荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

文字の大きさ
16 / 105
食いしん坊聖女はプロセルピナ神殿へ行く。

クラーブン鍋。

しおりを挟む
クラーブン叩きを始めてそろそろ1時間が経過しようとしていた。


「なんだか…一匹にしては動きが早いわね…そろそろ疲れが出てきてもいいはずなのに。」


元々体力バカのアンネリーゼにとって1時間全力で走り回るのは余裕なのだが、クラーブンが1時間走り回るには結構無理があるのではないだろうか。


縦横1辺50mくらいの大きさの正方形の中に所狭しと並ぶ大きい穴。


20個以上ある穴を縦横無尽に走り回るクラーブンを見てふとある事に気がついた。


(蟹って基本は横歩きよね…縦に歩くのもいるのは知ってるけど…)



「んー…やっぱり蟹の生態なんて分からないわね…」



考えることを諦めたアンネリーゼはとあることに気づく。蟹の穴が広がる辺りから"ググー、カチカチ"という鳴き声のようなものが聞こえてきたのだ。




「ねぇ、リース?今の音聞こえた?」



"ググー"


"カチカチ"


そのタイミングでカチカチとなった方の穴から蟹のハサミが出てくる。




「あぁ、聞こえた。どうやら俺たちの考えが間違っていたようだな…。」



穴の下には通路のようなものが広がっていて、穴の中を行き来できるようになっているのかと思っていた。


が、実際は穴一つ一つがクラーブンの巣であり、それぞれ別々の個体が住んでいたという訳だ。



「恐らくググーの音とタイミングでカチカチはアンネリーゼの場所を知らせていたのだろう。」



アンネリーゼの問に答えれば、アンネリーゼのお腹が「ぐぅ~~」となって正解だと返事をした。


「んふ…ふふふ…なーんだ!!走り回って損しちゃったわね!!お腹も空いたし、ここら辺で遊びの時間は終わりよ。一体ずつ穴の中にいる事さえ分かればあとは簡単なんだから!!」


そう言うと先程まで使っていたフライパンをしまい、今度はハサミのような形をしていて先端は刃ではなく物が切れないようにトングのような形をしているトングばさみを取りだした。


