雪うさぎ

文字の大きさ
15 / 24

ピアノとエンマと始まる世界

しおりを挟む
お兄様と一悶着したステファノが諦めた顔をしてエンマの身なりを調える為に侍女達を呼んでくれた。
「…さっさと結婚してしまいたい。貴族とは面倒なものだな…」
などと色気のある眼差しで言われても困る。
貴族の婚姻はその血筋を守る為に女性が夫以外の者の子を身ごもることの無いようにとの意味で最低半年程の婚約期間を置くようされている。
婚約期間から既に婚家にて花嫁修業を兼ね暮らす事になるので男性側からしたら蛇の生殺しらしいが…

そんな訳でエンマは身支度を再度調えると羞恥に顔を赤くしながらパーティ会場へと戻った。

隣を歩くステファノと後ろに居る兄ロベルトの話を聞きながら、どうやらラミアナ様はあの後、離れた場所で驚愕して見ていたラミアナ様の両親が引き取り、ステファノ様の両親やステファノ、エンマの両親や兄に深々と詫び、会場へ向け謝罪を口にすると2度とラミアナを領地から出さないと誓い会場を後にしたと分かった。

彼女のあの行動を批判的に見ていた者達もラミアナ様の両親であるパレストリーナ伯爵夫妻の謝罪て水に流してくれたようだ。良かった!
ステファノやロベルトはエンマは絡まれた被害者だから謝罪など必要無いと言っていたが…
私も私の周りで気を揉んでいたご婦人方に謝罪をしなければ。


パーティ会場へと戻った途端エンマは惚気話をせっつかれると言う謎の状態に陥った。
「え?皆様どうなさったので?」何が彼女達の心に火を付けたのだろう。
「エンマ様をお守りし、あの、ステファノ様がエンマ様を大事そうに抱きしめお姿が、それはそれは麗しく。」
「まぁ、その後のお姿はわたくし身も心も恐怖しか感じませんでしたが」
「ええ、大変なお怒りであの恐ろしいまでの殺気のこもった眼差しは命が幾つあっても足りませんわ?」
「「「おほほほほ……本当に恐ろしかったですわね」」」

和やかに?語られるあの時の様子にエンマは真っ赤になって震えていた。
謝罪をしに母達の友人達やエンマの友人、知人の集まる場所へと1人向かうと謝罪などよろしいのよ。それよりもときゃいきゃいと詰め寄られてしまったのだ。
あの後、ステファノ様と愛を囁きあったのだろうとか、あのステファノ様は愛を囁く時は無表情を捨てているのかと。

その勢いに、タジタジのエンマである。








婚約式はパーティ会場の一角にある女神の像の前で行なわれた。

真っ白な女神像は肩に小さな小鳥を乗せている。その小鳥に既視感を覚えエンマはステファノそっちのけで小鳥を凝視していた。

『それでは、これより婚約式の誓いの印璽に取り掛からせて頂きます』

婚約式を執り行う神官に、エンマとステファノの繋いだ手を金の魔法陣の刺繍が施された赤いベルベットの布地の上に置くように言われた。
その布地には魔法陣が大好きなエンマも驚く様な精緻な魔法陣が施されていた。

その赤いベルベットの布地が乗った白く細長い台の上に2人が手を置いたのを確認すると神官が何やら呪文を唱えた。

『…………愛する2人に祝福を、神の御加護を賜ります様』

何やら手の甲が暖かい。

魔法陣が熱を持ちエンマとステファノの手の甲に同じ模様が浮かんでいた。球体の中心には花が、薄い桃色から水色にグラデーションとなっていく花びらが開き、草木がその花を囲うような不思議な色付きの模様だった。
数日で色が抜け出し薄い緑の印璽になるそうだ。

すごく珍しい模様だった様で友人達がさすがステファノ様だと言っていた。




なぜそこでステファノ様なのだと納得いかないエンマであった。


印璽が終わると婚約式は終わり、以後エンマやステファノに邪な心を持つ者が触れてしまうと神罰が下ると迷信的に伝えられている。

今は時代が代わり神罰をそこまで真に受けたりはしない。でもこの印璽があると婚約したんだなって実感してしまい、エンマは気恥しい気持ちになった。

パーティも終盤に差し掛かり酔いが回った紳士達は酔い醒ましの薬草入りドリンクを持って2階の喫煙室でカードゲームをしたり、貴婦人達はサロンでピアノを披露したりと別れ出す。
エンマも行きますわよ?とステファノとエンマの母親達に言われ移動する。
嫌な予感しかし無い。たぶん流れ的に今夜の主役だからとか何とか言ってこのサロンのドンみたいなおば様方に演奏を強請られる未来しか見えない!
ピアノ弾くのは好きだけど!人が多すぎるよ!!

