13 / 50
制服だけが知っている。
静かに広がる噂。
しおりを挟む
「グレイン。待っていたぞ。」
グレインが寮の部屋に戻ると、そこには煌びやかな見た目をした男が一人、勉強用の椅子に腰を掛けて優雅に紅茶を飲んでいる。
「リンデルか…。こんな時間にどうしたんだ。」
首元のタイをグイッと緩めると、グレインは反対側にある椅子に腰を掛けた。
「同じ部屋なんだから別に私が話しかけたっていいだろう?」
ニコニコと笑みを浮かべているリンデルが、ふと真剣な顔になった。
「グレイン…お前に頼みがある。」
その瞬間――
部屋の中の温度が少し低くなったことが分かった。
グレインは椅子から降り、リンデルの前で跪く。
「なんでしょうか?」
その声は、いつもの気の抜けた声よりも少しばかり張り詰めている。
「最近、学園内で増えてきている事件について調べてほしい。お前ならなんとなく予想はついているんだろ?」
見下ろすように話す姿はまるで王族そのものだ。
「増えてきている事件……ですか。リンデル様がおっしゃるものと同じものかはわかりませんが…調査いたします。」
「うむ……ああいう存在は、放っておくと厄介になることが多いからね。それと……これは別件だがとある女性についても調べてもらえないだろうか。」
「女性…ですか?」
まさかの発言に首を傾げていると、リンデルはこくりと頷いた。
「そうなんだ。ちょっと面白…いや、気が合いそうだから、話してみたいんだよね。」
(今、この人「面白そう」って言ったな……)
「構いませんが……それはリンデル・ヴァール・スノーミル第五王子殿下としての命令ということでよろしいですか?」
「う~ん…女性については私個人からのお願いだよ。ついででいいから頼む。」
両手をぱちりと合わせてウィンクしてくる目の前の男を見て、グレインは深くため息を吐いた。
「はぁ……それで一体、その女性はどのような方なんでしょうか?」
グレインが調べることを承諾すると濁っていた瞳がきらりと輝いた。
それはまるで、面白いおもちゃを見つけた……とでもいうような顔だった。
「一言でいうと、影が薄い……幽霊のような女性と言ったらいいだろうか。いつも途中で見失ってしまうんだが、なんだか目が離せないんだ。一回でいいからあの目で私を見つめてほしいと思ってね…。」
その言葉を聞いた瞬間――。
ゾワリ。
その一言が、部屋の空気をわずかに歪めた。
***
新入生歓迎パーティーから数日後。
ヘルミーナが学園に何があるか見て回っていると──
(また制服が破られているわ……)
行く先々で破れた制服が見つかっていた。
(これで……五着目。もう、偶然とは言えないわよね。)
ヘルミーナは懐にしまっていた針と糸を取り出すとチクチクと縫い始める。
破れたところを見てみれば、縫い目に逆らうように、きれいに切られている。
それはまるで裁ちばさみを使ったかのような綺麗さだ。
(切れ目がきれいだから何とか直せるけど……こんな切り方、普通じゃない……制服に恨みでもあるのかしら…。)
パチンッ
(よしっ!できた。)
残ってしまった糸をハサミで切ると他に破れたところがないか確認する。
(大丈夫そうね…)
制服に刺繍されている名前を確認すると、ヘルミーナはそれをそっと靴箱の中に入れた。
(これでいいわね。)
そして、
それからさらに数日が経ち――
「えぇぇぇ~!!どういうことぉぉ!?」
以前よりも破れた制服が増え、ヘルミーナは仕立て直し作業に追われていた。
「ヘルミーナ…あなた最近一人でふらふらと出かけることが多いけど、何かあったの?心なしか元気がないような気がするし…。もしかして最近噂になっていることが関係しているのかしら?」
教室に戻り、リルベーラの隣に座るとノートを取り出した。
《え、噂……?》
「知らないの?最近、女子生徒の中で噂になっているのよ。制服がなくなったと思ったら、靴箱の中に入ってるって…しかも前より頑丈になって戻ってくるってね。」
全てを見透かしたように見てくるリルベーラ。
「中には、制服が変わって戻ってくるから怖いって言って、泣いてた子もいるみたいね」
その言葉はすでにヘルミーナが何をしているか断定しているような口ぶりだった。
「うっ…」
「で、何があったの?」
