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しおりを挟む私はビアンカを執拗に虐めていた咎で、ビアンカを殺害しようとした咎で追放されたはずだった。
ビアンカなんて消えればいいと、確かに私はそう思った。
彼女が大嫌いだった。
彼女の笑顔が、彼女の笑顔を見て嬉しげにする人達を見て。もうたくさんだと思った。
ビアンカ贔屓の祖母の声は私の脳裏に焼き付いて離れない。
彼女が評価される度、私の評価が下がっていく。
そう感じていた。
そんな私に優しく「君のピアノは素晴らしい音色だね」と言ってくださった人がいた。
その方は星が眩く煌めく青色の瞳を持つ美丈夫だった。
私はその方に救われた気がしたのだ。
私は彼に恋をした。褒めてくださった。人からしてみればたったそれだけで?と思うかも知れない。
けれど私にはそれで充分だった。
優しい人。優しくて強くて。
残酷な人。
私の好意を人伝に聞いたその方は
彼女の様な小柄な体型よりは弟の恋人の様な長身の方が好ましい。
彼女には悪いけど女性としての魅力は感じ無い。
そんな彼女に好意を寄せられるのははっきり言って困る。
そう言っていたと
ビアンカの取り巻きが面白おかしく語って行った。
ガリガリの出涸らし。
そう言われる程私は発育が悪く、病的なほど痩せていた。
社交界ではその方がビアンカに横恋慕をなさっていると言う噂が瞬く間に流れていた。
私はビアンカが憎くて羨ましくて仕方無かった。
だから、ビアンカが演奏者として招かれた演奏会で紅茶をかけたり、ビアンカのお気に入りの髪飾りをわざとぶつかり落ちた瞬間に踏んずけたりと散々やった。
だけどビアンカは、私よりも長身でスタイルは良く、健康的で割とがっしりしていた。
彼女を突き飛ばした瞬間、吹き飛ばされたのは私だし、髪飾りを踏みつけた私の足を更に踏みつけて私の足を砕いたのはビアンカだ。
更にはお気に入りのドレスの紐を切られたり、バックをズタズタにされたり。
どう考えてもお相子。
いや、正直言ってビアンカの方が上手だった。
だから、悔しくて、ビアンカなんて死んでしまえば良いと思った。
でも結局、殺してやりたいと思っただけで実際には何もしていない。
私にそんな度胸などありはしない。
殺害の依頼などそんな恐ろしい事するはずも無い。
だいいち、わざわざ自分の名前で依頼なんてする馬鹿はいないわ。
けれど、もう、それでいいと諦めた。
私は隣国に国外追放処分となり、父の伝手を使い、修道院に入れる事になったのだ。
けれど運の悪いことに国境の地で馬車が崖から転落。
その瞬間、凄まじい魔力と獣の咆哮を聞いた気がする。
魔物だろうか。
それなら私は魔物に食べられたか崖下に叩きつけられ即死か。
どちらにしろ私は生きてなどいないはずだった。
私は死んだ……
そのはずだった
なのに、どうして………
見慣れた天井。見慣れた家具。
けれど、見慣れていたはずの私の手は細く小さくなっていた。
鏡に映るのはまだ厚くお化粧もしていない、あどけない私の幼い頃の姿。
「7歳になってすぐにこの王都のお屋敷に来たから…7歳から8歳?」
いったいどう言う事だろう?
「アリアンナお嬢様?」
呆然として鏡を見ていたアリアンナにお仕着せ姿のふくよかな侍女が首をかしげて呼びかけた。
「……ハンナ?」
私が12歳になる前に彼女は馬車の事故で死んだはず。
「まぁ!どうなさいましたかお嬢様!?」
ハンカチを取り出したハンナがアリアンナの頬を拭く。
それでも呆然としたままのアリアンナを見てハンナはアリアンナをひとまず寝かせると慌ててアリアンナの母であるジュリオ伯爵夫人、サフィリアの元へと向かった。
いっぽう、アリアンナは未だ流れる涙を放置して、とりあえず今の状況が理解できずぼんやりと天井を眺めていた。
今は朝なのだろう。
窓辺に光る蝶の姿が見えた。
光の妖精だ。
光の妖精は大抵、蝶の姿や鳥の姿を模している。
「朝かぁ……」
朝の時間は祖母と二人きりだ。そこで私はいつも卑屈になる。
「今日は会いたくないわ」
祖母、レイチェルはアリアンナの父の弟にあたる次男のポール叔父様が大好きだ。
元聖女であり、オスティ伯爵家の令嬢だったアザレア叔母様と結婚して現在はオスティ伯爵となられたポール叔父様のことが祖母は大好きで、更にその娘のビアンカが大好きなのだ。
毎回、ビアンカは可愛いのに、お前は……が口癖で幼い頃は良く泣いてビアンカなんて可愛くない!ビアンカなんて嫌い!と私は癇癪を起こしていた。
はぁ。今となってはビアンカは確かに可愛いわ。と納得せざるを得ない。
憂鬱だな。と、複数の足音を聞いてアリアンナは目を閉じた。
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