荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は、お酒探しの旅に出る。

土壌問題。

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「さて……やるか!!」


果樹園を歩き続けること数十分。


ケルネリウスとラケルは、枯れ果てた木々の中を黙々と進んでいた。


すると、ケルネリウスは急に立ち止まり――一本の剣を取り出す。


「お、お前……まさか」


突然の剣の登場に、ラケルは思わず大声をあげた。


「煩いぞ、ラケル。もう少し静かにできないのか?」


「う、煩いとは何事だ!! 我は伝説のドラゴン、イグナ・ヴァルスだぞ!!」


ガァガァと叫ぶラケルの首を、ケルネリウスがガッと掴む。


先ほどまでの威勢はどこへやら、ラケルは急に静まり返った。


「煩いって言ってるのが聞こえなかったのか?俺の研究の邪魔をするなら、お前のこと丸焼きにしてやってもいいんだぞ」


窺うようにケルネリウスの顔を見れば――それは、アンネリーゼが魔物という名の食材を見つけて喜んでいる時と、まったく同じ顔だった。


そう、それは……触れてはいけないパンドラの箱のような――


研究者の“本気”が顔を覗かせる瞬間。


びくりと反応したラケルは、小さな声で「す、すまん……」と謝る。


いくら分身体とはいえ、アンネリーゼに“笑顔で焼かれた”一件は、記憶の奥底で今もじっくりと熟成されているようだ。


「分かればいいんだ」


「邪魔するなよ?」という言葉が脳裏を駆け巡り、ラケルが固まっていると――


ケルネリウスは、ここぞとばかりにウルカヌス火山でシモンと共に作った浄化の剣《フレア・レメディア》を取り出した。


手に握れば、自由自在に形を変える《フレア・レメディア》


「これ、便利なんだよな……俺が使いたいと思った形になってくれるんだ」


そう言うと、剣はスコップの形へと変化する。


それを見ていたラケルは、顎が外れそうな勢いで口を大きく開けた。


「そ、それ……」


思った以上に大きな声が出てしまい、慌てて口をバッと手で押さえる。

(ルミナイト・オリハルコンにアンナ力があったとは……)


スコップに変化した《フレア・レメディア》をまじまじと見つめるラケルの横で、ケルネリウスは勢いよく地面めがけてそれを突き刺した。



しかし――


一向に、何も起きる気配はなかった。


「……ん…?」


ラケルも、何も起きないことに思わず首を傾げる。


「やっぱり……アンナの言うとおりだったな」


“浄化が効かないかもしれない”――


その言葉を思い出しながら、ケルネリウスはスコップを手に、黙々と穴を掘り始めた。


土は重く、湿っていてどことなく異臭が強くなっていくのがわかる。


「うっ…さっきより匂いが強くなっていないか…?」


ラケルの言葉にケルネリウスはハッとするとラケルをつかんで急いでその場から逃げた。


「な、なにをする!?」


あまりに唐突な出来事に、ラケルはジタバタと羽根をばたつかせて慌てふためいた。


しかしケルネリウスは、そんな様子など気にも留めず、すごいスピードで物陰に身を隠す。


物陰からそっと覗くと――


黒い影のような靄が、土の中からじわじわとあふれ出していた。


「……ハァ、危機一髪だった」


「……あれは、なんだ?」


ラケルが息を呑んで尋ねると、ケルネリウスは小さな声で呟いた。


「あれは……恐らくガスだ。この腐敗の原因は、土の中にあるんだろう。もちろん、この悪臭の元もな。土から漏れ出したガスが、この辺り一帯に広がって……果樹園は“腐敗の地”と化してしまった……そう考えるのが自然だ。……とはいえ、その原因であるガスがなんでたまっているのかはまだわからないがな…」


ラケルはごくりと唾を飲み込む。


「どうするんだ……?」


二人の間に、沈黙が流れる。


するとケルネリウスは、何かあてでもあるのか――


透明な蓋つきの瓶を取り出した。


「すぐにはわからない。いったん、この辺りの土を持ち帰って調べてみるか……」


「こういうのって、すぐにわかるんじゃないの!?」


ラケルの声が少し裏返る。


だがケルネリウスは瓶に土を詰めながら、淡々と答えた。


「わかるわけないだろ。腐敗の原因なんて、そう簡単に顔を出してくれるもんじゃない。……だから、俺たちが掘るんだよ。記憶も、匂いも、過去もな」


ラケルはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。


「……地面って、思ったより喋るんだな」


ケルネリウスはふっと笑った。


「黙ってるようで、案外うるさいぞ。聞く耳さえあればな」


「聞く耳か……」


ラケルはぽつりと呟きながら、ちらりとケルネリウスを横目で見る。

(あの女も変わってると思っていたが……こいつもこいつで、なかなかの変人だな)


腐敗の地に響くのは、風の音と、土の沈黙。


「お前も聞いてみるか……?」


ケルネリウスが、まるで当たり前のように問いかける。


ラケルは一瞬、目を見開いたが――すぐに顔を背けて、そっけなく答えた。


「いや、いい……とりあえず帰ろう」


その声には、ほんの少しだけ震えが混じっていた。



***


「まさか……一本だけ、こんなに立派な木が残っていたなんてね」


アンネリーゼたちが歩き始めて数時間――


果樹の都と呼ばれる中心地にたどり着いた頃、そこには異様な空間が広がっていた。


腐敗に覆われた土地の中で、ぽつんと立つ一本の果樹。


その周囲だけ、まるで時間が止まっているかのように静かで、澄んでいた。


「本当ね……しかもこの木、いろんな果物ができているわよ」

ブドウ、梨、リンゴ、桃、ミカン、レモン、イチジク、バナナ――


本来ならば、同じ木から違う果物が実ることなどありえない。


それが今、目の前では確かに起きていた。


アンネリーゼはそっと木に近づき、枝に手を伸ばす。


「こ、これで……ついにお酒が作れるわね!! エリザ、かごいっぱいに果物を収穫して頂戴!」


「はぁ……わかった、わかった」


アンネリーゼの嬉しそうな顔を見て、小さくため息を吐きながら、エリザは黙々と果物をかごに詰めていく。


ある程度集まると、果物は瓶の中にしまわれ“業務用冷蔵庫”へと移された。


「んふふ。よかったわ! 思った以上に早く手に入って」


ルンルン気分のアンネリーゼを見ながら、エリザは心の中で呟く。


(……まだまだ子供ね)


重かった足取りも、果物を手に入れたことで少しだけ軽くなっていた。


「さぁ!! お酒を造るわよ~!!」


アンネリーゼの声が、果樹の都の中心で高らかに響き渡る。


その明るい声とは対照的に――
冷蔵庫の奥で、ひとつの瓶が“コポリ”と小さく音を立てた。


風が止み、甘い果実の香りに、わずかに“何か焦げたような匂い”が混じる。


それは、腐敗でも発酵でもない。


まるでこの地そのものが、眠りからゆっくりと目を覚まそうとしているようだった。


――誰も、その小さな“息づかい”には気づかなかった。
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