巻き戻った令嬢は王子から全力で逃げる

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ジョバンニと婚約してからルドヴィカの様な女性が後を絶たない。

恐ろしい。とんだ、たらし野郎だ。

けれどアリアンナだって前回はジョバンニが自分に優しくしてくれる。自分を気にかけて下さると恋に浮かれていたのだから人のことは言えない。

「アルボレート嬢、彼女との婚約は私がどうしてもとお願いして漸く了承をもらって婚約に漕ぎ着けたんだ。だから、どうかわかって欲しい。」

何をどう、わかれ、と言うのか。
しかしルドヴィカはハラハラと涙を零し「ジョバンニ殿下」と思い詰めた顔をして頷いた。
「わかりました。ジョバンニ殿下の心変わりを密かに祈りますわ」と全く密やかさなど皆無な破局を祈ります宣言をしてルドヴィカは去って行った。最後にアリアンナを睨み付けるのを忘れずに。

「大丈夫だったか?アリアンナ」

「ええ、大丈夫ですわ。ええ、全く。…
おモテになられて何よりですわね」

ツンとそっぽを向いたアリアンナをジョバンニが揶揄う様に「嫉妬してくれたのか?」とアリアンナの顔を覗き込みながら言ってくる。

正しく、図星です。なんて言えるはずも無くアリアンナは口を尖らせて聖堂を出た。

「アリアンナ、異形に取り憑かれた魔物が変異した。二つの禍の芽がその魔物に取り込まれた可能性がある。俺は討伐軍を指揮し近々発つ。だから、その前に話がしたい」

「……わかりましたわ」

ジョバンニが耳に口を寄せてそう伝えて来た。いよいよだ。アリアンナは早鐘を打つ胸の鼓動を無視してジョバンニに頷く。
ジョバンニの話しとはやはり精霊や私の役目についての話しだろうか。

精霊は私にもなにか出来ることがある様なことを言っていた。

「では、夜にアリアンナの部屋に行くよ。」

ジョバンニはそう言ってこめかみにキスをした。

人目があるからとアリアンナのこめかみにキスをするのはやり過ぎじゃないかと口付けられたアリアンナは赤い顔で後退りし睨み付けるがジョバンニは意に介さず笑顔で手を振っている。

去りゆくジョバンニの後ろ姿を腹立たしく見送るとアリアンナは緊張した面持ちで部屋へと引き返す。

いよいよなんだわ。いったい私に何が出来るのかしら?

魔術のお勉強もアリアンナは一通りして来た。
しかしザカリに扮していたジョバンニが魔術の練習の後で空を見つめ。

「……人には向き不向きがある。アリアンナにはピアノの才があるんだ。うん」

なんて、まるで私に励ましの言葉を掛けている様に見せかけて自分にそう言い聞かせていたもの。

自分が異形と戦う姿が想像出来ない。
みんなの邪魔にならない様に後方から味方全体に特殊強化をかけるとか?でもそれなら媒体が必要だわ。

私の媒体はピアノ。

ああ、私はどうしてバイオリンやフルートも習っておかなかったのかしら!?

討伐の激闘地にピアノなんて持ち込めないじゃない……

支援系の魔術には大掛かりなものが多い。
その為、支援系の魔術には媒体が必要となる場合が多い。

そして媒体を使う魔術には失敗が少ない。

何が言いたいかって言うと。アリアンナでも、失敗すること無く行える数少ない魔術なのである。

悩ましげに歩くアリアンナを多くの者達がぼうっと見惚れていたがアリアンナは気づくことなく後ろを歩くミラとエレンそしてリリーを振り返った。

「やっぱり図書館で本を借りて少しくらい、知識を付けておくべきかしら?」

アリアンナは悩ましげに腕を組む。
周囲の人々がそれを見て息を呑むがアリアンナはやっぱり気づくことなくミラを見た。

「大丈夫です!アリアンナ様。きっとジョバンニ殿下が書物よりも詳しく、優しく教えて下さるはずですわ?」

ミラは訳知り顔でそう言った。彼女は何やら勘違いをしているのだがアリアンナはやっぱり気づくことなくミラの言葉を聞いている。

「…そうかしら?」

討伐軍がいったいどんなものかも詳しく無いし、異形や魔物についても詳しい事はあまり知らないのに?とアリアンナは首を傾げた。

「ええ、それは嬉嬉として」

今度は涼し気な顔をしたリリーが珍しく何だかちょっと興奮気味に頷く。

「……そう?」

アリアンナはやっぱり気づくことなくエレンを今度は見たが。

「……エレン?どうしたの?顔が真っ赤だわ?」

「いっ、いえ!?」

エレン、わりと初心な侍女なのである。


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