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アリアンナの祖母レイチェルは領地に帰って行った。
ジュリオ伯爵の持つ領地は王都からは近いので会おうと思えば直ぐに会える距離だ。
けれどあれだけの存在感を放っていた祖母が居なくなってしまってアリアンナはやっぱり寂しかった。
まさか、あの、祖母が居なくなって寂しいと思う日が来ようとは想像もしていなかった。
けれど、祖母と入れ替わりに母サフィリアが屋敷に居るようになった。
母は祖母が苦手らしく反りの合わない二人が一緒にいて毎日喧嘩になるよりはと毎日何かしらの用を作って出かけていたらしい。
父の会社や、友人宅などで過ごしていた母はアリアンナに「辛い思いをさせて、ごめんなさいね。」と号泣して誤りだしてアリアンナは目をぱちくりして謝罪を受け入れたのだ。
祖母が育児放棄だと怒り狂って居たが。なるほど、確かに気の強い人同士だと毎日喧嘩になっていたかも。なんて少しだけ納得した。
そして古参の侍女である侍女長は祖母からのかなり厳しい教育にアリアンナは王妃候補になられるのだと勘違いしていたらしく厳しすぎる叱責などもこれしきのことは王妃候補の教育には当たり前なのだろうと判断し報告する必要があると、全く認識していなかったらしい。
しかし、アリアンナは毎日あの厳しい教育を叱責されながら受けていた事を知った父が聖女様をお呼びくださってアリアンナは数日ほどカウンセリングを行ってもらい、今はゆっくりしなさいと言われた為昨夜までピアノを弾く以外は特に日課の勉強やダンス等をすることも無く。
この王都の屋敷に来て初めてお昼寝をして、領地にいた頃よく作った刺繍を刺したり本を読んで過ごしたりしていた。
けれど今日からはお祖母様が頼んでくださった家庭教師の先生が来て下さる事になっている。
アリアンナはスカート丈の短い子供用のドレスを着て勉強部屋へと向かった。
勉強部屋に入って少し待っているとその方はやって来た。
地味な印象の背の大きな男性だった。
家庭教師に男性は珍しく、更に若い男の先生が令嬢の家庭教師に付くなんて凄く珍しいことなんだけど。アリアンナは全く疑うこと無く、緊張気味に先生を見ていた。
茶髪の少しばかりもじゃもじゃな髪。更には丸い大きな黒縁メガネでどのような顔をしているのかは伺えない。
少し大きめな服装に身を包んだ20代半ば…30代かも?くらいの青年が立っていた。
「アリアンナですわ。先生宜しくお願い致します」
「ザカリ・エルミー二だ。ザックでかまわない」
そう言った先生の声は若々しかった。
「じゃぁ、ザック先生?」
こてん、と少し首を傾げたのだが……
「……ああそうだ。だが一々首を傾げるな。細すぎて折れそうだ。」
ザカリ先生は顰めっ面だ。
ザカリ先生は私が苦手なダンスから初めてくれと祖母から頼まれたそうで、早速その日から私のダンスのレッスンがはじまった。
先生はやたらと背が高い。
ザカリのダンスは安定感があり、あの頃も結局ダンスが苦手なままだったアリアンナの凝り固まったぎこち無いダンスをしっかりとサポートし、まるで優雅に踊れている錯覚すら与えてくれる腕前を持っていた。
ただ……
少し失敗したり躓いたりした瞬間、直ぐにアリアンナをひょいと持ち上げてしまうのだ。
まるで犬猫の様に扱われてやしないかとアリアンナは若干憮然とした顔をするのにザカリは飄々としているので何も言えないままなのだが。
でもおかげで抱き上げられた瞬間にザカリの目にかかる前髪がふわりと揺れ、もじゃもじゃの前髪で隠れたザカリの顔が少しだけチラリと見える事がある。
そんな時はなんだかとても得をした気分になれる。
なぜならザカリは綺麗な顔立ちをしていたからだ。もしかしたらザカリはかなり歳若いのかも知れない。
そんな訳で、凄ぉーく
目の保養になる。
隠すなんて勿体ないと言ったら大袈裟に驚いていたけど人嫌いだからこれで良いそうだ。実に勿体ない。
それくらい、彼は綺麗だった。特にその星を散りばめた様な美しい瞳が。
ザカリの綺麗な目を見ていると凝り固まり頑な自分が、ビアンカばかりを気にしていた以前の自分が馬鹿みたいだと感じた。
私の狭い狭い世界には、祖母と祖母から比較対象とされていたいとこのビアンカだけがいた。
でも、当たり前だけれど。私の周りには色んな人がいて、素敵な場所も、人もきっとアリアンナが気づいてないだけでたくさん存在するのだと気付いた。
美しい星を散りばめた様な不思議な瞳。
星が宿った様な、青紫色の光り輝く彼の瞳。
けれど、そんな星が眩く煌めく瞳が何かを連想させて、酷く胸がザワついた。
「見すぎだ。」
「………ふぁ!?」
ボソッと指摘され、鼻をぎゅっと摘まれたアリアンナは間抜けな声をあげた。
「きゃっ!?」
驚いた拍子にカクン、とアリアンナがザカリの足に躓いた。
その瞬間アリアンナはふわりと持ち上げられ
そしてくるりと回転するとストンと床に降ろされた。
「ザック先生、すいません──」
「そう言えば…アリアンナは……今、何歳だ?」
唐突に質問された。内心首を傾げながら「8歳です」と答えるとザカリは頷く。
「そうか………ん?待て、そう言えば先日誰かが7歳なのにアリアンナは演奏会デビューをしてないと言ってなかったか?8歳………アリアンナお前の誕生日はいつなんだ?」
「…………昨日、ですけど……」
音楽会デビューは貴族の子が7歳の誕生日に親類を呼び演奏をお披露目する。
前回はアリアンナは祖母のダメ出しにすっかり臍をまげてしまった為かなり遅くに行われた。大失敗の黒歴史だ。
「昨日…………」
ジュリオ伯爵の持つ領地は王都からは近いので会おうと思えば直ぐに会える距離だ。
けれどあれだけの存在感を放っていた祖母が居なくなってしまってアリアンナはやっぱり寂しかった。
まさか、あの、祖母が居なくなって寂しいと思う日が来ようとは想像もしていなかった。
けれど、祖母と入れ替わりに母サフィリアが屋敷に居るようになった。
母は祖母が苦手らしく反りの合わない二人が一緒にいて毎日喧嘩になるよりはと毎日何かしらの用を作って出かけていたらしい。
父の会社や、友人宅などで過ごしていた母はアリアンナに「辛い思いをさせて、ごめんなさいね。」と号泣して誤りだしてアリアンナは目をぱちくりして謝罪を受け入れたのだ。
祖母が育児放棄だと怒り狂って居たが。なるほど、確かに気の強い人同士だと毎日喧嘩になっていたかも。なんて少しだけ納得した。
そして古参の侍女である侍女長は祖母からのかなり厳しい教育にアリアンナは王妃候補になられるのだと勘違いしていたらしく厳しすぎる叱責などもこれしきのことは王妃候補の教育には当たり前なのだろうと判断し報告する必要があると、全く認識していなかったらしい。
しかし、アリアンナは毎日あの厳しい教育を叱責されながら受けていた事を知った父が聖女様をお呼びくださってアリアンナは数日ほどカウンセリングを行ってもらい、今はゆっくりしなさいと言われた為昨夜までピアノを弾く以外は特に日課の勉強やダンス等をすることも無く。
この王都の屋敷に来て初めてお昼寝をして、領地にいた頃よく作った刺繍を刺したり本を読んで過ごしたりしていた。
けれど今日からはお祖母様が頼んでくださった家庭教師の先生が来て下さる事になっている。
アリアンナはスカート丈の短い子供用のドレスを着て勉強部屋へと向かった。
勉強部屋に入って少し待っているとその方はやって来た。
