二度目の人生は無難に引きこもりたい

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15歳の誕生日に父が言った。

お前の唯一を探し出せ、と。

もし検討がつかなければこちらから候補を出すと。

そう言えば俺は嫡男だった。

妄執にでも取り憑かれた様になっていた自分を心底険悪し、あの日から、クリスティナから離れた方が良いと地方にある魔物の討伐隊に行き、それでもクリスティナの事が気になり、休みの度に彼女を思い出す自分に嫌気がさし、ならばと更に厳しい戦いの前線へ逃げる様に移動願いを出した。

その翌日、父から呼び出された。

「…父上、跡継ぎをウィリアムに変えてください。私は生涯、唯一など必要ない。一人、騎士として生きます」

ウィリアムはまだ10歳だが既に自身の唯一を見つけ出している。あいつは頭も良いし魔力も強い。立派な跡継ぎになるだろう。

「なぜそんな考えになった。騎士に自殺願望を持つ未熟者など不要だ」

低い父の怒声にハッ、と瞬き顔を上げた瞬間、左頬に拳を叩き込まれた。

「…少しは家族の事も考えろ。アレは昨日から泣きっぱなしだ」

「…マックス」

母に幼少期からの愛称で呼ばれ胸が痛んだ。マクシミリアンは切れた口を拭いながらも視線を反らした。

「すいません。ですが、唯一など必要ないし、騎士も辞めません」
「マックス!!」

母の呼び声を背にマクシミリアンは屋敷を出た。

アレに触れたい。姿を少しでも目に映したい。

軋む胸を無視してマクシミリアンは訓練所まで走る。

何かをしなければ、何かをしていなければまたあの子の感触を思い出してしまう。

たったあれだけの、あの一瞬に。

ずっと囚われたままだ。

いや、俺はもうずっと前から彼女に囚われているんだっけ。

魔力を全て使い果たし、体力の全てを使い果たし、漸くマクシミリアンは安堵する。


(アレを捕まえねば。)
(アレは捕まえてはいけない。これだけ力を削げば大丈夫だろう)

相反する想いがマクシミリアンの中に存在する。
しかし、最近身体の成長と共に恐ろしい程に求める想いが、醜いまでの執着が膨らみつつある。
もし、この記憶が無ければ。彼女の存在を知らなければ。
彼女が自分の求める者だと知らなければここまでの感情は持たなかっただろう。


離れなければ。
彼女は何も知らずこの世界を生きているんだ。だから今更俺は彼女の人生に触れるべきでは無い。

俺は知らなかった。騙されていた。
だからあんな事に。あんな悲惨な事に。

そうずっと言い訳をしていた、あの醜い男の記憶。

彼女をズタボロにしたのは、悲惨な目に合わせたのは俺だ。

最後に犯した日だって神殿からの火急の知らせを読んで、でも信じられなくて、信じたくなくて、手放す事が出来なくて…

だからどうか
俺を…
俺を許さないでくれ。


彼女の真実は俺を許すべきではない。

それだけを考えて南の僻地にある魔の森の前線基地に移動の志願書を出した。

公爵家の跡継ぎが最も過酷な前線基地へ移動など有り得ない事だと今更気付く。

だが、俺は何をしようが多少のことでは死なない。

ただ現実から、彼女から逃げているだけ。

それでも、彼女を求める自分は彼女から離れるべきだろう。

はぁ、と掻き揚げた髪は記憶にいた少女と同じ長さになっていた。



───────





「そう言えば、聞きまして?マクシミリアン様のお噂」


ミーナの声に、ん?とクリスティナは思案して首を振る。

「なぁに?何かありました?」
目の前に座っている薄い水色の髪を背に垂らした可愛らしい令嬢は魅力的なピンクの瞳を目いっぱいに見開き「え!?本気でご存知ありませんの?!」と驚愕された。


「………え?前線基地に?ですがマクシミリアン様は公爵家の跡継ぎで、嫡男ですよね…」

クリスティナは言葉を次第に失い、呆然とした。
前線基地とは南の魔の森の入り口だ。
この国の南部は山岳地が多く街を破壊することなど造作もない様な魔物が生息する魔の森が存在する最も危険な地域である。
その前線基地に行った者の半数が大怪我をし前線を離れるか殉職する。なので前線基地に居るもの達の大半が犯罪奴隷である。自ら志願する者も居るが一年持たずに帰還する。
小物の魔物すら餌にする危険な魔物達の討伐軍に、マクシミリアン様がなぜ?と呆然した。



