荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

文字の大きさ
10 / 105
食いしん坊聖女の里帰り。

婚約よりもプリンが大事。

しおりを挟む
「お前たち、婚約しなさい。」







……



………



「「は?」」





事の発端はほんの少し前に遡る。


ロックバードの住処を見つけたアンネリーゼはロックバードの卵を使ったプリンが食べたいと一人家を飛び出していき、ケルネリウスはイアンと今まで研究してきた内容について熱い談義を繰り広げていた。


そんなこんなで各々好きなことをして楽しんでいたのだが、とある出来事によって楽しかった時間は突然終わりを迎えることになる。



「これを見なさい。」



ダミアンがそう言って取り出したのは一通の手紙だ。手紙の差出人にはグレゴリウス・アスデウスと書かれている。



「父…からですか。」


無言でうなずき、手紙をケルネリウスの前にすっと持っていく。


どうやら読むようにということのようだ。


(なんで今更…。)


封筒から手紙を取り出せばアンネリーゼも内容が気になっているのか後ろから覗き込んだ。


"神官騎士として働いていたお前でもいいと言っている令嬢がいる。荒地セラフィエルに行くくらいなら帰ってきて結婚しろ。それがお前のためでもあり、お前が我が家の役に立てる唯一の方法だ"


(昔から神官騎士に対して忌避感を持っている事は知っていたが…ここまでとはな…。)


ラファリエール公爵家に来て一ヶ月。


他の貴族たちが嫌がる神官騎士という役職も、ラファリエール領に住む人達からすれば騎士をしている人=神官騎士というイメージが強い。


そのためすっかり忘れていたのだ。


ラファリエール公爵領以外では神官騎士が疎まれる存在だということを…。


「神官騎士になってから結婚しろと何回か言われたことはあったが…まさか縁談まで持ってくるとはなぁ。」


送られてきた手紙をぐしゃりと握りつぶせばそれを見ていたアンネリーゼが獣のような低い声で唸る。



「ん゙ーん゙ー…」


急に唸り始めたからかケルネリウスは何事かとアンネリーゼの方を向けば腕の前で手を組み、目を瞑りながらゆらゆらと左右に頭を揺らす姿が目に入った。



「ど、どうした?」


声をかければ、髪の奥で目がパチリと開き隙間からこちらを見てくるアンネリーゼ。



(こ、こ、こわッ…。)



人形のように整った顔をしているからか、無表情のまま無言で見つめられると胸が締め付けられるような、背筋がヒヤッとするような感覚に陥る。





……


………


それから暫く二人で見つめ合っていると、アンネリーゼがため息を吐いた。


「はぁ…そうね!リース。お父様の言う通り、取りあえず私と婚約するのはどうかしら」






……


………



「は!?」



先ほどダミアンにも同じことを言われたが、アンネリーゼからも同じことを言われると思っていなかったケルネリウスは予想外の言葉に抑揚のない声で返事をした。



「まぁ、形だけよ。色々考えたの。ケルネリウスは縁談が面倒。しかもアスデウス侯爵がこれで引くとは思えないし、結婚して新刊騎士を辞めるまでこの話は続くでしょ?」


「あ、あぁ。そうだな。」



「私は、また婚約破棄騒動に巻き込まれるのはごめんなの。でもこのままで終わるとは思えないし。だったらぁ…私とリースが婚約するのが一番丸く収まると思わない?」



頬に手を当てて首を傾げる姿は美女そのものだが、中身を知っているからか大きな調理器具を振り回す猛獣にしか感じないのは気のせいではないだろう。



「だが…お前はまだ14で俺は22だ。あまりに歳が離れすぎているし、アンナにはこれからいい相手が現れるんじゃないか?」


8歳差であれば許容範囲と言えなくはないが、アンネリーゼが10歳の頃からペアを組んでいるケルネリウスにとってアンネリーゼはまだ小さな子供にしか見えなかった。


「まぁ、私こう見えて中身は40歳のおばさんだし、年上が好きだからいいのよ。それに結婚するわけじゃないんだし、リースに好きな人が出来た時考えましょう?そんな事よりも私は今ロックバードのプリンが食べたいの!!だからこの話はもう終わり!」



サラリと大事なことを言い放ち、「ロックバードの卵ちゃんが呼んでいるわぁ~」と言って部屋から飛び出していく。


その姿を見慣れているのか、ダミアンとイアンは溜息をついた。


「えっと…本当にそれでよろしいのですか?」



「「アンナがいいと言っているし、いいんじゃないか?」」



明後日の方向を見ながら適当に相槌を打つ姿はアンネリーゼそっくりだ。


いや、アンネリーゼが2人に似ていると言った方が正しいだろうか。


ケルネリウスは2人の様子を見て適当に相槌を打つしかなかった。



「そ、そうですか。では一応婚約という事で…」


婚約することを伝えれば、笑顔でバッとこちらを振り返り立ち上がると速歩でこちらに近付いてくる。と同時に、イアンは肩を、ダミアンは手を強く握りブンブンと振り回した。

「そうか!いやぁ。リースならきっといいと言ってくれると思っていたよ。私から王家とアスデウス侯爵には手紙を出しておこう。(これであのクソ王家と縁が切れる。)」



「いやぁ…ずっと心配だったんだ。だから助かるよ!!(君しかアンナを止められる者はいないからね。)」



含みのある言葉に少し違和感を覚えるケルネリウスだったが、それよりも他の事が気になっていた。


(それにしても40歳のおばさんと言うのは…一体どういうことだろうか…。)





***


一方…

アンネリーゼ達が追放されてもうすぐ1ヶ月が経とうとしているころ…


王城の至る所では異常が起き始めていた。



「おい、最近魔物が増えていると思わないか?」



被害という被害は出ていないが、小さなネズミの魔物ムスクルスが色々なところに出現していた。


ムスクルス自体は小さいため騎士団の持っている浄化を施した剣で倒すことが可能だが、ここ数年魔物が入り込んだことのない王城ではちょっとした騒ぎになりつつあった。


「確かに増えているな。大聖女様は一体何をしているんだ…。」


「さぁな…。最近アウローラ大神殿を出入りする神官や聖女も減っているという噂だぞ?あとは夜な夜な男女の営みの声が聞こえるとか…誰も怖くて近づけないらしい。」


違和感には気づいているものの、大聖女が変わっていることに気づいている者は誰一人としていなかった。


そして、王城がそんな事になっていることも知らず、アンネリーゼは溶けるような笑顔でロックバードのプリンを食べているのだった。



「んふふふ~。幸せぇぇ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す

金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。 「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」 魅了魔法? なんだそれは? その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。 R15は死のシーンがあるための保険です。 独自の異世界の物語です。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...