荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女の決戦。

ラスボス疑惑に物申す!

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「お兄様、リース。ここからは早い者勝ちということで…。」


アンネリーゼがペティナイフを構えた瞬間――


ピンと張りつめた空気が王城の間に満ちる。


だが、その緊張をあざ笑うように、四方から魔人兵たちが一斉に雪崩れ込んできた。


鋭い爪や剣が迫る中、
アンネリーゼは一体を切り伏せつつ、なぜか口を尖らせた。


「ん~…それにしても、なんだか解せないわね。」


襲ってくる魔人兵をテンポよく倒しながらも、どうやら別のことで頭がいっぱいらしい。


「「何が!?」」


ケルネリウスとイアンの声がぴたりと重なった。

と、同時にアンネリーゼはふっと動きを止め、魔人兵の群れの奥を指差した。


「いや、だってどっからどう見ても、あの二人のほうがラスボスじゃない?
 なんで私がラスボス扱いなのよ!?」


視線の先では、レリアとエルネストが“勝者側の余裕”でふんぞり返っていた。


「そこは今どうでもいいだろう!?まずはこいつらを倒すのが先だ!」


ケルネリウスは怒鳴りながら、迫る魔人兵を薙ぎ払っていく。


「そうだ、アンナ。まずは目の前の敵に集中しろ!!」


イアンもまた、目の前に次から次へと現れる魔人兵を倒しながら叫んだ。


「ん~…でもぉ~…」


途端にやる気を失ったアンネリーゼは、先ほどまで振り回していたペティナイフを降ろした。


(…こいつ、まさか"ラスボス"と言われただけでこんなに落ち込んでるのか!?)


ケルネリウスは思わず額を抑えたその時――


「アンナ!!」


イアンの声が響き渡った。



「よぉーく聞け!お前はラスボスなんかじゃない!大聖女で、私のかわいい妹だ!」


アンネリーゼにもその言葉が届いたのか…肩がびくりと揺れる。


そしてその一瞬を逃さずケルネリウスが続けた。


「そうだ!お前はラスボスでも厄災でもない。俺の最強の相棒で、大事な婚約者だ!!」


直後、落ち込んでいたアンネリーゼの目に光が宿り、握ったペティナイフがきらりと反射する。


そして二人は同時にとっておきの"トリガー”を引いた。


「「頼む!目の前の敵を倒さないと、おいしい魔物が食べられないぞ!?」」


次の瞬間――


アンネリーゼの目は完全に復活し、ペティナイフを魔人兵めがけて投げつけた。



「……そうよね!!
私がラスボスなわけないじゃない!
ふふ、早く片付けて本当のボス倒しに行かなきゃね!」


その瞬間、ケルネリウスとイアンは同時に深く安堵の息を吐いた。


――そして数分後。


王城の間に並んでいた魔人兵は全て倒れ伏し、
残るはレリア、エルネスト、マンネリウス、ペドロ――
本当の戦いの相手だけとなっていた。


アンネリーゼは髪をかき上げながら、唇をぺろりとなめる。


「さぁ、ここからが本番よ!!」


そう宣言すると彼女はペティナイフをくるりと仕舞うと、
今度は自分の身体よりも巨大な“木のハンマー”を取り出した。。


それは日本の伝統、餅つきでよく使うハンマーだった。


「おい、それ調理器具…なのか!?」


「えぇ、もちろん立派な調理器具よ!じゃ、リース、お兄様。ここからは個人戦で。作戦通りに行きましょう。」


そういうと勢いよく杵を振り上げて床めがけて叩きつけた。


"バキィィィーーーッ!!"


