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食いしん坊聖女。荒地を開拓する②~海の町を復興しよう~
海亀島のシルトクレーテ。
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「まずは、私たちにできることをしないとね!」
テントから出て伸びをすると、肩をぐるっと回し、首をゆっくり動かす。
テントといっても、そこまで簡易なものではなく、ドーム型の巨大なテントだ。
普通のものに比べれば疲労はたまりにくいのだが、ベッドなどで寝ているわけではないため、なかなか疲れは取れない。
だからこそ、早急にこの辺りを浄化し、人を迎え入れられる環境を整えておくことが大切だった。
(手紙のやり取りはできないけど……恐らくイアンお兄様がプロセルピナ神殿に行って、私が海に来たことをアレットあたりから聞いていると思うのよね)
兄妹だからなのか、お互いの動きが手に取るようにわかる二人。
さすがである。
「あなたたちは、ここで今まで通り火の番をお願い。そろそろ拠点になる場所が欲しいから、この辺りを少し探索してくるわ」
アンネリーゼはそれだけ伝えると、ケルネリウスと一緒にその場を後にした。
それから歩き続けること数分——
キャンプ地からそれほど離れているわけではないが、存在感のある“それ”が目に入った。
…
……
………
「リース……昨日まで、あんなものあそこにあったかしら?」
指し示す方向へ目を向ければ、海の真ん中に、昨日まではなかったはずの大きな島が出来上がっている。
「……いや、なかったはずだ。少なくとも俺は見ていないぞ?」
「やっぱり……? なかったわよね」
一日であそこまで巨大な島が出来上がるだろうか…
楕円形のような形をした大きな島と、それに連なるように小さめの丸い島が浮かんでいる。
「んふふ……まるで、亀みたいね」
「亀……って、あの物語に出てくる亀か!?」
ルシフェール国には亀は存在しない。
物語の中では亀が登場する話も少なくないが、実在はしておらず、見たことのある人はほとんどいなかった。
むしろ伝説の魔物…なんていわれるほどである。
元々研究好きなケルネリウスは、“亀”という言葉を聞いて大興奮していた。
「そう。中央にあるのが甲羅で、それに連なる小島が頭……ね? 見えなくもないでしょ?」
目を細めて確認するケルネリウスは、「確かに……」と頷いている。
二人で島を見ていると、中央の水が突然引き、道が出来上がった。
まるで「来なさい」と言われているかのような、そんな不思議な道を、二人はゆっくりと進み始めた。
(ここって、干潮の時間があったのねぇ~)
(ほ、本当に……こんなところを通って大丈夫なのか……!?)
軽快なステップで歩くアンネリーゼと、少し腰を引きながら海が突然襲ってこないかとびくついているケルネリウス。
二人が歩いている姿は、海岸にいる聖女たちからも丸見えで、聖女たちは笑いをこらえるのに必死だった。
***
「外の世界とは、なんだか違う雰囲気がするわね……」
島に降り立ってみると、他の荒地とは異なる空気が漂っていた。
何というのだろうか——瘴気が少ないような、そんな感覚。
完全に浄化されているわけではないが、それに近いものを感じる。
空気は澄んでいて、風の流れも穏やかで足元の土は柔らかく、どこか“生きている”ような気配すらある。
「神殿以外で、こんなに澄んだ空気の場所はラファリエール領くらいしかなかったし……。こんなに瘴気が満ちているセラフィエルの地で、ここまできれいな場所があったなんて。なんだか不思議な感覚だわ……」
「ねぇ……そう思わない?」
ケルネリウスに声を掛けようと後ろを振り向けば、先ほどまでいたはずの彼の姿は、どこにもなかった。
…
……
………
「えっ……と……? ケルネリウス? どこに行ったの??」
辺りを見渡しても、緑が豊かな木々ばかりで、ケルネリウスの姿は見当たらない。しかも歩いてきたはずの道もなくなっている…
(このまま前に進むしかないわね……)
アンネリーゼは少し考えると、そのまま道を進むことにした。このまま下手に戻っても迷ってしまうこともあるからだ。
アンネリーゼが歩き始めれば、木々が勝手に避けて道を作り、通れば静かに閉ざされていく。
まるで、生きているような木々たち。
アンネリーゼを導くために動いているようだった。
少し警戒しながら前へ進んでいくと、森の奥深くに、一つの祠が見えてきた。
「……え? 祠?」
この世界は、西洋風のファンタジー世界。
そんな場所に“祠”があるなんて……なんだか妙な感じがする。
「ふぅ……やっと来たか」
祠を見ていると、頭の中に声が響き渡った。
…
……
………
「……えっと、私? 頭でもおかしくなったかしら?」
目の前には祠しかないというのに、頭には“中二病よろしく”な声が聞こえる。
思わず冷静にツッコミを入れると、声の主はそのまま話し始めた。
「まぁ、そんなことはどうでもよい。栗花落 杏菜よ。お主のことは以前から知っておったのだ。儂の未来予知でな……」
「えっと…あなたが私のことを知っているのはわかったわ。でも、私はあなたに興味が全くないんだけど…ここから出して貰えないかしら?」
元々食べることにしか興味が無いアンネリーゼは、目の前にある祠に挨拶をすると後ろを振り返りゆっくりと歩き出す。
どうやら本当に興味が無いらしい。
その素振りを見せた祠は急いでアンネリーゼを止める。どうやら本当に用事があるようだ。
「わ、わかった。お主にはお、おいしい魔物の情報をやろう。ここに皆で住んでも構わんから儂の話を聞いてくれんか?」
あまりの興味の無さに思わず祠は自分から条件を付ける。
「美味しい魔物!?それは海の魔物かしら?」
すると、先ほどまで興味がなさそうな顔をしていたアンネリーゼとは打って変わって、無邪気な笑顔をした年相応の女の子が姿を現した。
祠はアンネリーゼが帰ることを辞めて残ってくれたことにホッとしていると、ゆっくりと話し出す。
「まず、儂は祠ではない。この島そのものだ。」
「この島……?がおじいさんなの?頭……大丈夫?」
あまりに頓珍漢なことを言う祠に思わず言葉の右ストレートが炸裂した。
「うっ…酷いな…お主。本当に食べ物以外に興味は無いんじゃのぉ。本当にあ奴そっくりじゃて…。仕方がない…あちらを見て見よ。」
あちらと言うがどちらを指しているか分からないアンネリーゼは祠が思っている方とは逆の方向を向いた。
「違う違う!そちらではない逆じゃ!!」
「分かりにくいじゃない。手とかないんだから右左ではっきり言ってくれないと…!」
少しむすくれながら逆を向くと、そこには
「えっ……と…。なんで」
この世界では見たことのない野菜や果物が、たくさん実っていた。
この世界に来て十五年。何とかお米は見つけたが、それでも見つからないものはたくさんあった。
大豆の元となる枝豆。
枝豆に似た豆はあったが、まったく同じものではなく、前世で食べたときのような味噌や醤油、豆腐を再現するのは難しかった。
それに、大根や梅、蕪などなど——
沢庵や梅干し、梅ジュースに梅酒……毎年自作していたからこそ、失われた味への寂しさはひとしおだった。
「ふぉっふぉっふぉ……どうやら、やっと聞く気になったようだの」
涙目になりながら、こくりと頷くアンネリーゼを見て、祠は話し始めた。
「儂の名前は、シルトクレーテ。この島そのものであり、海亀の魔物でもある。……と、言っても元は人間だったんだがのぉ」
…
……
………
「シルトクレーテって……あの?」
アンネリーゼは、シルトクレーテの名を聞いたことがあった。
というより、ルシフェール国に住むほとんどの人が、その名を知っている。
「……“あの?”が何を指すかは分からんが、海亀のシルトクレーテということであれば、恐らく儂しかおらんはずだのぉ」
シルトクレーテの伝説——
それは、シルトクレーテと聖女が手を組み、国を救ったという物語。
瘴気が多く、今よりも魔物の数が圧倒的に多かった時代。
海亀に乗った聖女が現れた。
海亀の背中には、この世界では見たことのない作物がたくさん実っていて、魔物を倒すと、それらを使って料理として提供した。
魔物とは思えないほど穏やかで、知性を持ったシルトクレーテ。
そんな彼に、人々は憧れを抱いた。
しかし、聖女が亡くなった後、シルトクレーテもまた姿を消した——
それが、物語のあらすじだった。
「さて、じゃぁ儂の昔話に少しばかり付き合ってくれるかのぉ?」
テントから出て伸びをすると、肩をぐるっと回し、首をゆっくり動かす。
テントといっても、そこまで簡易なものではなく、ドーム型の巨大なテントだ。
普通のものに比べれば疲労はたまりにくいのだが、ベッドなどで寝ているわけではないため、なかなか疲れは取れない。
だからこそ、早急にこの辺りを浄化し、人を迎え入れられる環境を整えておくことが大切だった。
(手紙のやり取りはできないけど……恐らくイアンお兄様がプロセルピナ神殿に行って、私が海に来たことをアレットあたりから聞いていると思うのよね)
兄妹だからなのか、お互いの動きが手に取るようにわかる二人。
さすがである。
「あなたたちは、ここで今まで通り火の番をお願い。そろそろ拠点になる場所が欲しいから、この辺りを少し探索してくるわ」
アンネリーゼはそれだけ伝えると、ケルネリウスと一緒にその場を後にした。
それから歩き続けること数分——
キャンプ地からそれほど離れているわけではないが、存在感のある“それ”が目に入った。
…
……
………
「リース……昨日まで、あんなものあそこにあったかしら?」
指し示す方向へ目を向ければ、海の真ん中に、昨日まではなかったはずの大きな島が出来上がっている。
「……いや、なかったはずだ。少なくとも俺は見ていないぞ?」
「やっぱり……? なかったわよね」
一日であそこまで巨大な島が出来上がるだろうか…
楕円形のような形をした大きな島と、それに連なるように小さめの丸い島が浮かんでいる。
「んふふ……まるで、亀みたいね」
「亀……って、あの物語に出てくる亀か!?」
ルシフェール国には亀は存在しない。
物語の中では亀が登場する話も少なくないが、実在はしておらず、見たことのある人はほとんどいなかった。
むしろ伝説の魔物…なんていわれるほどである。
元々研究好きなケルネリウスは、“亀”という言葉を聞いて大興奮していた。
「そう。中央にあるのが甲羅で、それに連なる小島が頭……ね? 見えなくもないでしょ?」
目を細めて確認するケルネリウスは、「確かに……」と頷いている。
二人で島を見ていると、中央の水が突然引き、道が出来上がった。
まるで「来なさい」と言われているかのような、そんな不思議な道を、二人はゆっくりと進み始めた。
(ここって、干潮の時間があったのねぇ~)
(ほ、本当に……こんなところを通って大丈夫なのか……!?)
軽快なステップで歩くアンネリーゼと、少し腰を引きながら海が突然襲ってこないかとびくついているケルネリウス。
二人が歩いている姿は、海岸にいる聖女たちからも丸見えで、聖女たちは笑いをこらえるのに必死だった。
***
「外の世界とは、なんだか違う雰囲気がするわね……」
島に降り立ってみると、他の荒地とは異なる空気が漂っていた。
何というのだろうか——瘴気が少ないような、そんな感覚。
完全に浄化されているわけではないが、それに近いものを感じる。
空気は澄んでいて、風の流れも穏やかで足元の土は柔らかく、どこか“生きている”ような気配すらある。
「神殿以外で、こんなに澄んだ空気の場所はラファリエール領くらいしかなかったし……。こんなに瘴気が満ちているセラフィエルの地で、ここまできれいな場所があったなんて。なんだか不思議な感覚だわ……」
「ねぇ……そう思わない?」
ケルネリウスに声を掛けようと後ろを振り向けば、先ほどまでいたはずの彼の姿は、どこにもなかった。
…
……
………
「えっ……と……? ケルネリウス? どこに行ったの??」
辺りを見渡しても、緑が豊かな木々ばかりで、ケルネリウスの姿は見当たらない。しかも歩いてきたはずの道もなくなっている…
(このまま前に進むしかないわね……)
アンネリーゼは少し考えると、そのまま道を進むことにした。このまま下手に戻っても迷ってしまうこともあるからだ。
アンネリーゼが歩き始めれば、木々が勝手に避けて道を作り、通れば静かに閉ざされていく。
まるで、生きているような木々たち。
アンネリーゼを導くために動いているようだった。
少し警戒しながら前へ進んでいくと、森の奥深くに、一つの祠が見えてきた。
「……え? 祠?」
この世界は、西洋風のファンタジー世界。
そんな場所に“祠”があるなんて……なんだか妙な感じがする。
「ふぅ……やっと来たか」
祠を見ていると、頭の中に声が響き渡った。
…
……
………
「……えっと、私? 頭でもおかしくなったかしら?」
目の前には祠しかないというのに、頭には“中二病よろしく”な声が聞こえる。
思わず冷静にツッコミを入れると、声の主はそのまま話し始めた。
「まぁ、そんなことはどうでもよい。栗花落 杏菜よ。お主のことは以前から知っておったのだ。儂の未来予知でな……」
「えっと…あなたが私のことを知っているのはわかったわ。でも、私はあなたに興味が全くないんだけど…ここから出して貰えないかしら?」
元々食べることにしか興味が無いアンネリーゼは、目の前にある祠に挨拶をすると後ろを振り返りゆっくりと歩き出す。
どうやら本当に興味が無いらしい。
その素振りを見せた祠は急いでアンネリーゼを止める。どうやら本当に用事があるようだ。
「わ、わかった。お主にはお、おいしい魔物の情報をやろう。ここに皆で住んでも構わんから儂の話を聞いてくれんか?」
あまりの興味の無さに思わず祠は自分から条件を付ける。
「美味しい魔物!?それは海の魔物かしら?」
すると、先ほどまで興味がなさそうな顔をしていたアンネリーゼとは打って変わって、無邪気な笑顔をした年相応の女の子が姿を現した。
祠はアンネリーゼが帰ることを辞めて残ってくれたことにホッとしていると、ゆっくりと話し出す。
「まず、儂は祠ではない。この島そのものだ。」
「この島……?がおじいさんなの?頭……大丈夫?」
あまりに頓珍漢なことを言う祠に思わず言葉の右ストレートが炸裂した。
「うっ…酷いな…お主。本当に食べ物以外に興味は無いんじゃのぉ。本当にあ奴そっくりじゃて…。仕方がない…あちらを見て見よ。」
あちらと言うがどちらを指しているか分からないアンネリーゼは祠が思っている方とは逆の方向を向いた。
「違う違う!そちらではない逆じゃ!!」
「分かりにくいじゃない。手とかないんだから右左ではっきり言ってくれないと…!」
少しむすくれながら逆を向くと、そこには
「えっ……と…。なんで」
この世界では見たことのない野菜や果物が、たくさん実っていた。
この世界に来て十五年。何とかお米は見つけたが、それでも見つからないものはたくさんあった。
大豆の元となる枝豆。
枝豆に似た豆はあったが、まったく同じものではなく、前世で食べたときのような味噌や醤油、豆腐を再現するのは難しかった。
それに、大根や梅、蕪などなど——
沢庵や梅干し、梅ジュースに梅酒……毎年自作していたからこそ、失われた味への寂しさはひとしおだった。
「ふぉっふぉっふぉ……どうやら、やっと聞く気になったようだの」
涙目になりながら、こくりと頷くアンネリーゼを見て、祠は話し始めた。
「儂の名前は、シルトクレーテ。この島そのものであり、海亀の魔物でもある。……と、言っても元は人間だったんだがのぉ」
…
……
………
「シルトクレーテって……あの?」
アンネリーゼは、シルトクレーテの名を聞いたことがあった。
というより、ルシフェール国に住むほとんどの人が、その名を知っている。
「……“あの?”が何を指すかは分からんが、海亀のシルトクレーテということであれば、恐らく儂しかおらんはずだのぉ」
シルトクレーテの伝説——
それは、シルトクレーテと聖女が手を組み、国を救ったという物語。
瘴気が多く、今よりも魔物の数が圧倒的に多かった時代。
海亀に乗った聖女が現れた。
海亀の背中には、この世界では見たことのない作物がたくさん実っていて、魔物を倒すと、それらを使って料理として提供した。
魔物とは思えないほど穏やかで、知性を持ったシルトクレーテ。
そんな彼に、人々は憧れを抱いた。
しかし、聖女が亡くなった後、シルトクレーテもまた姿を消した——
それが、物語のあらすじだった。
「さて、じゃぁ儂の昔話に少しばかり付き合ってくれるかのぉ?」
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