ヘルミーナは少し考えると、何があったのかを書いていく。
《この学園広いから、何があるか見て回っていたら、いたるところで破れた制服に出会うの。》
「え?破れた制服!?」
リルベーラの言葉にこくりと頷いた。
《そう…初めは「たまたまかな~」って思っていたんだけど、一日多い時は五着くらい破かれてて…。》
初めのうちは五日に一回くらいだった出来事も、今では毎日起きている。
《もう、追いつかないのよね。でも困っている人がいると思ったら放っておけないし。》
リルベーラはヘルミーナを見ると盛大にため息を吐いた。
「ヘルミーナ。なんでもっと早く教えてくれないのよ!?それはもう事件よ。……一人で抱える話じゃないわ」
リルベーラは少し考えると口を開いた。
「ヘルミーナ。今まで何着も直してきたんでしょ?直していて何か気づいたことはなかったの?」
《気づいたこと?》
リルベーラの言葉に首を傾げると、今までの制服を思い出した。
《そういえば、全て切れ目がきれいに切られていたのよ。戸惑うことなく一発で。》
布を裁断するに慣れていないときれいな切れ目にはならない。
しかし、どの制服も綺麗に切られていて、直すには時間がかからなかった。
「へぇ~…っとなると、もしかしたら布製品を扱うことに慣れている人かもしれないわね。」
その言葉を聞いて、ヘルミーナはピンッときた。
(この切り口……もしかして……。)
《仕立て屋さん…とか、手芸屋さん…とかと関係があるのかも…。でも、もし仕立て屋さんがそんなことをしているとしたら…。なんだか気に食わないわね。》
(……仕立て屋さんが、こんなことをするかな……。)
そこまで考えて、ヘルミーナは思考を止めた。
ヘルミーナは胸の奥に、言葉にできない違和感を残したままノートを閉じた。
グレインが寮の部屋に戻ると、そこには煌びやかな見た目をした男が一人、勉強用の椅子に腰を掛けて優雅に紅茶を飲んでいる。
「リンデルか…。こんな時間にどうしたんだ。」
首元のタイをグイッと緩めると、グレインは反対側にある椅子に腰を掛けた。
「同じ部屋なんだから別に私が話しかけたっていいだろう?」
ニコニコと笑みを浮かべているリンデルが、ふと真剣な顔になった。
「グレイン…お前に頼みがある。」
その瞬間――
部屋の中の温度が少し低くなったことが分かった。
グレインは椅子から降り、リンデルの前で跪く。
「なんでしょうか?」
その声は、いつもの気の抜けた声よりも少しばかり張り詰めている。
「最近、学園内で増えてきている事件について調べてほしい。お前ならなんとなく予想はついているんだろ?」
見下ろすように話す姿はまるで王族そのものだ。
「増えてきている事件……ですか。リンデル様がおっしゃるものと同じものかはわかりませんが…調査いたします。」
「うむ……ああいう存在は、放っておくと厄介になることが多いからね。それと……これは別件だがとある女性についても調べてもらえないだろうか。」
「女性…ですか?」
まさかの発言に首を傾げていると、リンデルはこくりと頷いた。
「そうなんだ。ちょっと面白…いや、気が合いそうだから、話してみたいんだよね。」
(今、この人「面白そう」って言ったな……)
「構いませんが……それはリンデル・ヴァール・スノーミル第五王子殿下としての命令ということでよろしいですか?」
「う~ん…女性については私個人からのお願いだよ。ついででいいから頼む。」
両手をぱちりと合わせてウィンクしてくる目の前の男を見て、グレインは深くため息を吐いた。
「はぁ……それで一体、その女性はどのような方なんでしょうか?」
グレインが調べることを承諾すると濁っていた瞳がきらりと輝いた。
それはまるで、面白いおもちゃを見つけた……とでもいうような顔だった。
「一言でいうと、影が薄い……幽霊のような女性と言ったらいいだろうか。いつも途中で見失ってしまうんだが、なんだか目が離せないんだ。一回でいいからあの目で私を見つめてほしいと思ってね…。」
その言葉を聞いた瞬間――。
ゾワリ。
その一言が、部屋の空気をわずかに歪めた。
***
新入生歓迎パーティーから数日後。
ヘルミーナが学園に何があるか見て回っていると──
(また制服が破られているわ……)
行く先々で破れた制服が見つかっていた。
