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討伐隊の遠征から帰った翌日。今日は早速地下に入れる許可証を提示して王宮図書館の立入り制限がかけられている閲覧制限区域である地下に足を踏み入れた。

「では、こちらに許可証を翳して下さい……はい、ありがとうございます。こちらに有ります本は全て持ち出し厳禁となっております。」
「はい!了解しました!ありがとうございます!」
「館内ではお静かにお願いします。…では、私の案内はここまでになります。」
「はい、すいませんでした」

本を管理する為の特別な保護魔法がかけられている為入る際には扉横の魔法陣に許可証を翳す必要がある。なので最初だけ司書さんが案内しながら説明をしてくれたのだが。
この司書さんかなり美しい司書さんで、赤い髪と赤い唇に涼やかな流し目の似合う麗しい姿をしている。なもんでてっきり女性だと思ってしまったのだ。
歴代の司書さんはなぜかみんな男性だったので「司書さんに女性がいるって知りませんでした」なんて言ってしまった。

「私は男性です。司書の仕事はこう見えても力仕事が多くて魔法も使えなくてはいけませんから。」
「え?!男性だっんですか!?」なんて失礼な事を言ってしまったのだ。

…物凄く睨まれてしまった。

ちょっと若草のような独特の匂いのするこの地下にあるのが私がずっと見てみたかった、世界の薬草大全集と言う希少本だ。
薬草の神様と呼ばれた魔女が死に際にこの国の王女に渡したとかなんとか。
まぁ、実際は未だに生きている。腰が痛いと言っていたがピンピンしている。
だってその薬草の神様と呼ばれていた魔女のお婆は今や占いお婆としてオントワーンの領地でお天気占いをしていたりする。
お婆は私の薬作りのお師匠様で、けれど忘れっぽいから時々「あー、この薬草に合わせたら丁度良さそうな、あの薬草…なんて名前だったかねぇ……メル王女に渡した本がありゃー直ぐにわかるのに!なんであんな口車に…」と、時々ブツブツと呟いて頭を抱えていた。

そのメル王女、(現在は隣国の王妃となり息子達の嫁探しをしている)がこの国の王宮図書館の閲覧制限をかけられている地下の書庫にあるから読みたい時は入って良いわよ!とくれた閲覧許可証を見ればお婆以外には使えない事に気付いて私は落胆した。
せっかくお婆力作の薬草大全集の存在を教えて貰ってなんだけど。
閲覧制限が関係ないのは貴族でも伯爵家以上の子弟に限るわけで…
私は子爵家の三女な訳で……
差別だ!

そんなわけでこの許可証を手に入れるためだけに王宮で働きたいと必死に父に訴えて、漸く手に入れました閲覧許可証を有効なうちに使うべくちょっと興奮しつつも私は草模様が施された緑色の表紙を撫でて、本を開いた。

お婆曰く。あの水中に咲く花の薬効は未知数。様々な方法を試して見な。

と言ってお婆が効果を増幅する可能性がある薬草を使ってみたらどうかと数種類の薬草を教えてくれたのだが。確かこの薬草がとお婆が残していた(アイテムバックの中に入っていることを忘れてた)薬草を渡してくれた。

しかし…

いやぁ、どうやって使うかどころか薬草の名前もオパームだったか、オパムだったか、ど忘れしちゃったね。と使用方法も採取場所や採取方法も、どの国の薬草だったかも忘れちゃったらしい。

お婆は魔女の称号を持つ程に知性と膨大な魔力を持ち、種族的にも長寿で。でもすっかり記憶力が悪くなって忘れっぽくなったそうだ。
諦めきれない私に王宮図書館にある薬草辞典。お婆力作の薬草大全集にならたぶん…
と教えられた。だから私はここにいるのだ。
魔物に出くわして死ぬかと思ったけど。

必要な項目に目を走らせ必要な事だけ書き写す。
魔法禁止区域だから転写なんか使えないしせかせか手を必死に動かす。

「よし、これで…」
目的は果たした。はずだ。でもこの薬草大全集は凄い。私の知らなかった薬草のことがたくさん書かれていた。
たった5種類の薬草のその詳細を私は探していたはずだった。

「うぬぬ…」
もう少しだけ。
魔物の討伐隊に同行することが頻繁にあって恐ろしい目にあったし、叱られてからはやる気も削げていた。だからさっさと辞めて帰ろうと思っていたのだ。たぶんこの一回目の討伐隊に着いて行った後に良く新入りが辞めるって言うのも私みたいに恐怖を感じて、嫌な思いをして、頑張ろうって気持ちが消え失せたからだと。
だから、私が辞めたって問題無い。
だからこの薬草大全集の中で必要な記載だけ書き写す事にして序でに辞表を書いたって問題無いって。みんなあんな怖い目にあったんだからと納得してもらえるって思っていた。いや、今だって現在進行形でそう思っている。

でも…

「…まだ入って間もないんだし。」

うん。
奥に隠した罪悪感と後ろめたさがじわりと薄れてくる。

もうちょっと頑張ろう…かな?

脳裏に過った魔物の恐ろしい姿を慌てて追いやる。

よし、とりあえず!新しい新薬開発に勤しみますか!

王宮の奥の軍事施設。その中にあるアパルトメントの自分の部屋に帰ると小さな小部屋に向かった。
一応、王宮侍女よりは高待遇な救護班の看護人達には個室が与えられている。
私は薬師の役目を兼用しているからかその個室の中でも二間ある個室を使っていた。昔は貴族の子弟のみ、個室を使っていた。(なので使用人ようの部屋がある作りになっているが今では軍関係者以外の立ち入りが禁止になっている為使用人部屋は使われていない。)

なので小部屋の方は薬作りの部屋にしている。薬品の製薬の為に保護魔法石(時々爆発する為)も使っていて割と本格的だ。

私は早速リュスモの花と市販の薬草を数種類取り出して希少本にあったお婆に譲ってもらったオパーム草を取り出した。

リュスモの花やその他の薬草類は高級鞄であるアイテムバックにしまっているので鮮度抜群だ。

「なになに?オパーム草は満月の月の雫で浸して使わなければ副作用として興奮作用が現れるがそこまで気にしなければ聖水を代用すべし。」
 

興奮してしまう副作用って言うものは時々あるし、だいじょうぶだろうと私はささっと聖水を取り出した。
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