「お、おい、お前何してるんだ?」


「ま、待て、それ以上やると――」


――止めるのが一瞬遅かった。


床には巨大な亀裂が走り、
まるで計算されたかのように、戦う相手ごとに綺麗に陣が分断された。


天井から細かい石片がぱらぱらと落ちる中、アンネリーゼは胸を張って言った。


「はい、これで“各担当”バッチリね!!」


遠くの方で、ケルネリウスとイアンが同時に叫んでいる声がした。


「おい、アンナァァァ!!」


「やりすぎだよアンナァ!!」


……が、もちろんアンネリーゼは聞いていない。


彼女は静かに一歩踏み出すと、目の前のレリアへと剣のように大きくした柳刃包丁を向ける――


「ここからは女同士、楽しみましょう?」


その余裕に満ちた微笑みを見た瞬間、レリアの顔がみるみる憎悪に染まった。


「アンネリーゼェェェェェエエエエ!!!
お前はいつも私の邪魔ばかりしやがってぇぇぇぇぇ!!」


レリアは長く伸びた漆黒の爪を振り抜いた。

瞬間、瘴気が風を裂いてアンネリーゼへと迫る。


キィィッ――!


空気すら切り裂くような鋭い音。


だがアンネリーゼは、柳刃包丁でその爪を軽く受け流しながら、心の中で呟いた。


(……魔人化して動きは確かに早くなっているわ。でも――所詮はただの貴族令嬢ね。)


その後も何度も爪を振り抜いてくるレリア。


しかしすべての行動を躱されるか受け止められるか…の状態にさらに怒りが爆発した。


「お前、私をバカにしてるのか?」


その言葉に、アンネリーゼは表情ひとつ変えない。


「バカにしているのかと聞いているんだ!! 話をきけぇぇぇぇぇえええええ!!」


レリアが叫んだ瞬間――


黒い百合が地を這うように一面に広がり、
次の瞬間、破裂音とともに弾け飛んだ。


"ボンッ!!”


咲き乱れた百合から瘴気が噴き上がり、
まるで生き物のように蠢きながら部屋中を覆っていく。


「……ふぅん」


アンネリーゼは小さく息を吐いた。


(思った通りだわ……)


ずっと、この瞬間を狙っていた。


黒百合ひとつひとつが“瘴気の核”だというのは、城に足を踏み入れたときから分かっていた。


ただ、レリアがどう解放するつもりなのか――そこだけがまだ読めていなかったのだ。


――けれど、もう十分。


部屋いっぱいに弾け飛ぶ瘴気の中には、王都で苦しみ続けた人々の“想い”が渦巻いている。


そして――


セラフィエル帝国の門を開いた今、遠く離れた帝国からも、細く黒い“瘴気の糸”がこの部屋へ引かれるように流れ込んでいた。


アンネリーゼは薄く笑った。


「やっぱりね……あなたの方がよっぽどラスボスじゃない。」


柳刃包丁をそっと仕舞い、代わりに手の中で軽く跳ねる小さなペティナイフを握りしめる。


(……この百合、すべて根がレリアにつながってる。 彼女が瘴気を吸い上げる“管”みたいなもかしら。 原理までは知らないけど…… とりあえず全部切り落とさない限り濃度は下がらなさそうね。)


アンネリーゼは軽やかにペティナイフを投げた――


一本、また一本と、空気を裂く鋭い音が続く。


百合の茎が正確に断たれ、瘴気がぷしゅう、と音を立てて霧散していくのが見える。


霧散した瘴気は光の粒へと変わり「ありがとう」といいながら空へと上がっていくのが見える。


(どうやら、正解だったようね…)


一か八かの方法を取ったアンネリーゼは自分のやり方が間違っていなかったことに安堵した。


「お、お前……何をする……!」


レリアの声がわずかに震える。


「何もしてないわ。ただ、“解放”しているだけ。
ほら、あなたも大聖女なんでしょう?そのくらい分かるはずじゃない?」


アンネリーゼはあっさりと言い放った。その声音は冷静で、どこまでも真剣だった。


瘴気の向こうから――
救いを求める数え切れない声が、確かにアンネリーゼへ届いていたからだ。


「ふんっ……ほんっとうに忌々しいガキね……!」


レリアの声に反応するかのように、室内の温度がぐっと下がり、吐息が白くなった。


そして彼女の姿がぐにゃりと歪む。


肌は黒いひび割れに覆われ、背中には瘴気で編まれたような薄い翼が揺らめく。

爪はさらに長く伸び、瞳孔が爬虫類のように細くなる。


もはや“貴族令嬢”だった面影など欠片もない。


そこに立つのは――完全なる魔人だった。
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