(これで……五着目。もう、偶然とは言えないわよね。)
ヘルミーナは懐にしまっていた針と糸を取り出すとチクチクと縫い始める。
破れたところを見てみれば、縫い目に逆らうように、きれいに切られている。
それはまるで裁ちばさみを使ったかのような綺麗さだ。
(切れ目がきれいだから何とか直せるけど……こんな切り方、普通じゃない……制服に恨みでもあるのかしら…。)
パチンッ
(よしっ!できた。)
残ってしまった糸をハサミで切ると他に破れたところがないか確認する。
(大丈夫そうね…)
制服に刺繍されている名前を確認すると、ヘルミーナはそれをそっと靴箱の中に入れた。
(これでいいわね。)
そして、
それからさらに数日が経ち――
「えぇぇぇ~!!どういうことぉぉ!?」
以前よりも破れた制服が増え、ヘルミーナは仕立て直し作業に追われていた。
「ヘルミーナ…あなた最近一人でふらふらと出かけることが多いけど、何かあったの?心なしか元気がないような気がするし…。もしかして最近噂になっていることが関係しているのかしら?」
教室に戻り、リルベーラの隣に座るとノートを取り出した。
《え、噂……?》
「知らないの?最近、女子生徒の中で噂になっているのよ。制服がなくなったと思ったら、靴箱の中に入ってるって…しかも前より頑丈になって戻ってくるってね。」
全てを見透かしたように見てくるリルベーラ。
「中には、制服が変わって戻ってくるから怖いって言って、泣いてた子もいるみたいね」
その言葉はすでにヘルミーナが何をしているか断定しているような口ぶりだった。
「うっ…」
「で、何があったの?」
ヘルミーナは少し考えると、何があったのかを書いていく。
《この学園広いから、何があるか見て回っていたら、いたるところで破れた制服に出会うの。》
「え?破れた制服!?」
リルベーラの言葉にこくりと頷いた。
《そう…初めは「たまたまかな~」って思っていたんだけど、一日多い時は五着くらい破かれてて…。》
初めのうちは五日に一回くらいだった出来事も、今では毎日起きている。
《もう、追いつかないのよね。でも困っている人がいると思ったら放っておけないし。》
リルベーラはヘルミーナを見ると盛大にため息を吐いた。
「ヘルミーナ。なんでもっと早く教えてくれないのよ!?それはもう事件よ。……一人で抱える話じゃないわ」
リルベーラは少し考えると口を開いた。
「ヘルミーナ。今まで何着も直してきたんでしょ?直していて何か気づいたことはなかったの?」
《気づいたこと?》
リルベーラの言葉に首を傾げると、今までの制服を思い出した。
《そういえば、全て切れ目がきれいに切られていたのよ。戸惑うことなく一発で。》
布を裁断するに慣れていないときれいな切れ目にはならない。
しかし、どの制服も綺麗に切られていて、直すには時間がかからなかった。
「へぇ~…っとなると、もしかしたら布製品を扱うことに慣れている人かもしれないわね。」
その言葉を聞いて、ヘルミーナはピンッときた。
(この切り口……もしかして……。)
《仕立て屋さん…とか、手芸屋さん…とかと関係があるのかも…。でも、もし仕立て屋さんがそんなことをしているとしたら…。なんだか気に食わないわね。》
(……仕立て屋さんが、こんなことをするかな……。)
そこまで考えて、ヘルミーナは思考を止めた。
ヘルミーナは胸の奥に、言葉にできない違和感を残したままノートを閉じた。
100
あなたにおすすめの小説
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
ラウリーは夢を見ない
ひづき
ファンタジー
公爵家に生まれたラウリーは失敗作だと両親に評価された。
ラウリーの婚約者は男爵家の跡取り息子で、不良物件を押し付けられたとご立腹。お前に使わせる金は一切ないと言う。
父である公爵は、ラウリーの婚約者の言い分を汲んで清貧を覚えさせるためにラウリーへの予算を半分に削れと言い出した。
「───お嬢様を餓死でもさせるおつもりですか?」
ないものを削れだなんて無理難題、大変ね。と、ラウリーは他人事である。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる