荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女はプロセルピナ神殿へ行く。

毒入り紅茶のおもてなし。

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「へぇ~…外は少し残念な感じでしたけど、中は思ったよりも綺麗なんですね。」



「「「「「(えっ!?ここで喧嘩売るの!?)」」」」」


中に入れば、他の神殿と変わらない見た目をしている。どうやら外観だけが他とは違うようだ。


思ったままの感想をそのまま口に出せば、他の聖女たちがアンネリーゼの方をバッと振り向いた。


「フォッフォッフォ。ここは神殿ですからのぉ…それなりに綺麗にしておりますじゃ。旅の疲れもあるじゃろうし、こちらで少しお茶を飲んでお待ちくだされ。」


食堂へと連れてこられたアンネリーゼ達は各々空いている席へと座る。


すると、どこに隠れていたのか分からないが、黒ドレスに身を包んだ女性達がお茶とお菓子を運んでくる。


(思っていたよりも、若い人たちばかりじゃない。)


ここにいる聖女は妙齢の方たちだけと聞いていただけになんだか拍子抜けだ。


人数を数えて見ると、10人以上はいるだろうか。


「「「「こちらをどうぞ。」」」」


一糸乱れぬ動きで目の前にクッキーと紅茶を置いていく女性たち。


「ありがとう。」



紅茶はまだ淹れたばかりのようで、湯気が出ている。


持ってきてくれた聖女に感謝の気持ちを伝えると、「どういたしまして。」と返ってくる。


他の人達も同じように感謝の気持ちを伝えているが、返ってくる言葉は決まって「どういたしまして。」のみ。



それから暫くしてクッキーと紅茶が全員に行き渡ると、腰を前に少し屈め、手を前に差し出しながら同じ方向、同じ角度に頭を傾けると同じ声色で一言…


「「「「どうぞ、召し上がれ。」」」」


とだけ言ってこの場を去っていく。


その姿に違和感を感じたアンネリーゼはふと聖女たちの足元を見た。


(あれ…影がない…。)


人形のような一糸乱れぬ動き。録音されたように同じ言葉だけを話し、影のない聖女たち。


先ほどまで感じていた違和感の正体に気づいたアンネリーゼは、急いで紅茶やクッキーに手を出さないように伝える。


「皆、紅茶とクッキーには手を出さないで!!!もし口に入れた人はすぐに吐き出して!!」


アンネリーゼの慌てぶりに驚いた聖女達は急いで紅茶を吐き出した。



(やられたわ…いつもだったら人から貰ったものに手をつけないように言っていたけど…神殿だからって油断していた…。)


「チッ…」


小さく舌打ちすると思っていた以上に響いていたのか、他の人達がびくりと肩を揺らす。


「おい…。リーゼ。イライラしているのが顔に出ているぞ?何があったか説明してくれ…。」


ケルネリウスがアンネリーゼのことをリーゼと呼ぶ時はアンネリーゼがキレている時やイライラしている時が多い。


何があったのか説明を求めればアンネリーゼは少し考えたあとポツリと言った。


「あれは聖女じゃないわ。恐らくあのおじいさんも…。」


足元を見るように目線を下げればケルネリウスもわかったのか眉間に皺を寄せた。


「アニデヴォーラか…。」


アニデヴォーラ。

人の魂と記憶を食べ、食べた相手に成り代わるという魔物で、魔物ランクはCランクからAランクと幅広い。


「えぇ…記憶も食べると聞くから、聖女が若いのは昔の頃なのだと思うわ。」


記憶まで食べられているため、食べた本人になりきって生活をしているせいか、見分けが付きにくく、アニデヴォーラに変わっていても気付かないことが多い。そのため人に紛れて一緒に生活をしている事もあると聞く。


一緒に暮らしていても最初のうちは問題ないのだが、相手の中身は魔物。瘴気に当てられて体調が悪くなったところを魔人になる前に魂ごと食べてしまうというかなり厄介な魔物だ。


しかも食べた人数、記憶の多さによって強さが変わってくるからタチが悪い。


「恐らく、ここにいる人たちはもう全員アニデヴォーラに食べられているわね。それで今度は私達を標的にしようとしたってわけ…あの紅茶もクッキーも毒入りだと思うわ…食べてたら今ごろ魂ごと餌食にされていたはずよ。」



