荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女の里帰り。

突然の帰宅。

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「イアンお兄様ぁぁぁ!!」


ロックバードを倒し、馬車を大破させてしまったアンネリーゼは、近くに捨てられていた荷台を拝借し、ロックバードを乗せると自分で引きながら歩いて実家まで帰ってきた。


大きな門の前まで着くと、アンネリーゼによく似た顔の男が門前の兵士と話をしていた。


イアン・ラファリエール。


アンネリーゼの4歳年上の18歳で、ラファリエール公爵家の嫡男であり、大神官の地位を持つ。



大きく手を振りながらロックバードを引いている美しい少女を見て、兵士は顔を赤らめることなく真っ青な顔をしていた。



イアンはアンネリーゼに背を向けていてまだ気づいていないためか、目の前の兵士の顔が真っ青になっていく姿を見て首を傾げていた。


「どうした?」



「ひ、ひゃ…」



言葉にならない声を上げて後ろを指さす兵士に何かあったのではないかと振り返れば…



「イアンお兄様ぁぁぁぁ!!!」



そこには6年前から王都に行き、今まで帰ってくることのなかった妹のアンネリーゼが手を振って近づいてくるのが見えた。



「ア、ア、アンネリーゼ!?!?」


久しぶりの兄妹の再会。


抱擁などをして無事を確かめ合うのもひとつかと思うところだが、アンネリーゼが近づこうとすればイアンはゆっくり距離をとる。


「はい、アンネリーゼです。とても会いたかったんですよ…って、なんで逃げるんですか!?」



それもそのはずだ…


自分より大きなフライパンをぶん回した結果、聖女のドレスは破け、ロックバードを倒した時の返り血がトマトソースのように白いドレスに付いているのだから…


「いや、おま、その格好…自分の格好を見てからいいなさい!!」


ゆっくり後ろに下がって屋敷の扉を開ければサッと中に入ってダミアンの所に走って向かうイアン。


「あ、分かりました。追いかけっこですね!!それだったら負けませんよ!」


6年ぶりにあった妹をみてもう少しお淑やかになったのではないかと想像していたイアンだったが、会った瞬間全てを悟った。


あぁ、そのまま大きくなってしまったのだな…


と…。



猛スピードで走り回る兄妹をみて、侍女や従者たちは「昔に戻ったみたいねー」とほのぼのしている。


それからアンネリーゼを蒔くため屋敷中を走り回った後、イアンはダミアンのいる書斎へと足を運んだ。



***



「父上!!大変です!!」


ダミアンが書斎で仕事をしていると突然バタバタと廊下が騒がしくなり、勢いよく扉が開く。


「なんだ…イアンか。そんなに慌ててどうしたんだ。」


「ア、ア、アンネリーゼが!!」


イアンの慌てようにアンネリーゼに何かあったのではないかと立ち上がれば、イアンの後ろからアンネリーゼがひょっこりと顔を出した。


「お久しぶりです。お父様!ただ今帰りました!!」


「ア、ア、アンネリーゼ…!?」


ダミアンはイアンと同じようにギョッとした顔でアンネリーゼを見る。


それもそのはずだ…。聖女の制服である白いドレスは所々破れ、返り血がベッタリと付いているのだから。



「ほ、ほ、ほ、本物か?まさか…魔人が化けてるとか…」


あまりの有様に魔人が化けているのではないかと思い、、本物かどうか確かめるようにアンネリーゼの顔を恐る恐る触る。


「ふふ…くすぐったいです。お父様…。」


アンネリーゼが笑うとダミアンは目に涙を浮かべた。


「ほ、ほ、本物なんだな?」


8歳から王都にあるアウローラ大神殿に入り、ラファリエール公爵領を出て6年。ダミアンとアンネリーゼが最後に会ったのは10歳の時。アンネリーゼが大聖女になってから4年間、一度も会うことが出来なかった。


聖女になったからと言って会えない訳ではないのだが、アンネリーゼだけは何度面談申請しても却下されたのだ。


そのおかげでこの4年間やり取りは手紙のみ。



大きくなった姿を想像することしか出来なかった娘が今目の前にいる。


涙が出ない訳がなかった。



「ふふふ。そんな訳ないじゃないですか!!次の任務地に行くために一度こちらに寄ったのです。」



「次の任務地だと?」



ダミアンの問いかけにこくりとうなずくと、いつの間にか婚約者がいて浮気を理由に婚約破棄されたこと。勝手に逆ギレしその男のせいで王都から追放され別の配属先になったことを伝えた。


「そ、それは本当なのか?」


「はい。婚約証明書まで見せられましたから。ですが、私の名前がアンネリーゼではなくアンネリーズになっていたんですよねぇ…。お父様は間違いないと思いますので恐らく別の誰かが偽装したのではないかと思うんですが…。」


テープで貼り付けた婚約証明書をダミアンに見せると手のひらを強く握ってワナワナと身体を震わせた。


「またあいつか…」


どうやら書類に目を通しただけでも誰が仕組んだのかすぐに分かったようだ。


「でも幸運なことに次の配属先はラファリエール領のすぐ隣なんです。そのおかげで今回も里帰りができました。と、言ってもかなり危険な場所なんですけど。」


「「プロセルピナ神殿か…」」


危険な場所、ラファリエール公爵領の隣と来れば声に出さなくても伝わる。


「はい。ずっとプロセルピナ神殿のことは気になっていましたし(どれだけ美味しいのか…)チャンスかと思いまして。」



少し口角を上げて微笑む姿は聖女みたいに美しい。



「(こうやって見ると大人になったなぁ…)」



まぁ、顔だけなのだが…。



2人がしみじみとしていればアンネリーゼはそのまま話を続けた。



「あっ、そうそう…近々私と一緒に行動したいという聖女と神官がやって来ますのでそちらの対応だけお願いしてもよろしいでしょうか?」





……


………



「「えっ!?」」


前置きもなくアンネリーゼ。アンネリーゼの連れてきた聖女と神官ということは間違いなくアウローラ大神殿にいた人たちということ。


ということは…



アウローラ大神殿は今誰が運営しているのだろうか。



「ちょ、ちょっと待て?念の為に聞くが…アウローラ大神殿は…」



「確か、エルネスト王太子殿下の新しい?婚約者である…れ、れ、れ、さんが運営しているはずですよ。私と一緒に働いていた人は1人も残っていませんが…」


頑張って名前を思い出そうとしたアンネリーゼだったが、レリアの名前が頭から抜けてしまっていた。


こうして、イアンとダミアンはアンネリーゼが次の配属先に行くまで対応に追われる事になるのだった…。



「アンネリーゼ…。こういうことは先に言いなさい。」
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