荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

文字の大きさ
89 / 105
終焉の王都と食いしん坊聖女の決断。

魔王誕生とアンネリーゼの決意。

しおりを挟む
「っと、その前にそれより少し前の話をしようか。」


――1か月前、王都


『フはハはハははははハハは……王城に戻ルゾ。僕ガ……こノ国ノ王となル。』


その日、王都中に“人ではない何か”の笑い声が響いた。


まるで世界が息を止めたように、音がすべて止む。


(……ついに、ここまで来たか。)


イザークは、変わり果てたエルネストを見つめながら静かに息を吐く。


王都にはもう「人間」はいない。


Sランク級の魔物が通りを我が物顔で歩き、鎧を纏った“元”兵士・騎士たちは、二本の角を生やし、赤黒い瞳をぎらつかせる。


エルネストと同じ二重に濁った声で、低く囁いた。


『お前ハ……ニんゲン……?』


視線が合った瞬間、襲いかかってこようと身を乗り出す魔人。


イザークは一息で建物の影に飛び込み、呼吸を殺した。


(……もう、騎士ではないな。)


冷静を装っていても、右手は震えていた。


瘴気に蝕まれながらも、


その震える手で――


イザークはただ、事実を紙に刻み続けた。


『皆ノ者!よォーく聞ケ。今日カら私がこノ国の王ダ。王城を奪還スルぞ!』


『『『『仰せノマまに…。』』』』


イザークが何も言わずに聞いていれば、エルネストが魔人となった者たちを引き連れて王城へと戻っていった。


そして王城に着くなり、エルネストは自分の父であるエドワーズに剣を向けた。


『エルネストか。アンネリーゼはどうした?みつかった…ってお前…どうしたその姿…。』


エドワーズは扉が開いたことに気付いていたが、背を向けて話しかけていたためエルネストの変貌に気付いていなかった。

そして振り返った瞬間、彼の頭に角が生え、目が赤くなっていることに気付いた。


『ウ、ウ、うるサイ!スすス全てハオ前のせいだ!お前ハ、こノ国ノ王に相応しクなイ。今なら殺サずにおいてやろう。ここから出てイくカ、こノ場で亡き者トなるか…好キな方を選ばセてやル』


エドワーズは、信じられないものを見るように目を見開いた。


『……お前は、誰だ?』


その問いに、エルネストは嗤った。


『ダレでもなイ……僕ガ……王だ。今日カら。』


その一言のあと――


床を走る“瘴気”が、まるで意思を持つ生き物のように蠢き、王城の石壁を黒く染めていった。


(……終わったな。)


イザークはその光景を、ただ物陰から見届けるしかなかった。


「……その直後、追放されたエドワーズ陛下と王妃は我が領地へ逃れ、今は離れに保護している」


「保護ですか……優しいですね。」


「まぁ、下手に外に出しては面倒なことになりかねないからな。そして、一か月前の出来事から一週間――時期で言えば、ちょうど“三週間前”だ。その頃、王都に稲妻が落ちた。」


その稲妻はまるで、“新たな王の誕生”を告げるかのように空を裂いて落ちたのだった。



三週間前――


ゴロゴロゴロピシャーーーー!!!


『な、なんだ!?』


『いま、王都の方から聞こえましたね…』


ダミアンとイアンが急いで王都の方を見ればそこには見慣れないほど大きな稲妻が何個も落ち、空は雨雲よりもサラン暗い状態になっていた。



『よ、夜…ではないですよね…?』


『あぁ、こっちは晴れている。恐らく…王族が何かしたんだろうな。』


その頃、王城では新たな王が誕生していた。


『フハハはハはハハはハはハハはハは!! 今日カらぼ、僕ガ王だ!』


その隣にはレリア・ゴモリーが立っている。


(なんだ…あれは…。人か…!?)


