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15歳の終わり。
秋の収穫祭のお祭りで下町では敵対派閥の大乱闘が起こり怪我人が続出した。
それはよく有る事だった。
医師達は皆呆れた顔をしながらも不味い回復薬を飲み青い顔をして走り回るのだ。
ああ、今年もご苦労さま。
クリスティナはその光景を移動中に覗き見した。
自分達を好奇心いっぱいに見つめる見物人達の更に向こうで起こっている出来事なのだが、クリスティナはわざわざ見通す魔法を使い、見ていた。
治癒師達の行う行動は以前と同じだな、と眺めながら歩いていたのだ。
しかしクリスティナはその中にマーガレットの姿を見つけ呆気にとられた。
なぜって?彼女は能力の全てを女神が取り上げたと言った通り、この国の貴族の令嬢なのに魔力が殆ど無く、なんの能力も加護も無かったからだ。
力こそ正義、力こそ全て、と考える脳筋寄りのこの国で、それは致命傷だ。
彼女の事は一時期話題に登った。
魔力も少なく、特化属性も加護も無い、飛び抜けた身体能力もスキルも何も無い。
無能令嬢。
それが今のマーガレットの渾名だ。
クリスティナは、苦い顔をして彼女を見つめた。
彼女は下っ端の治癒見習いの服装に身を包んでいる。
マーガレットよりも幼気な治癒師に指示を仰ぎ、忙しなく雑事をこなして居るようだ。
無能令嬢。それは彼女の自業自得だ。
そう思うのに彼女を直視できなかった。
前回だったら前線で活躍していたクリスティナのライバルだった令嬢。
今のマーガレットはなぜあの場に居るのだろうか。
今のマーガレットがあの場に居れば無能と罵られるだけだろう。
もしかしたら、家の中にすら居場所が無いのかも。
様々な憶測が脳裏をよぎった。
彼女は果たして本当に自業自得なのだろうか。
彼女が悪魔に囁かれ、その囁きに頷いた結果、私は陥れられ悲惨な末路を辿った。
けれど、悪魔に囁かれたマーガレットは当時7歳よりも幼い年齢だった可能性が高い。
そんな幼い子が悪魔の誘惑に抗えるとは思えない。彼女に不当な責任を負っているのでは?
「クリスティナ……クリスティナ!?ちょっと大丈夫?目の前!目の前!」
ビリッ…と背後の方で音が鳴り、背中のドレスの生地が引かれた気がした。
「…え?…あっ!!きゃっ!」
ドシン!と地面に尻もちをついたクリスティナに周囲の友人達がガヤガヤと集まり助け起こす。
「どうしたの?大丈夫?」
「……うん、ありがとう」
「引っ張りすぎちゃった。走ったんだけど間に合わなかったわね。ごめんなさい。でも、だから、一生懸命に声をかけたのに」
建物の入り口にある大きな柱にぶつかりかけたクリスティナを必死に引き留めようとしてくれたらしい。
ミーナが私に見えない様にドレスのスカートに隠し右手の指を数本摩っているのが動きで分かった。
「大丈夫?もしかして指を痛めたんじゃない?ちょっと見せて」
ミーナの指を見ながら治癒魔法を発動させ、そっと触れた。
「うん、大丈夫よ。って…あ、あれ?本当に全く痛くないわ。大丈夫みたい」
ミーナが不思議そうにクリスティナを見て、ふと思い出した様に手を打った。
「あ、そうだった。クリスティナは光属性特化だったわね」
「あら、クリスティナ様。そのドレス!まぁぁ!大変!背中の生地が破れてますわよ?!ふふっ、みっともない。
今日は帰られた方が良いんじゃくって?それとも、そのようなはしたない姿を騎士達に晒し、気を引くおつもりなの?」
「あら、スザンヌ様、ご心配ありがとう。でもすぐに元通りになりますので、どうぞご安心なさって」
ミーナの後ろから現れたのはスザンヌ。彼女は可愛らしく、愉悦に顔を歪めクリスティナを見ている。
彼女は、なぜかクリスティナを目の敵にし、度々棘のある言葉を吐くのだが。
クリスティナは前回のマーガレットで耐性が付いたのか、このやり取りも慣れたものだ。
祭りの翌日の今日は他国の騎士達も参加する格闘トーナメントが開催される。
花嫁スクールの生徒達は毎年、女性との出会いが少ない騎士達との出会いの為にと、この行事のお手伝い係に国から任命されている。
今年もスクール生は一人、二枚の手拭いを差し入れとして持参している。
手拭いには端の方に一枚一枚、騎士団のシンボルである、竜と剣の模様を刺繍しており、スクール生は毎年誰に渡すか、で揉めるのだ。
スクール生には高位貴族や王族の伴侶になりたくて花嫁スクールに通う者も少なくない。
高位貴族に嫁げる程の、申し分無い礼儀作法や、自国だけでは無く他国の言語や歴史、情勢など様々な事を学ぶ。
その成果をぶつける晴れ舞台の一つが、この格闘トーナメントの行われる今日、この日なのだ。
他国からも騎士以外に多くの賓客が来ており、美しく着飾った令嬢が案内する事になる為、稀に他国の要人に見初められたりもするそうだ。
格闘トーナメントが行われる闘技場会館はスクールの目と鼻の先の為、歩いて移動しているのだが、派手派手しい集団なので物凄く目立っている。
ちなみにこれもこの催しの一環の中に入っているのでは?と言うほどの恒例となっている。
美しく着飾った貴族の令嬢達が移動する為、一目見ようと人垣が出来、兵士、衛兵が物々しく警備している。
おかげで人々が見守る中、柱に激突した妖精の様に美しく可憐な令嬢の話は瞬く間に知れ渡ってしまうのだが、クリスティナは恥ずかしそうに背中に手を翳し再生魔法でボタンが弾けヒラヒラしていたドレスを元通りに戻し、清浄の魔法で汚れを消した。
認めよう。
焦っていたのだ。
ざわざわと周囲がざわめくがクリスティナは真っ赤になって俯き、そそくさと移動を再開した。
「…っ、再生魔法ですって?嘘、私よりも上位魔法を使えるなんて。」
そんなのダメよ…私よりも目立つじゃない。
スザンヌはその美貌と上位魔法を使える事から、スクールに入るまで自分よりも美しく、自分よりも上位の魔法を使う令嬢と言う者を見たことがなかった。
スザンヌの暗く淀んだ眼差しをマーガレットだけが気づき、野次馬の中から目を逸らさずにじっと見つめていた。
秋の収穫祭のお祭りで下町では敵対派閥の大乱闘が起こり怪我人が続出した。
それはよく有る事だった。
医師達は皆呆れた顔をしながらも不味い回復薬を飲み青い顔をして走り回るのだ。
ああ、今年もご苦労さま。
クリスティナはその光景を移動中に覗き見した。
自分達を好奇心いっぱいに見つめる見物人達の更に向こうで起こっている出来事なのだが、クリスティナはわざわざ見通す魔法を使い、見ていた。
治癒師達の行う行動は以前と同じだな、と眺めながら歩いていたのだ。
しかしクリスティナはその中にマーガレットの姿を見つけ呆気にとられた。
なぜって?彼女は能力の全てを女神が取り上げたと言った通り、この国の貴族の令嬢なのに魔力が殆ど無く、なんの能力も加護も無かったからだ。
力こそ正義、力こそ全て、と考える脳筋寄りのこの国で、それは致命傷だ。
彼女の事は一時期話題に登った。
魔力も少なく、特化属性も加護も無い、飛び抜けた身体能力もスキルも何も無い。
無能令嬢。
それが今のマーガレットの渾名だ。
クリスティナは、苦い顔をして彼女を見つめた。
彼女は下っ端の治癒見習いの服装に身を包んでいる。
マーガレットよりも幼気な治癒師に指示を仰ぎ、忙しなく雑事をこなして居るようだ。
無能令嬢。それは彼女の自業自得だ。
そう思うのに彼女を直視できなかった。
前回だったら前線で活躍していたクリスティナのライバルだった令嬢。
今のマーガレットはなぜあの場に居るのだろうか。
今のマーガレットがあの場に居れば無能と罵られるだけだろう。
もしかしたら、家の中にすら居場所が無いのかも。
様々な憶測が脳裏をよぎった。
彼女は果たして本当に自業自得なのだろうか。
彼女が悪魔に囁かれ、その囁きに頷いた結果、私は陥れられ悲惨な末路を辿った。
けれど、悪魔に囁かれたマーガレットは当時7歳よりも幼い年齢だった可能性が高い。
そんな幼い子が悪魔の誘惑に抗えるとは思えない。彼女に不当な責任を負っているのでは?