諦めよう。きっとあの期待に満ちたご婦人方からは逃れられない。

でも、先日のパーティでも、そのまた前の日のパーティでもさらにさらに、その前のパーティでもエンマはピアノを弾かせて頂いたのでここ最近習った曲でパーティで弾ける曲が尽きてしまったのだ。

うずうず、あの曲、弾いてしまおうかな。
いやいやいや、でもこの曲はこの世界的には難易度が高すぎて何となく過剰評価されてしまう恐れが…

でも、この日のエンマの気持ち的にもこの曲が一番ぴったりくるのも確かで。うーむ。でもお母様やお父様には人前でまだ弾かないでくれと言われた曲なんだよね。やっぱり不味いかな?

エンマは前世で唯一覚えてる曲を弾こうかどうしようかと悩んでいた。始まりの曲って感じの題名だった曲で、不思議なことにこの世界の聖獣召喚の歌にも似た題名の曲である。こっそりと家で練習した時には母や父から大絶賛を受けた曲なのだ。しかし、確か母には許可なくこの曲を人前で弾いてはダメって言われちゃったんだっけ。んー、違う曲より、むしろ前と同じ曲でもいいかしら。


「エンマ、今日があの曲をご披露する絶好の機会だわ?あなたはわたくしの自慢の娘。もし失敗したって構わない。いつかあなたが愛する人を見つけたら弾いても良いと伝えるつもりだったの。例えあの曲を弾いてあなたを欲しがる人達が出てきてもステファノ様ならば、ルイージ公爵家ならあなたを守れるわ。だから、思いっきり、弾いてしまいなさい。」

「え?よろしいんですか?」

「ええ、エンマ思いっきりやっておしまい!」

おお?お母様からよく分からないが許可が下りましたー!良かった!どん詰まりだったんだよ、お母様!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様が素敵すぎて困ります

秋風からこ
恋愛
私には重大な秘密があります。実は…大学一のイケメンが旦那様なのです! ドジで間抜けな奥様×クールでイケメン、だけどヤキモチ妬きな旦那様のいちゃラブストーリー。

グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。 だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。 プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。 そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。 しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。 後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。 「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。 でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。 約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。 時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。 そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。 最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。 ※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

私の意地悪な旦那様

柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。 ――《嗜虐趣味》って、なんですの? ※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話 ※ムーンライトノベルズからの転載です

女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ
恋愛
「ご挨拶申し上げます。わたくしフェルマー公爵の長女、アメリアと申します」 男性優位が常識のラッセル王国で、女でありながら次期当主になる為に日々頑張るアメリア。 最近は可愛い妹カトレアを思い、彼女と王太子の仲を取り持とうと奮闘するが…… あれ? 夢に見た恋愛ゲームと何か違う? ーーーーーーーーーーーーーー ※主人公は転生者ではありません。

一目惚れは、嘘でした?

谷川ざくろ
恋愛
代打で参加したお見合いで、「一目惚れです」とまさかのプロポーズをされた下級女官のシエラ・ハウエル。 相手は美しい公爵、アルフレッド・ベルーフィア。 疑わしく思いつつも、病気がちな弟の治療と領地への援助を提示され、婚約を結んだ。 一目惚れと言っていた通り溺愛されて相思相愛となり、幸せな結婚生活を送るシエラだったが、ある夜、夫となったアルフレッドの本音を聞いてしまう。 *ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

年下幼馴染から逃げられない

南ひかり
恋愛
大手リゾート会社に勤める朝倉千秋は、将来ハワイ永住を夢見て着々とキャリアを積んでいた。 入社4年目。念願のハワイ支部転属が決定した矢先、テレビで自社の倒産を知る。 買収したのは近年記録的な成長を遂げる相模リゾート。 それは何年も音信不通だった年下の幼馴染ーー相模悠が経営する会社だった。 「ハワイには行かせない。ずっとオレの傍にいてもらうから」 悠に告げられたのは、ハワイ行きではなく秘書として働くということ。 必死に抵抗する千秋だったが、悠が持ち出した条件は――!?

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

処理中です...