アンネリーゼが粗方説明を終えれば待っていたかのように"パチパチパチ"と拍手の音が聞こえる。


気の抜けたような拍手が聞こえた方向を見れば先ほど出ていったはずのおじいさんがヨダレを垂らしながらこちらを見ていた。


「ぢゅるり…。お見事です。リーゼ様。」



ケルネリウスが"リーゼ"と読んでいたのを聞いていたのだろう。執事姿のおじいさんがこちらに近づいてきながら、先ほどアンネリーゼが話した事を話し出す。



「そうです。私たちはアニデヴォーラ。魂を喰らう者です。ここにいた方々は我々が美味しくいただきました。ここはすでに私達の住処…ですので貴方達にも私達の美味しい餌となっていただきましょう。」



そう言うやいなや、隠れていたはずのアニデヴォーラ達が出てきて聖女たちへと襲いかかろうとした。



その時…



「「「「キャー」」」」


叫び声と同時に遠くからペティナイフが飛んできて、アニデヴォーラの左胸と額に突き刺さる。


アニデヴォーラは魂と脳を喰らうため魔石が胸の辺りもしくは額にあることが多いのだ。


それを知っていたアンネリーゼは同時に両方を攻撃した。


すると実態を保っていられないのかその場に崩れ落ちた。


「私、ご飯を食べるのは好きだけど、ご飯にされるのは嫌なのよ。」


持っていたペティーナイフを舌で軽く舐める姿はまるで吸血鬼のようだ。


「だからね…私たちの代わりに死んでちょうだい?」


瞳孔が開いた状態で話す姿は魔王よりも怖い。



アニデヴォーラ達も同じことを思ったのかアンネリーゼから少し距離を取る。




「ざっと見た感じ…100体以上かしら。」



周りを見渡し、どの位いるのか目視で確認すると、頭の中で割り当てを考える。


戦えるのはケルネリウスを含む神官騎士5人と大神官1人。それと中聖女の3人のみ。



こめかみ辺りを人差し指でグリグリしながら何体ずつ倒せばいいか計算すると…


「うーん…ざっと1人10体倒せばいいから…うん。いけるわね!!」




「「「「(いや、無理だから!!)」」」」


1人10体倒せばいいと言われて心の中で叫ぶのはいつものお約束だ。



「10体か…それなら余裕だな。」



アンネリーゼの言葉にうなずき返すのはケルネリウス1人だけである。



「「「「(余裕じゃねぇーよ!!)」」」」


皆の言葉が一致するものの…実際はそんな余裕はなく苦い顔をしながら、一体ずつ、時間をかけてもいいから的確に倒していくのだった。



そしてその頃アンネリーゼはというと…。





「んふふ。さぁ、遊びはこれからよ?私と一緒に遊びましょう?」


ペティーナイフを片手に4本ずつそれぞれの指に挟みながら、1本ずつ丁寧に投げて額をぶち抜いていく。



「んふふ。リース。どっちがたくさん倒せるか競争しましょ?負けたら…一週間相手の言うことを聞くって言うのはどう?」


「あぁ、いいな。じゃあ今からスタートだ。」


ケルネリウスとアンネリーゼは悪魔のような笑みを浮かべながら次から次へとアニデヴォーラを倒していくのだった。



「お、お前は一体…なんなんだ。」



そして最後の一体である、アニデヴォーラの胸元にペティーナイフを刺せば、冷たい声色で言い放つ。


「私?私は王都を追われた大聖女よ。そこら辺にいる聖女と何も変わらないわ!!」


全ての実体がなくなり魔石になったのを確認すれば、使わなかったペティーナイフをクルクルと回しながらケルネリウスのところへ向かう。


「ふふふ。私は51体倒したわ!」



「くっそー!!また負けたか。俺は44体だ。」



「ふふ …この勝負、私の勝ちね!!」



その時の笑顔は14歳の少女らしい笑顔だった。



因みに他の聖女たちはと言うと…皆で一体ずつ倒すのがやっとで、この二人に敵うものは誰一人としていなかった。



「魔物より化け物ね…。」


誰かが呟いた一言に、皆が頷いた。
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