

 仕事は簡単なのだが…

「しかしいいのでしょうか?こう言う書類を見ず知らずの人に見せてしまっても」

 さっきあったばかりの人間にこう言った情報を見せてもいいのだろうか。
 それも俺が街に入るための仕事という個人的な理由でだ。
 机に積まれた書類をピラピラとはためかせながら心配でスラフに問う。

「いやいや、ここにはそんな重要な内容なんて無いもの。それにもしもスイ君がどこかのスパイだとしたら此処には来ないで市庁舎の方にいくでょう?」

 まあ、確かにそうだ。ここに書かれる書類には、桑が何本か壊れただとか奴隷の誰々と誰々が喧嘩したとかそんな下らない報告ばかりが書かれている。
 仮にこの山積みの書類の中に重要な書類が紛れてたとしても時間がかかる上にこの量だと見落とす場合もある。

 ならばスラフによってまとめられた報告書を市庁舎で盗み見るほうが遥かに速く効率的だろう。

「それに、こんなにどっさりと書類が積まれているのに応援を遣さない薄情な上司より仕事を手伝ってくれるスパイさんの方がいいじゃない」

 そう言って楽しそうに微笑むスラフに妙な高揚感を覚えた。
 それを掻き消すようにスイは早口で喋る。

「しかし、スラフさんみたいな女性が奴隷の管理をしていて大丈夫なんですか?…その襲われたりとか」

「あはは。ないない。私を襲ったとして危なくなるのは襲った側だよ。犯罪奴隷なら私でも対処出来るし、借金奴隷は犯罪奴隷に落ちたくないから襲われない。そもそも私は第三身分だから襲う旨みはないと思うわよ?」

 第三身分…平民を指す言葉。

 世には三つの身分があると言われている。

 王や貴族と言った国を支配する第一身分。

 それを守護する戦士や国の経済を作る商人達の第二身分。

 そしてそれらを享受し繁栄させる平民達の第三身分。

 この身分の中にも差があったり、例外が存在するが、ざっくりと大きく分けるとこの三つの身分に分けられると言われている。

「私、お金もそんな持ってないし、重要な情報を握ってるわけでもなもの」

 スラフはそう言うがそう言う事ではないとスイは声を大にして注意したかったが自分がそれを言う立場ではないので言葉を喉元で引き留めた。

「あら、もう夕方じゃない。説明はこのくらいにして、仕事は明日から三日間。その間は食べ物と住むところは提供するわね。それで大丈夫かしら?」

 確認するように翠玉エメラルドの瞳がこちらへ向く。

 スイとしても異論はないのでそれに承諾して夜を迎える事となった。

 夕飯は下に降りて他の奴隷達と食べた。
 その時にやはりと言うかあの三人組に絡まれた。

 食事中に話を軽く聞いた。

 まずよく喋るガキ大将のような少年の名はソラ。

 赤髪を雑に短く切られた髪型で眼が釣り上がっているのが特徴的だ。
 ソラはこの国の人間ではないみたいで、隣国との小競り合いで捕虜となった者から産まれた子供だ。
 しかし、物心ついた時にはすでに親は居なく、ここで奴隷をしていたらしいのであまり過去について思うところはないみたいだ。

 そして三人の中で唯一の少女の名はミファ。

 長く伸びた黒髪をうまく手入れしているのか綺麗に見える。
 小さい頃親に口減らしのために借金奴隷として売られてここに来たらしい。
 ミファは過去に一度奴隷生活が嫌になって逃亡し、捕まった時に魔力器官を潰されたようだ。

 最後の三人目の少年はシド。

 黒髪長髪で前髪が左目に掛かっている。この三人の中で痩せてはいるが一番体格が大きい。
 シドは孤児で生活のために盗みを繰り返し気付けば犯罪奴隷としてここへ送られたらしい。

 驚いた事にソラとシドの年齢は13歳でミファの年齢は12歳だった事だった。

 三人とも8歳の頃に魔力器官を破壊され、その時に成長が止まってしまったみたいだ。

 それでも彼らはヘタれる事なく強く生きているのだ。

 彼らの夢は奴隷から解放されて冒険者となる事みたいだ。
 外の世界を知らないソラは人伝いに聞いた冒険譚を眼を輝かせながらスイに語ったのだった。

 その話をさかなに少なくて味の薄い夕食を食べ終えると、スラフに三日間泊まる部屋に案内される。

 しばらく誰も使っていないだろうその部屋には藁に布がかぶせられたベッドが一つ置いてあるだけの部屋だった。

「こんな部屋でごめんなさい」

「いえ、ベッドで寝る事自体久しぶりなのでありがたいです」

「っ…!そ、それじゃあ!いい夜を過ごしてね!!」

 スラフは驚いたような悲しいような顔をした。
 その後、バタンとドアを閉めるとギシギシと建物を歩く音が聞こえそれが徐々に遠ざかっていくのがわかる。

 スイは振り返り再び部屋を眺める。

 中は締め切られており、窓が一つあるが、板で閉ざされていて外の空気は入ってこない。

 ベッドからはほんのりとカビの匂いが香る。

 そのベッドに軽く手を触れる。

「『浄化ピュリファイ』」

 そう唱えると、スイの手元はほんのりと光を放ちベッドを光が一瞬包み込む。

 魔法だ。

 スイがハレイと過ごした一年で覚えた魔法の一つ。
浄化ピュリファイ』はそのものに住みつく悪い菌などを滅してくれる魔法であり、スイが最初に覚えた魔法である。

 森生活では毒や虫刺されなどが多い為、必死になって覚えたのだ。

 光が治るとベッドに腰掛ける。
 先ほどのようなカビの匂いは感じられなくなっていた。

「ふぅ…」

 短い息を疲れと共に吐き出す。スイは一日中、頭の上から全く動いていない存在に話をかけた。

「ハレイ」

『…』

「ハレイ??」

『ハレイ、喋らないもん!』

「えぇ、どうして?」

『スイ、ハレイの事、十時間も無視したから!ハレイ喋らないー!』

 どうやらハレイは今までの間ずっと無視されていていじけてしまったみたいだ。

 度々ハレイはスラフと話している間など俺の髪を引っ張ったり、顔を舐めたりとちょっかいをかけてきていたが、全て無視していた。
 無視してやっと静まったかと思ったらいじけていたようだ。

「ごめんな、ハレイ。ハレイは俺以外の奴には見えてないから反応してやれないんだ」

『でも、スイはハレイのこと見えてるしハレイはスイの事見えてるもんー!』

 そう言ってそっぽを向いてしまった。

 これは何言ってもダメかもしれない。

「本当にごめん。こうやってふたりの時になったら話すから許してくれないか?」

『んん~…でもスイはハレイの事を無視してる間はあの女の人にデレデレしてるんでしょ!!だからやだー!』

「デレデレはしてない!緊張してただけだ!」

 初めて女性と言うものを見たら誰しもあぁなるだろう。

『でも、ハレイには一度もあんな顔してなかったもん!』

「いや、流石に…」

『…流石に?』

 流石に掌サイズの少女相手に緊張することなんてないだろ。

 とは言えなかった。

 頭から感じる精霊の気配が言葉を遮らせた。

 俺の中の本能が止めろと警鐘を鳴らしていた。

「さ、流石にいつも一緒にいる存在には緊張なんてしないよなぁ~」

『ふ~ん』

「あー眠い。眠いな。この話は朝しような。おやすみハレイ」

 スイは逃げた。

 寝る事によってハレイの怒りが治ればと淡い期待をしながら眠りに落ちた。

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