花嫁スクールに15の年で入ったクリスティナは順調に習得科目を増やし後2ヶ月で卒業である。

16歳になれば王族を除く貴族の子息子女は大抵の者が婚約者を探し出す。
魔力量が多い者は皆寿命が長い。クリスティナの祖父母は未だ若々しい外見で、二百歳に差し掛かろうとしているが見た目は二十代のままだ。

魔力量の多い貴族は数百年に及ぶ夫婦生活を送る事になる為、婚約者選びは成人してから慎重に行うのが一般的だ。

様々な学び舎で学び、進路が決まるこの年に皆、婚約を視野に動き出す。
例え遅くとも貴族の血を引く嫡男は30歳までには皆婚約するのが常識である。
ならば前線基地から帰ってから婚約者を探すのだろうか。

ざわめく心に、自分に裏切られた気分になる。それを私が気にしてどうするのだと胸の奥に隠した。

花嫁スクールは魔法の訓練所や騎士学校には興味のない令嬢や泊付の為にと、高位貴族に嫁ぐ事を夢見る令嬢などが多く在籍している。

クリスティナは前回で魔法訓練所のカリキュラムは全て終了していたし、今回はある程度前回の記憶の映像を思い出し、そのほとんどを使える事から花嫁スクールに行って友人作りをしようとこちらの学校に通う事にした。

治癒師になる事はチラリと考えた。
治癒師は様々な人達の助けになる立派な職業だ。
私が、私でも必要とされていると思わせてくれた大切な職業だ。
今の私なら前回以上におおくの人々を、重傷を負った人々を治癒することが出来る気がする。
女神が詫びのつもりなのか以前より膨大な魔力を授けてくれているのはわかっていた。

でも治癒師になって人々を助けようとする自分を想像すると、足が竦む。
前回の記憶に沿うように進むのではと、落ち着かない気分で不安が押し寄せるのだ。

だから、私は前回は興味すらなかったこのスクールに通いだした。


「クリスティナはそろそろ本命を絞れまして?」

ミーナの言葉になんの話だろうと聞き返す。

「…本命?」

「そうそう、クリスティナったらあの氷の貴公子様と風雪の牙と呼ばれるいとこ殿達のどちらかと婚約しないかって言われているのでしょう?」

なんだか大層なあだ名だなぁとテオファンとダグラスを思い浮かべて苦笑いする。
テオファンは今年こそ逃がさないわよ!って叔母様に無理やり見合い攻撃を受けいつも逃げ回っている。けれどいよいよ身の危険を感じたのか、私に「クリスティナ、婚約者になって?」と懇願してきた。拝み倒す様なその言い方からは微塵も惚れられている気がしない。とクリスティナは憤慨した。

なんて失礼な!と鼻の穴が膨らんだのは仕方ないと思う。

だからフッと笑って足を踏んでやった。


ダグラスはその光景を見て兄上でアレならなら俺の場合は更に強引に来る!このままじゃ次の母上の餌食は俺だと言いたげに顔を引き攣らせ、なぜかその顔をギギギとクリスティナに向けてきた。

しかも「クリスティナ、兄上がダメなら俺は?よく聞け、これは人助けだ」とか言いやがったので勿論ダグラスの足も踏んでやった。

兄弟でなんて失礼なの。

「…止めて、今思い出してもムカついてきましたわ」

ムスッとしてミーナの言葉を止めたのに「そう言えば」と周囲の令嬢達が険悪なオーラを纏い集まりだし。

その中の一人、何かとクリスティナを目の敵にしてくる侯爵令嬢のアマンダ・エイナウディが不愉快そうに顔を顰めて聞いてきた。

「…ねぇ?あなたまさかヴィスカルディ様からの婚約の打診なんて、来ていませんわよね?」
「そうですわ!わたくしもその話し、聞いたことがあります!ヴィスカルディ公爵様がファンファーニ伯爵に直接お会いしてお申し込み成されたとか…で?実際どうなのですか!?」

「え?ええ?」

初見である。

驚き首を振るクリスティナ。
とにかく考えるより早く何やら鬼気迫る周囲の令嬢達の表情が怖くて、ひとまず首を振った。

クリスティナは首を振りながら眉を寄せるとピタリと止まり。
ギン!と目を見開き、叫んだ。


「ありえませんわ!なにその冗談!?」

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