荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女。火山でご馳走を探す。

焔角魔牛バラモーラのステーキ。

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「ンヴォォォォォォォーーーーーーーーーーー!!」


まるで名前を喜んでいるかのように、焔角魔牛バラモーラが咆哮を上げる。


その声は火山の空気を震わせ、地面にまで響き渡った。


アンネリーゼが勢いよく肉たたきを振ると、バラモーラの角に命中。


ゴォンッ!!


巨大な鐘を鳴らしたかのような、重く澄んだ音が鳴り響いた。


「ふふ…角は焔でできているかと思ったけど……燃える鉱石でできてるのね」


てっきり炎そのものかと思っていたが、角には鉱石が混じっている。


しかも、かなりの硬度――肉たたきで叩いても、びくともしない。



「これは焼肉をするときの炭火の代わりに丁度いいわ…」


アンネリーゼは舌なめずりをすると、肉たたきを持ち直した。


「んふふ……倒しがいがあるじゃない。さすが、私が認めただけのことはあるわね」


彼女は剣を構えるように片足をぐっと後ろに引き、両手で肉たたきを握る。


ケルネリウスは、いつでもサポートに入れるように――というよりは、巻き込まれないように距離を取った。


「さっ! まずは肉の硬さチェックからよ!」


アンネリーゼは叫ぶと、肩ロースめがけて大きく跳躍した。


火山の熱風を蹴り上げ、肉たたきを両手で構えたまま、空中で一回転し、その勢いのまま、肉たたきを振り下ろす。


「肩ロースはね、叩きすぎると繊維が壊れるから……まずは軽く!」


ゴンッ!!


肉たたきが魔牛の肩に命中し、バラモーラの筋肉がぷるんと震え、ほんのり赤熱する。


「この弾力……それにこの脂……ノリも完璧だわ! これは塩だけで十分ね!」


一度地面に着地すると、今度はサーロインを目がけて一直線に跳び上がった。


「サーロインは繊維が細かいから、叩き方にコツがいるのよ……ねっと……!」


先ほどよりも少し軽めに肉たたきを振る。


その振り方は、聖女というよりも職人技だった。


ケルネリウスはその姿を見て、思わず叫んだ。


「おいおい! お前分かってるのか!? ここ戦場だぞ!? なんで肉の硬さをチェックしてるんだよ!!」


「えへへへへ……だってぇぇぇ……仕方ないじゃない……目の前にこ~んなおいしそうなお肉があるんだものぉぉぉ~~~」


ケルネリウスはアンネリーゼの言葉を聞くと、盛大にため息を吐いた。


それはまるで、鉄板焼きショーの最前列に座らされた戦場の護衛のようだった。


「……もういいよ。お前が肉と会話し始めた時点で、俺の常識は焼き切れてる」


ケルネリウスは岩陰に腰を下ろし、火山の熱風と魔牛の咆哮の中で、跳ね回るアンネリーゼを見つめながらそっと頭を抱えた。

「んふふ。ありがとう!」


「ほめてねぇーよ……」


アンネリーゼの言葉に素早く反応するケルネリウスは今までずっと相棒として一緒に仕事してきたことを醸し出している。


それからもアンネリーゼの一方的な攻撃がバラモーラを直撃し、全ての肉の硬さチェックを終えると、最後の仕上げとばかりに空高く飛び上がった。


「最後はやっぱり、頭よね!」


そう言うと、角の間の脳天を狙って勢いよく肉たたきを振り下ろした。


その瞬間――


脳震盪を起こしたかのように、意識を失ったバラモーラがゆっくりと倒れ込んだ。


「ン、ン、ンヴォォォォォォォ……」


バラモーラが最後の呻きを漏らしながら、ゆっくりと地面に倒れ込む。


その巨体が地を揺らし、火山の熱風が一瞬だけ静まった。


「んふふ……これで肉のチェックは完了よ! あとは皆でおいしい焼肉をするだけね!」


そう言って、アンネリーゼは自分より二回り以上も大きなバラモーラを片手で持ち上げると、シルトクレーテの甲羅の上へと戻っていく。


「やっぱり、ご飯の前は運動第一ね!」


アンネリーゼはうっとりとしながら、聖女たちにバラモーラを見せた。


その瞳は、まるで恋する乙女のそれだった。


「んふふ……どうかしら? このお肉、脂ものってて、血色もばっちり……んふふ……絶対においしいと思わない?」


聖女たちは一斉に息を呑み、目を輝かせる。


その姿は、まるでアンネリーゼが“感染源”となった肉眼信仰の伝播だった。


「「「「…おいしそぉ~!!」」」」


「あの弾力……絶対おいしいわよ。今日のご飯は何になるのかしら……私だったら、お肉をそのまま楽しみたいわね」


「私も私も!! そのためには……鮮度が命。急いで解体しないとだわ!」


アンネリーゼも同じ意見なのか、持っていた肉たたきを一旦しまうと、肉切り包丁を取り出した。


包丁も使われることが嬉しいのか、キラキラと光り輝いている。


「さっ! 今日のご飯を作っていきましょうか!」


アンネリーゼの言葉に、聖女たちも頷いて準備に取り掛かる。


…が、しかし――


そうはうまくはいかなかった。


「アンネリーゼ……?」


背後には、般若の顔をしたエリザベッタが立っていた。


アンネリーゼもそれに気づくと、すぐさま包丁をそっと置き、


「じ、冗談よ! 皆は準備を続けて頂戴? わ、私は急いでお風呂と着替えをしてくるから!」


と叫び、すごい速度で駆けていく。


その姿は、まるで食べられまいと逃げる魔物のようだ…。


「はぁ……なんで毎回……そろそろ学習すればいいのに……」


その姿を見たエリザベッタはため息を吐き、場の空気を切り替えるように手を叩いた。


「さっ! あの子が戻ってくる前に、早く準備をしちゃいましょう!」


皆も頷くと、それぞれ調理器具を出して準備を始める。


アンネリーゼと一緒に旅を始めて数ヶ月――


何も言わなくても動くその姿は、まさに阿吽の呼吸。


プロの集まる厨房そのものだった。



***


アンネリーゼが戻り、準備を終えると――


そこには、部位ごとに美しく切り分けられたお肉と、パチパチと音を立てる火が用意されていた。


「すっごーーーい!! 皆、また腕を上げたわね!」


以前は切るのも一苦労で、断面がガタガタだったお肉たちも、今では滑らかな一筋のみ。


しかも、部位ごとに丁寧に分けられている。


「ふふ……私たちだって、成長しているのよ!」


胸を張ってそう言ったのは、一人の聖女。


清子の家には、これまで倒してきた魔物たちの記録と、解体方法を細かくまとめたノートが何冊も並んでいた。それぞれが空いている時間を使って、こっそり勉強していたのだ。


アンネリーゼが少しでも楽できるようにと――


おんぶにだっこではいけないと、聖女たちが選んだ、唯一の方法だった。


「じゃあ、いただきましょうか!!」


アンネリーゼの声に応えるように、聖女たちはそれぞれ準備に取り掛かる。


お肉を焼く係、たれ・塩・お皿を整える係――


たれは今回、聖女の一人が作った特製のものだ。


最近では、アンネリーゼの姿を真似して、味付けや調理に挑戦する聖女も増えてきていた。


“料理は見て覚えろ!”


まさにそれを体現する彼女たちの姿を見て、アンネリーゼは密かに思う。


(やっぱり、人が準備してくれた料理ほど最高なものはないわね!)


その顔は、とても嬉しそうだった。


アンネリーゼはトングを手に取り、温まった網の上にお肉を並べていく。


ジュ~……


その瞬間、シルトクレーテの甲羅の上には香ばしい匂いが広がった。


厚めに切ったサーロイン。


いい具合に焼き目がついたら、ひっくり返す。


「よし! 完璧だわ!!」


綺麗な格子状に付いた焼け目は――


まさに、脂のいっぱい詰まった牢獄そのもの。


(これは……絶対おいしいやつだわ!)


綺麗に火が通ったら、アンネリーゼが食べやすい大きさへと切っていく。


その焼き加減を見ていた聖女たちは、アンネリーゼの真似をして同じように焼き始めた。


そしてテーブルの上には、焼きたての肉、特製のたれ、塩、薬味、そしてふっくら炊き上がった白米が並んでいく。


「このサーロイン……焼き目が芸術だわ……!」


「たれ、ちょっと甘めにしてみたの。アンネリーゼの好みに合わせて!」


「塩だけでもいける! 脂が甘い!」


準備を終えると、各々食べたいものを手に取るとアンネリーゼの方を向いた。


特に決まりがあるわけではないが…ここにいる人たちは祈りを終えると、アンネリーゼ一口食べるのを待ってから食べ始める。


それはまるで儀式のように…


アンネリーゼはフォークでお肉を持ち上げると、じっくりと眺めてから口に運んだ。


「……んんんん~~~~っっっ!!」


目を閉じて、全身で味わう。


その表情は、まるで神託を受けた巫女のようだった。


「この脂の甘さ……繊維のほぐれ方……焼き加減……完璧よ!!」


普段よりも大人しめに感想を述べるアンネリーゼの姿を見て、誰もが思った。


(こ、これは……今まで食べてきたお肉よりもおいしいということね……)


聖女たちも恐る恐る肉を口に運んだ。


その瞬間――


「……んんんん~~~~~~っっっ…」


誰もが声にならない声を発した。



「「「「はぁぁぁ…しあわせぇぇぇぇ~~~!!」」」」



その顔は、聖女の顔ではなく……お肉に恋した女の子たちだった。



ケルネリウスは、聖女やアンネリーゼの姿を見て息を吐く。


「……俺の出番、もうないな」


「よかったじゃないか。アンネリーゼのお守りは一人では大変だっただろ?」


ケルネリウスの声が聞こえていたのか、キャスバルが肩を叩きながら言葉を返した。


かつては、アンネリーゼの暴走を止めるのに全力を尽くしていたケルネリウス。


調理器具が飛び交えば盾で受け、魔物が暴れれば剣を抜いた。


だが今では、聖女たちが何も言わずとも動き、準備を整え、アンネリーゼを支えている。


「……あいつら、いつの間にか“戦場”じゃなくて“厨房”で戦えるようになってるじゃねぇか」


聖女たちを見ていた神官たちは、ケルネリウスとともに火の音を聞きながら、同じことを思っていた。


(食事一つで……ここまで人は変わるのか……俺たちもできることを増やさないとな…)


甲羅の上では、今日も聖女たちの笑い声が響き渡った。


そして神官たちは神官たちで新たな決意を胸に抱くのだった。
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