地味な印象の背の大きな男性だった。
家庭教師に男性は珍しく、更に若い男の先生が令嬢の家庭教師に付くなんて凄く珍しいことなんだけど。アリアンナは全く疑うこと無く、緊張気味に先生を見ていた。
茶髪の少しばかりもじゃもじゃな髪。更には丸い大きな黒縁メガネでどのような顔をしているのかは伺えない。
少し大きめな服装に身を包んだ20代半ば…30代かも?くらいの青年が立っていた。
「アリアンナですわ。先生宜しくお願い致します」
「ザカリ・エルミー二だ。ザックでかまわない」
そう言った先生の声は若々しかった。
「じゃぁ、ザック先生?」
こてん、と少し首を傾げたのだが……
「……ああそうだ。だが一々首を傾げるな。細すぎて折れそうだ。」
ザカリ先生は顰めっ面だ。
ザカリ先生は私が苦手なダンスから初めてくれと祖母から頼まれたそうで、早速その日から私のダンスのレッスンがはじまった。
先生はやたらと背が高い。
ザカリのダンスは安定感があり、あの頃も結局ダンスが苦手なままだったアリアンナの凝り固まったぎこち無いダンスをしっかりとサポートし、まるで優雅に踊れている錯覚すら与えてくれる腕前を持っていた。
ただ……
少し失敗したり躓いたりした瞬間、直ぐにアリアンナをひょいと持ち上げてしまうのだ。
まるで犬猫の様に扱われてやしないかとアリアンナは若干憮然とした顔をするのにザカリは飄々としているので何も言えないままなのだが。
でもおかげで抱き上げられた瞬間にザカリの目にかかる前髪がふわりと揺れ、もじゃもじゃの前髪で隠れたザカリの顔が少しだけチラリと見える事がある。
そんな時はなんだかとても得をした気分になれる。
なぜならザカリは綺麗な顔立ちをしていたからだ。もしかしたらザカリはかなり歳若いのかも知れない。
そんな訳で、凄ぉーく
目の保養になる。
隠すなんて勿体ないと言ったら大袈裟に驚いていたけど人嫌いだからこれで良いそうだ。実に勿体ない。
それくらい、彼は綺麗だった。特にその星を散りばめた様な美しい瞳が。
ザカリの綺麗な目を見ていると凝り固まり頑な自分が、ビアンカばかりを気にしていた以前の自分が馬鹿みたいだと感じた。
私の狭い狭い世界には、祖母と祖母から比較対象とされていたいとこのビアンカだけがいた。
でも、当たり前だけれど。私の周りには色んな人がいて、素敵な場所も、人もきっとアリアンナが気づいてないだけでたくさん存在するのだと気付いた。
美しい星を散りばめた様な不思議な瞳。
星が宿った様な、青紫色の光り輝く彼の瞳。
けれど、そんな星が眩く煌めく瞳が何かを連想させて、酷く胸がザワついた。
「見すぎだ。」
「………ふぁ!?」
ボソッと指摘され、鼻をぎゅっと摘まれたアリアンナは間抜けな声をあげた。
「きゃっ!?」
驚いた拍子にカクン、とアリアンナがザカリの足に躓いた。
その瞬間アリアンナはふわりと持ち上げられ
そしてくるりと回転するとストンと床に降ろされた。
「ザック先生、すいません──」
「そう言えば…アリアンナは……今、何歳だ?」
唐突に質問された。内心首を傾げながら「8歳です」と答えるとザカリは頷く。
「そうか………ん?待て、そう言えば先日誰かが7歳なのにアリアンナは演奏会デビューをしてないと言ってなかったか?8歳………アリアンナお前の誕生日はいつなんだ?」
「…………昨日、ですけど……」
音楽会デビューは貴族の子が7歳の誕生日に親類を呼び演奏をお披露目する。
前回はアリアンナは祖母のダメ出しにすっかり臍をまげてしまった為かなり遅くに行われた。大失敗の黒歴史だ。
「昨日…………」
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