荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女とアグニ・フォルジュ

アグニ・フォルジュ。

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「さっ、リースが来る前に酢豚の準備をしないとね!!」


アンネリーゼがイグナ・ヴァルスを楽しげに解体している頃――


ケルネリウスは、アグニ・フォルジュと対峙していた。


「はっ……身体が動くようになったぞ!!」


先ほどまで、身体の主導権をシモンに奪われていたケルネリウスは、動作確認をするように、手をグーパーグーパーと動かし、肩や首をゆっくり回す。


身体が自分の元へ戻ってきたことを確かめると、彼は目の前にある一本の剣へと視線を向けた。


「これが……《フレア・レメディア》か……」


ルミナイト・オリハルコン本来の虹色に、アンネリーゼの浄化が加わり、金色の粒子がキラキラと光り輝いている。


その姿に、思わず息を飲んだ。


「なんて……美しいんだ……」


今まで“家から逃げるため”に剣を持ち続けてきたケルネリウス。


剣を見て目を輝かせる兄たちの気持ちは、ずっと理解できなかった。


戦うのが好きかと聞かれれば――


「嫌いじゃない。でも、好きでもない」


そんな曖昧な答えしか持てなかった彼が、この剣を前にして、初めて心から呟いた一言は、重みが違った。


ゆっくりと、《フレア・レメディア》へ手を伸ばす。


すると――


剣の光が増し、辺り一面が眩い輝きに包まれた。


「ま、眩しい……!」


思わず目を閉じる。


そして、再び目を開けたとき――


手の中には、先ほどとは少し形を変えた《フレア・レメディア》が握られていた。


「か、形が変わっている!?」


(もしかして……この剣は、持ち手によって姿を変えるのか……)


手の中で形を変えた剣は、まるでケルネリウスの“何か”を見透かしたように、静かに輝いていた。


そしてその剣を見つめながら、ケルネリウスは漠然と呟いた。


「……これは、俺の剣なのか?」


その言葉に呼応するように――


“キィィィィン……”


澄んだ音が空気を裂き、金色の粒子が剣から溢れ出した。

ケルネリウスの瞳が、アンネリーゼの浄化の色へと変わる。


「……っ!」


彼の足元から風が巻き起こり、炉の中で燃え盛る炎が、剣の光に吸い込まれていく。


それを見ていたアグニ・フォルジュが目を細め、ケルネリウスの方へと振り返った。


「ツいに目覚メタか……」


今まで一度も立ち上がろうとすらしなかったアグニ・フォルジュが、ゆっくりと立ち上がる。


と同時に、彼の身体からは抑えきれない瘴気が、蒸気のように漏れ出した。



「…オれハ…ダれだ…。」


ケルネリウスは、剣を構えると目の前の男に一言告げる。


「お前は、シモン・アゼール…いや、アグニ・フォルジュだ。」


「…ア…ぐニ…ふぉルじュ…?」


アグニ・フォルジュの問いかけに小さくうなずくケルネリウス。


その姿は、今までの彼とはまるで違っていた。


「今までは……瘴気しか見えていなかったが……これがアンナの見る世界か」


その瞳には、今まで見ることのなかった世界が広がっていた。


この国の人々の苦しみや悲しみが、アグニ・フォルジュの瘴気を通して具現化しているのがわかる。


「ふぅ……ここまで来たら……お前たちを解放しないと、シモンに顔向けできないな」


フッと軽く口角を上げて笑う。


その眼には、迷いも、逃げも、ない。


ただ――


“この剣を振るう者”としての、静かな覚悟だけがそこにあった。


その姿を見て、アグニ・フォルジュの肩が震える。


そして、絞り出すように――


瘴気に濁った声が漏れた。


「ハ……はは……そ、ソうカ…。ツ、ツいニ…た、タのむ……俺タちを……解放シテくレ……」


その言葉を聞いて、今までなぜアグニ・フォルジュがずっとルミナイト・オリハルコンを打ち続けてきたのか、わかった気がした。


(少しでも瘴気が広がらないようにと……瘴気を燃やし続けていたのか……)


アグニ・フォルジュの行動のすべてを理解したわけではない。


だが、最後の最後まで領民を守ろうとしたその姿勢に、ケルネリウスは深く頭を垂れた。


そして、そのすべてを受け止めるかのように、静かに剣を構える。


「タのム……俺タちを解放シテくレ」


その言葉が、アグニ・フォルジュ本人のものなのか――


それとも、瘴気に囚われた人々の声なのかは、わからない。


ケルネリウスは、ほんの少しだけ目を伏せた。


そして――


「……わかった。今、楽にしてやる」


その一言は、優しさでも、義務でもない。


ただ、決意だった。


《フレア・レメディア》が光を放つ。


金色の粒子が剣から溢れ、瘴気を包み込むように舞い上がった。


その瞬間、ケルネリウスは一歩踏み込み――


一閃


“ズバァァァン!!”


光が瘴気を裂き、

アグニ・フォルジュの身体から、煤のように黒くなった部分がパラパラと剥がれ落ちる。


それらは金色の粒子となり、空へと昇っていった。


《あなた……今までお勤めご苦労様でした。ゆっくり休みましょう》


《パパを救ってくれて、領民たちを救ってくれてありがとう!!》


《苦しみから解放してくれてありがとう……》


鉱石の中に閉じ込められていた人々も、同じように金色の粒子へと変わり、空へと、静かに昇っていく。


彼らは――


シモンが生前、命を懸けて守ろうとした人々だった。


一人一人が空へと還っていく中、


ひときわ輝く光の粒が、ケルネリウスの前へと舞い降りた。


『ケルネリウス殿。やっとお会いできました。身体を貸してくださり、この地を解放してくださり、ありがとうございます。あの娘さんの……傍若無人さには驚きました。ですが、ああやって好きなことができるのも、あなたがいるからでしょう。この奥で、今頃お腹を空かせて待ちわびていると思いますよ?さぁ……早く行ってあげてください。
この地を解放してくださり、本当に……ありがとう』


それだけ言うと、シモンは他の二つの光の粒と一緒に空へと上がっていった。


「やっと…家族と再会できたんだな…」


持っていた《フレア・レメディア》を腰に差すとケルネリウスはゆっくりアンネリーゼがいるであろうマグマの泉へと向かった。


「……あいつのことだ。どうせ俺を待たずに、先に食べてるんだろうな……」


その言葉には、皮肉めいた響きがあった。


だが――


その横顔は、どこか嬉しそうでもあった。










***


わぁぁ~!!ついにここまで来ました。
次回は久しぶりのお食事会です。


ぜひお楽しみに!!
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