巻き戻った令嬢は王子から全力で逃げる

文字の大きさ
1 / 55

1

しおりを挟む


私はビアンカを執拗に虐めていた咎で、ビアンカを殺害しようとした咎で追放されたはずだった。

ビアンカなんて消えればいいと、確かに私はそう思った。

彼女が大嫌いだった。

彼女の笑顔が、彼女の笑顔を見て嬉しげにする人達を見て。もうたくさんだと思った。
ビアンカ贔屓の祖母の声は私の脳裏に焼き付いて離れない。
彼女が評価される度、私の評価が下がっていく。

そう感じていた。

そんな私に優しく「君のピアノは素晴らしい音色だね」と言ってくださった人がいた。
その方は星が眩く煌めく青色の瞳を持つ美丈夫だった。

私はその方に救われた気がしたのだ。

私は彼に恋をした。褒めてくださった。人からしてみればたったそれだけで?と思うかも知れない。

けれど私にはそれで充分だった。

優しい人。優しくて強くて。

残酷な人。

私の好意を人伝に聞いたその方は

彼女の様な小柄な体型よりは弟の恋人の様な長身の方が好ましい。

彼女には悪いけど女性としての魅力は感じ無い。


そんな彼女に好意を寄せられるのははっきり言って困る。


そう言っていたと


ビアンカの取り巻きが面白おかしく語って行った。


ガリガリの出涸らし。

そう言われる程私は発育が悪く、病的なほど痩せていた。

社交界ではその方がビアンカに横恋慕をなさっていると言う噂が瞬く間に流れていた。

私はビアンカが憎くて羨ましくて仕方無かった。

だから、ビアンカが演奏者として招かれた演奏会で紅茶をかけたり、ビアンカのお気に入りの髪飾りをわざとぶつかり落ちた瞬間に踏んずけたりと散々やった。

だけどビアンカは、私よりも長身でスタイルは良く、健康的で割とがっしりしていた。

彼女を突き飛ばした瞬間、吹き飛ばされたのは私だし、髪飾りを踏みつけた私の足を更に踏みつけて私の足を砕いたのはビアンカだ。

更にはお気に入りのドレスの紐を切られたり、バックをズタズタにされたり。
どう考えてもお相子。
いや、正直言ってビアンカの方が上手だった。

だから、悔しくて、ビアンカなんて死んでしまえば良いと思った。

でも結局、殺してやりたいと思っただけで実際には何もしていない。

私にそんな度胸などありはしない。

殺害の依頼などそんな恐ろしい事するはずも無い。

だいいち、わざわざ自分の名前で依頼なんてする馬鹿はいないわ。

けれど、もう、それでいいと諦めた。

私は隣国に国外追放処分となり、父の伝手を使い、修道院に入れる事になったのだ。

けれど運の悪いことに国境の地で馬車が崖から転落。

その瞬間、凄まじい魔力と獣の咆哮を聞いた気がする。

魔物だろうか。

それなら私は魔物に食べられたか崖下に叩きつけられ即死か。

どちらにしろ私は生きてなどいないはずだった。

私は死んだ……

そのはずだった

なのに、どうして………




見慣れた天井。見慣れた家具。

けれど、見慣れていたはずの私の手は細く小さくなっていた。

鏡に映るのはまだ厚くお化粧もしていない、あどけない私の幼い頃の姿。

「7歳になってすぐにこの王都のお屋敷に来たから…7歳から8歳?」

いったいどう言う事だろう?

 「アリアンナお嬢様?」

呆然として鏡を見ていたアリアンナにお仕着せ姿のふくよかな侍女が首をかしげて呼びかけた。

「……ハンナ?」

私が12歳になる前に彼女は馬車の事故で死んだはず。

「まぁ!どうなさいましたかお嬢様!?」

ハンカチを取り出したハンナがアリアンナの頬を拭く。

それでも呆然としたままのアリアンナを見てハンナはアリアンナをひとまず寝かせると慌ててアリアンナの母であるジュリオ伯爵夫人、サフィリアの元へと向かった。

いっぽう、アリアンナは未だ流れる涙を放置して、とりあえず今の状況が理解できずぼんやりと天井を眺めていた。


今は朝なのだろう。

窓辺に光る蝶の姿が見えた。

光の妖精だ。

光の妖精は大抵、蝶の姿や鳥の姿を模している。

「朝かぁ……」

朝の時間は祖母と二人きりだ。そこで私はいつも卑屈になる。

「今日は会いたくないわ」

祖母、レイチェルはアリアンナの父の弟にあたる次男のポール叔父様が大好きだ。

元聖女であり、オスティ伯爵家の令嬢だったアザレア叔母様と結婚して現在はオスティ伯爵となられたポール叔父様のことが祖母は大好きで、更にその娘のビアンカが大好きなのだ。

毎回、ビアンカは可愛いのに、お前は……が口癖で幼い頃は良く泣いてビアンカなんて可愛くない!ビアンカなんて嫌い!と私は癇癪を起こしていた。

はぁ。今となってはビアンカは確かに可愛いわ。と納得せざるを得ない。

憂鬱だな。と、複数の足音を聞いてアリアンナは目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約を破棄したら

豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」 婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。 両目から涙が溢れて止まりません。 なろう様でも公開中です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

夫に愛想が尽きたので離婚します

しゃーりん
恋愛
次期侯爵のエステルは、3年前に結婚した夫マークとの離婚を決意した。 マークは優しいがお人好しで、度々エステルを困らせたが我慢の限界となった。 このままマークがそばに居れば侯爵家が馬鹿にされる。 夫を捨ててスッキリしたお話です。

処理中です...