幸せはあなたと

ヒイロ

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1章.現代

10.

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あの人が帰ってくるまで、熊は一緒にいてくれた。何度も映画を見たいと言う僕の我が儘を聞いて座椅子になってくれて、たまにはそのまま寝てしまうこともあった。頭を撫でられたりお腹をぽんぽんとされてしまうと眠くなってしまう。

熊は何で僕に優しくしてくれるの?聞きたいけど聞いてしまったら、この関係が終わりそうで怖くなる。

明日帰る。服もクリーニング出したし痣が目立たなくなって右肩も触らない限り痛くない。

「ありがとう。」

お礼を言うと熊が抱き締めてきた。

「優…言いたいことがないか?俺じゃだめか?お前の力にはなれないか?」

首を振る。無理だよ。熊に裏切られるのは辛いと思う。今までの何よりも。そうかと、まだ足りないなと呟き、オムライス作ってくるよと出ていった。

オムライス!?ずっと食べたかった。待ちきれず立ち上がり、オムライスの唄を口ずさむ。気分良く唄っていると、視線を感じて後ろを向く。オムライスを持った熊がいた。帰ってきてることに気がつかなかった。顔が熱くなる。

「ヤバい優可愛いな。」

恥ずかし過ぎてベットに潜り込む。ありえないから。何で声かけないの。布団を握りこんで立て籠る。

「ゆ~う。オムライス冷めちゃうぞ。」

熊にどんな顔で…いやだ恥ずかしい。無理。熊が仕方ないなぁ~と、布団ごと抱き抱えられ膝の上に乗せられた。

「ほらあーんだ。とろとろ玉子が固まっちゃうぞ。」

それは絶対嫌だ。布団から顔を出してすぐに食い付く。美味しい~。

「ははっ。本当に好きだな。ほらあーん。」

ぱくっ。今日はとろけるチーズが乗ってて濃厚な味。間にスープも飲まされる。

「ごちそうさまでした。」

熊も器用に自分の分も合間に食べていた。

「優。」

「うん?」

「いつか一緒にあの映画の続きを映画館で見よう。」

映画館。行ったことないけど楽しいんだろうな。

「夢みたいだね。」

僕が微笑むと抱き締められた。

「夢じゃない。一緒に行くんだよ。」

あの人が言っていた。僕が幸せに思うことは叶わないと。

マンションに帰ると珍しくあの人がよくやったと誉めている。余程あの男の人には嫌われたくないんだろう。

「そう言えば、学校に藤崎陽向っているでしょ。見たことある?」

一瞬迷った。あっちから関わってくるし。知らないと言うか知ってると言うべきかどっちが正解なのか。でも、

「知っています。新入生挨拶していたので。」

「格好いい?アルファでしょ。」

格好いい…と思うが何が知りたいんだろう。

「格好いいです。常に周りに人がいる感じです。」

そう、とすごく嬉しいそうだ。珍しい。機嫌良さげにいつものように鎖を繋いで出ていった。

学校もいつもの通り…のはずが藤崎くんが昼休みに僕のクラスに来るようになった。僕をランチに誘いに。誘われても行かないんだけど、そうすると僕のクラスでランチを食べる。みんなの視線がいたい。

「藤崎くん、僕1人がいいんだ。」

そうと言っても、聞こえてないかのようにお弁当を食べている。綺麗に詰められてるお弁当だ。お母さんが作っているんだろう。僕はおにぎり一個。レンジで温めた。

「それだけじゃ足りないだろ。」

と、毎回おかずをくれる。いらないって言っても聞かない。またあの人を怒らせてしまう。明日からは教室以外で食べよう。なんだか熊に出会ってから、周りとの距離の取り方が分からなくなってる。気を付けないと。

最近あの人が学校の様子を聞くことが増えた。藤崎くんのことだけ聞いてくる。かと言ってお昼一緒に食べてるとは言えない。しかもすごく嬉しそうに笑うのだ。こんなに喜んでる姿は始めてみた。当たり障りないみんなの噂話を聞かせる。それだけで喜ぶのだ。だから聞いてみた、

「藤崎くんと仲良くした方がいいですか?」

と言うと鎖を引かれて思いっきり蹴られた。

「勘違いしないで。藤崎には近づくんじゃないよ。」

と言うと出ていってしまった。やはり人と関わるのは駄目みたいだ。

「いたっ…」

口の中が切れてる。明日からの昼休みどこで過ごすか考えた。


2年生になっても発情期は、きていない。相変わらず熊が僕の部屋で過ごす。最近は僕に合わせて休みを取ってる。働き方改革だと言って有給を取らされるらしい。一週間ずっと一緒にいる。映画を見るのもあの体勢だ。

「また1見るのか。俺は4の戦闘シーンがいいんだけど。」

「それは後で。魔法初めて使うシーンがいいの。」

はいはいと、後ろから抱き締められて、熊が肩に顎を乗せると息が耳にかかる。重いんだけどと、思っていても気付けば食い入るように見てしまう。後ろでまだ映画に勝てないか、とか言っている。何のことだろう。

「今度6も出るぞ。次に来たとき見せてやるよ。」

「本当!!やったー。」

はぁーと溜め息をつかれる。失礼だ。どうせ子供だと思ってるんだろう。

「俺は映画に勝てる日はくるのか…。」

「なに言ってるの?あっ、今日オムライス食べたい。」

オムライスもか、と何か落ち込んでいる。最近距離の取り方がおかしいかも。

「ごめんね。何か熊には我が儘言ってばっかりだね。」

本当気を付けないと。熊には言いやすいから。

「優。俺にだけ我が儘言ってるってことか?」

「そうだけど。」

他の人なんて関わってないし。

「それならいい。」

何で喜んでる?最近熊がよく分からないな。

3日目の夜にご飯食べていたら、熊が明日は来れないからと言い出した。別に約束してないんだから、断り入れなくてもいいんだけど、と言うと落ち込んでる。明日同窓会で、団体客が入ってるらしくさすがに休めないらしい。だから休んでなんて頼んでないんだけど。と言いたいけどなんだか言ったら、熊が余計に落ち込みそうだったので止めといた。夜も一緒に寝る。これも慣れてしまった。

朝起きると熊はいなかった。代わりに枕に抱きついてた。抱きつく癖がついてる気がする。久しぶりに屋上に行こうと本を持った。映画を見たせいか本を読むと描写が頭にリアルに写し出される。飲み物は買えるから、と言われてたのでカフェに寄ろうと思った。

カフェに着くと、言ってた通り団体が入っていた。大学の時の同窓会らしい。夜に会うのは難しいらしく、アルコール無しだが貸し切りで盛り上がっていた。こっそり頼もうと隅に寄って様子を見ていたら、熊の周りを女性が囲んでいた。モテないと思っていたけどあの様子ではモテるのかもしれない。

「あの三人来ないんでしょ~。」

「仕事みたいよ。」

大きな声で盛り上がっている。

1人の女性が熊の腕に抱きつく感じに、自分の腕を絡ませている。何かモヤっとする。その女性がヒールを履いていてよろけた。熊が腰に手を回した。イラっとした。あの手が違う人を抱いていることに…。

そのまま何も買わず部屋に戻り映画を見る。イライラしている意味が分からず、映画にも集中出来ない。後ろも寂しい。自分のお腹を触る。いつもここに回される手が女の人に回されてた。

「女の人がいいのかな?僕子供産めるのに。」

えっ…?自分の言った発言にびっくりした。熊を一人占めにしたい、子供の発想な気がして恥ずかしくなった。もう寝てしまえとベットに潜り込んで、おかしな発想を考えないように眠りについた。


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