「クリスティナ……クリスティナ!?ちょっと大丈夫?目の前!目の前!」
ビリッ…と背後の方で音が鳴り、背中のドレスの生地が引かれた気がした。
「…え?…あっ!!きゃっ!」
ドシン!と地面に尻もちをついたクリスティナに周囲の友人達がガヤガヤと集まり助け起こす。
「どうしたの?大丈夫?」
「……うん、ありがとう」
「引っ張りすぎちゃった。走ったんだけど間に合わなかったわね。ごめんなさい。でも、だから、一生懸命に声をかけたのに」
建物の入り口にある大きな柱にぶつかりかけたクリスティナを必死に引き留めようとしてくれたらしい。
ミーナが私に見えない様にドレスのスカートに隠し右手の指を数本摩っているのが動きで分かった。
「大丈夫?もしかして指を痛めたんじゃない?ちょっと見せて」
ミーナの指を見ながら治癒魔法を発動させ、そっと触れた。
「うん、大丈夫よ。って…あ、あれ?本当に全く痛くないわ。大丈夫みたい」
ミーナが不思議そうにクリスティナを見て、ふと思い出した様に手を打った。
「あ、そうだった。クリスティナは光属性特化だったわね」
「あら、クリスティナ様。そのドレス!まぁぁ!大変!背中の生地が破れてますわよ?!ふふっ、みっともない。
今日は帰られた方が良いんじゃくって?それとも、そのようなはしたない姿を騎士達に晒し、気を引くおつもりなの?」
「あら、スザンヌ様、ご心配ありがとう。でもすぐに元通りになりますので、どうぞご安心なさって」
ミーナの後ろから現れたのはスザンヌ。彼女は可愛らしく、愉悦に顔を歪めクリスティナを見ている。
彼女は、なぜかクリスティナを目の敵にし、度々棘のある言葉を吐くのだが。
クリスティナは前回のマーガレットで耐性が付いたのか、このやり取りも慣れたものだ。
祭りの翌日の今日は他国の騎士達も参加する格闘トーナメントが開催される。
花嫁スクールの生徒達は毎年、女性との出会いが少ない騎士達との出会いの為にと、この行事のお手伝い係に国から任命されている。
今年もスクール生は一人、二枚の手拭いを差し入れとして持参している。
手拭いには端の方に一枚一枚、騎士団のシンボルである、竜と剣の模様を刺繍しており、スクール生は毎年誰に渡すか、で揉めるのだ。
スクール生には高位貴族や王族の伴侶になりたくて花嫁スクールに通う者も少なくない。
高位貴族に嫁げる程の、申し分無い礼儀作法や、自国だけでは無く他国の言語や歴史、情勢など様々な事を学ぶ。
その成果をぶつける晴れ舞台の一つが、この格闘トーナメントの行われる今日、この日なのだ。
他国からも騎士以外に多くの賓客が来ており、美しく着飾った令嬢が案内する事になる為、稀に他国の要人に見初められたりもするそうだ。
格闘トーナメントが行われる闘技場会館はスクールの目と鼻の先の為、歩いて移動しているのだが、派手派手しい集団なので物凄く目立っている。
ちなみにこれもこの催しの一環の中に入っているのでは?と言うほどの恒例となっている。
美しく着飾った貴族の令嬢達が移動する為、一目見ようと人垣が出来、兵士、衛兵が物々しく警備している。
おかげで人々が見守る中、柱に激突した妖精の様に美しく可憐な令嬢の話は瞬く間に知れ渡ってしまうのだが、クリスティナは恥ずかしそうに背中に手を翳し再生魔法でボタンが弾けヒラヒラしていたドレスを元通りに戻し、清浄の魔法で汚れを消した。
認めよう。
焦っていたのだ。
ざわざわと周囲がざわめくがクリスティナは真っ赤になって俯き、そそくさと移動を再開した。
「…っ、再生魔法ですって?嘘、私よりも上位魔法を使えるなんて。」
そんなのダメよ…私よりも目立つじゃない。
スザンヌはその美貌と上位魔法を使える事から、スクールに入るまで自分よりも美しく、自分よりも上位の魔法を使う令嬢と言う者を見たことがなかった。
スザンヌの暗く淀んだ眼差しをマーガレットだけが気づき、野次馬の中から目を逸らさずにじっと見つめていた。
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