因みにサイズはアンネリーゼの身長より少し大きいサイズのトングハサミだ。



「さぁ、今度はこっちから攻めさせていただきますわ!!」


大きなトングばさみを軽々と持ちながら、"カチカチ"という音とハサミが出てくるタイミングを見計らって素早くトングバサミでクラーブンのハサミを掴む。


そして、トングバサミの指穴を開かないように閉じて腰に力を入れれば、穴の中から引っこ抜く。


「そぉーれ!!」


引っこ抜いた瞬間、目を回しているクラーブンが頭の上から落ちてくる…。


「うっはぁぁぁ!クラーブンの一本釣りよぉぉぉ!!」


ケルネリウスはアンネリーゼの楽しそうな姿を見ながら、溜息を吐いた。


「いや、これ何体持って帰るつもりなんだ…?」



アンネリーゼのすぐ後ろにはクラーブンの山ができていた。



***



「皆!今日の夜ご飯はクラーブンよぉぉぉ!!!」


それぞれが言われた通りの仕事をしていればズルズルと大きな音を立てながら幸せそうな顔をしている少女と、呆れの色を浮かべている青年が神殿に向かって歩いてくる。


青年の顔を見た聖女たちは全てを悟った。


「「「「(あぁ…また振り回されたのね…)」」」」


と…。


いつもは真っ赤な血に染まっているはずのアンネリーゼが今日は泥だらけになっている。


しかも後ろには紐に繋がれたあまり美味しくなさそうな青い色をした魔物を引きずっていた。



「えっと…これ??が今日のご飯?」


皆の声を代表してエリザベッタが声を掛けると、まるでプレゼントをもらった子供のような嬉しそうな表情で頷いた。



「んふふ…そうよ!!美味しそうでしょ?」


目の前に出してくるクラーブン。先ほどの見間違いではないようでやはり青い色をしている。そのためか、あまり美味しそうに見えないのは気のせいだろうか。



「「「「(んー…これはアンナを、信じるしかないわね…)」」」」


アンネリーゼの事は大聖女としてはもちろんの事、料理に関しても期待を裏切らないというのは知っている。


もしかしたら見た目が悪いだけなのかも…と思った聖女達はご飯の支度の手伝いをしにアンネリーゼの後を追った。


「ふふ…今日はラファリエールを出る時にもらった野菜も残っているし、外でクラーブン鍋を作りましょう!!」


アンネリーゼは腕まくりをすると業務用冷蔵庫から白菜、長ネギ、しめじ、えのき、人参、しいたけなどあらゆる野菜を取りだしていくとそれを受け取った聖女達が手分けして野菜を切り始めた。



皆が野菜を切ってくれている間に、出汁とお鍋のつゆを作っていく。


調味料は王都やラファリエールにいる時に作ったオリジナルだ。


「出汁は…ロックバードの骨を使おうかな。本当は昆布とかカツオがあればいいんだけど…まだ出会えて居ないのよね。いつか出会えればいいんだけど…。」


料理を作る時は出汁が命。


特に和食を作るとなれば料理によって出汁の取り方も変わるし味も全く変わってくるのだ。


ロックバードの骨を水のなかに入れて火にかける。出来れば2時間以上弱火で煮込みたいところだが、今回はクラーブンがメインなので、1時間と少し短めにした。


出汁を作っている間にクラーブン鍋用のつゆと、クラーブンの下処理をしていく。


大きいサイズの包丁を持ち手足の関節目がけて振り下ろせば胴体と手足がきれいに分かれた。食べやすいように殻に切り込みを入れていけば手足は完成だ。


次に胴体の部分…。

やはりカニといえばカニ味噌だ。そのため、ここだけ外せない。


「んふふ。食べやすいように殻を外して…」


魔石を取り出しておけば準備は万端だ。


あとは盛り付けだけである。


土台となる白菜を敷き詰め、その上に彩りよく野菜やキノコを並べていく。本当は豆腐もあればよかったが時期的に作れないので諦めた。


それから残っていたロックバードのお肉も入れて1番上にクラーブンを載せたら作っておいた出汁とタレをかけ回し、火が通りやすいように鍋に蓋をする。


火にかけてグツグツという音を聞きながら待っていれば煙からいい匂いが神殿の外に充満してきた。



「んふ…んふふ…んふふふ…まさか蟹鍋…じゃなかった。クラーブン鍋が食べられるなんて思ってもいなかったわ!!」


早く煮えないかとお玉と器を手に持ちながら待つ姿はまるで犬がご飯を食べるのを待っている姿にそっくりだ。


聖女たちも初めはクラーブンの色合いをみて半信半疑だったようだが、いい匂いが漂って来てからは大人しく鍋の中身が出来上がるのを待っていた。



それから暫く待っていれば鍋の蓋がカタカタと揺れ始め、中の出汁が溢れ出てきた。


「いい感じね!!さぁ頂きましょうか。」


アンネリーゼの声と同時に蓋を取れば青から赤色に変わったクラーブンが姿を現す。


「「「「「おいしそぉぉぉ~!!!」」」」」


もっと他に言いたいことがあるのではないかと思うが、感動した時こそ単純な言葉しか出なかったりするものだ。皆の声が重なるとその様子を見たアンネリーゼは幸せそうに笑った。


一人一人に盛り付けが終われば、感謝の言葉と祈りの言葉を唱える。


「昼の女神エメラール様。今日という日が無事に終えられたことを感謝いたします。夜を守護する女神ノクスーレ様。皆が新しい朝を迎えることができますようお守りください。豊穣の女神ケレスティナ様に感謝を。」



祈りが終わると同時にクラーブンを食べるアンネリーゼ。



「ん~…ん~…」


言葉にならない声でケルネリウスを叩きながら食べるように促すと、ケルネリウスも恐る恐るクラーブンに手をかけた。


「…うんまっ…」


「美味しい~!!頑張って討伐した甲斐があったわね!!」



この後クラーブンはあっという間に皆の胃袋におさまるのだった。



「んふふ。やっぱり運動後の食事はしあわせぇぇぇぇぇ~~~!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

処理中です...