レリア・ゴモリーにも立派な角が二本……だがイザークが息を呑んだのは、角ではなかった。


レリアの“雰囲気”そのものが、すでに人ではなかった。


レリアは聖女らしい柔らかな微笑みを浮かべているが、その瞳の奥は井戸の底のように乾いていて、人間という生物への興味すら感じられない。


ふわりと揺れた白いドレスの裾は黒色に変わり、彼女の中の瘴気そのものがドレスの色を黒く変色させているように見える。


(いや違うな…と、言うことは元から、聖女ではなかったということか……)


イザークは目を細めて観察する。


聖女であれば、瘴気に多少の耐性はあっても、“わずか一週間”で魔人となるはずがない。


いくら魔人化したエルネストの側にいたとしても――あまりに早すぎる。


(いや……元から魔人化していたのか?角を隠す術でも持っていたとすれば……)


イザークがじっと見つめたその瞬間、レリアの視線がぴたりとこちらを捕らえた。


まるで、人間を人間として見ていない“無機質な目”だった。


そこには恐怖も怒りもなく、ただ“自分より下位の存在がそこにいる”ことを確認するだけの、冷たい光だけが宿っている。


(あれは……エルネスト以上に危険だ)


空気がひやりと冷え、鉄錆の甘い匂いが王座の間に広がる。


次の瞬間、レリアの足元から黒い百合の花がふくりと膨らむように咲き、花弁がぬめりを帯びながら、床を侵食するように広がっていった。


石床の白が、黒へと染まっていく。


(……ここはもう、人の住む場所ではない)


イザークは震える手で、その光景を書き残すしかなかった。


――これが、三週間前の王都だ。


「……これが、イザークが最後に書き残した報告だ。」


「そうですか。」


アンネリーゼのはダミアンの話を聞いても淡々と受け答えをする。


その表情は王都の様子を重く受け止めている様子は見られない。


「驚かないのだな。」


「驚くも何も…想像していた通りだったので…。それでイザークは…?」


「イザークは逃げているはずだ。そのあたりは抜かりない。」


「ならいいのですが…」


アンネリーゼは少しまつげを揺らし、ほっとした表情を浮かべる。

(変わったな…。)


今までであれば人を巻き込むことはしても心配するそぶりすらなかったアンネリーゼ。

なんでも一人でこなせてしまうが故に、周りの感情に疎かった。


そんなアンネリーゼを見てダミアンはほっと息を吐いた。


皆の間に一瞬静寂が訪れる。

風がそよそよと流れ、まるで王都で起きていることが嘘のような緩やかな時間。

その静寂を切ったのはアンネリーゼだった。

「…それで、ここからが本題ですが、王都をどうするか…ということですよね?」


その言葉を聞いた瞬間、皆の顔が引き締まった。



「正直、王都を助ける義理はない。しかも領民たちも皆非難が完了しているんですよね?」


「あぁ…そうだ。」


「ですが…このままでいいとも思っていないのがお父様たちの考え。そして、エルネストは私を所望している…と、言うことですね。」


今まで話したことを簡単にまとめるとアンネリーゼは少し考えてから答えを出した。


「うん…私的にエルネストはどうでもいいんですよねぇ~。ただ、私が厄災?災厄?って言われているのが気に食わないです!なので、王都に行って物申してやろうと思います!」


(((えっ!?!?そこ!?!?)))


今まで黙っていた人たちも思わず心の中で突っ込む。



「それに…S級の魔物がいっぱ~いいるんですよね?だったら…ふふ…食べないのは損じゃないですか!!」



アンネリーゼの言葉に皆の動きが一瞬止まる。


そして次の瞬間――


どっと笑いが起こった。



「あはははははは!!!さすが杏菜だね!」

オリザールスの言葉に続くように、シルクトレーテは笑う。

「そうじゃのう!杏菜はどこまでいっても杏菜だのぉ~。」


ケルネリウスも口を頑張って抑えているところを見ると笑いを耐えているらしい。

「そ、そうだな…うまい魔物を食いに行こう。それに、兄貴を止めなきゃならないしな…。」


三人の言葉を聞いた瞬間、アンネリーゼの目が輝く!


「じゃぁ~決まりね!!明日の朝一!出発するわよ~!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

処理中です...