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食いしん坊聖女の決戦。
兄弟喧嘩。
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「……久しぶりだな、兄貴。」
その声に、黒い影がゆっくりと振り返る。
「ケ…ル……ネリウス、カ……」
そこに立っていたのは、かつての兄とは似ても似つかない“何か”だった。
黒い翼が背から生え、頭にはねじれた角が二本。
白かった肌は闇を吸ったように黒く染まり、赤く濁った瞳だけが、かろうじて昔の面影を留めていた。
「……ずいぶん変わったな。イメチェンってレベルじゃないぞ?」
「フ……は…お前コそ、丸クなッたじゃナイか。」
ケルネリウスは前髪を軽く掻き揚げ、マンネリウスを見据えた。
その目には、わずかな戸惑いが浮かんでいる。
(まさか、久しぶりの再会がこんな形になるなんてな……)
(昔は、こんな目で俺を見るやつじゃなかったのに。)
マンネリウスの赤い瞳に、ケルネリウスの姿は映っていなかった。
そこにあったのは、嫉妬と憎悪――黒い淀みだけだ。
ケルネリウスとマンネリウスは、もともと仲が悪かったわけではない。
年が近かったこともあり、幼い頃はよく一緒に遊んでいた。
(懐かしいな…あの頃の兄は、よく笑っていた)
しかし、年齢を重ねるにつれ――
二人は、何をするにも比べられるようになっていった。
勉強、剣術、ダンス、マナー……。
マンネリウスが劣っているわけではなかった。
それでも、いつも言われるのは「ケルネリウスの方がすごい」ばかりだった。
(俺は見栄っ張りのあの家を嫌って神殿に入ったが……)
「兄貴は……俺なんかよりずっと、家に縛られてたんだな。」
ケルネリウスは、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「な、何カ言ったカ……? マサカ……俺を“出来損ナイ”だト、また言ウつもりカ……?」
魔人化の影響か、ケルネリウスの独り言はマンネリウスの耳に届いていたようだ。
「俺は、兄貴のことを一度も出来損ないだと思ったことはねぇよ? むしろ……ずっと努力してたの、知ってるからな。」
その言葉を聞いた瞬間、マンネリウスの体がビクリと震えた。
ギリッ、と歯ぎしりの音が響き――次の刹那、拳がケルネリウスめがけて飛んでくる。
「うぉっ……危ないだろうが! なんで急に殴ってくるんだよ!」
「お、俺ハ、出来損ナい…出来損なイじゃない…出来そお”オ”ォ“ぉ"ォ"ォ"ォ~~~!!」
ケルネリウスの声は、もう兄には届いていなかった。
獣のような咆哮が神殿の空気を震わせる。
その声に、もはや兄の面影は一切ない。
そして次の瞬間――
マンネリウスの髪が、生き物のようにうねりながら伸び、ケルネリウスの体を絡め取った。
「うっ……」
髪は蛇のように首へと巻き付き、締めつけが増していく。
息が喉で途切れ、視界が揺らぐ中、ケルネリウスはもう一度兄を見た。
(……そうか。兄貴に戻る余地は、もうどこにも残ってないんだな。)
魔人化したシモンのように一瞬でも人に戻れるかもしれない――
そんな淡い期待が、今ようやく崩れ落ちた。
幼い日の笑顔が、一瞬だけ脳裏をかすめる。
ケルネリウスは目を閉じ、その記憶にそっと蓋をした。
そして、覚悟を宿した目で、再び兄を見据える。
「……そういえば、兄貴とは一度も本気で喧嘩したことなかったよな。」
その言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようでもあった。
ケルネリウスは腰からフレア・レメディアを抜き放ち、
首に絡みついた髪を一息で断ち切る。
「始めようぜ。俺と兄貴の、人生一度きりの――最大の兄弟喧嘩を。」
「オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ア”ァ”ァ”ア”ァ”ーーーッ!!」
ケルネリウスの言葉に呼応するように、マンネリウスが咆哮を上げた。
刹那、空気までも固まったように、二人の動きが止まる。
カラン――
金属片が床を転がる音だけが響く。
天井の破片がパラリと落ちた――。
その瞬間、マンネリウスの髪が針のように尖り、一直線にケルネリウスへと飛ぶ。
ケルネリウスは目にも止まらぬ速さで、迫りくる髪を一本、また一本と正確に弾き落とした。
キィーン、キィーン。
フレア・レメディアが火花を散らす。
(これは…一本でも当たれば致命傷だな…)
ケルネリウスが髪の雨を捌いている中、
マンネリウスは自身の翼を一本、ためらいもなく引き抜くと同時に、黒い羽軸がねじれ、剣のような形へと変質していく。
そして髪の針をすり抜け、マンネリウスは刃を構えてケルネリウスの喉元へ迫った。
キィーン。
「おっとぉ……さすが兄貴。戦闘センスは抜群だな。」
ケルネリウスの額を、一筋の汗がつっと流れ落ちる。
「覚えてるか? 昔っからさ……俺、兄貴に戦闘術だけは勝てなかったんだよ……な。」
フレア・レメディアで剣を押し返すと、マンネリウスはふわりと距離を取り、元の位置に戻る。
「俺は今でも兄貴を尊敬してる!
あの頃の優しい兄貴に、戻ってきてほしいって……ずっと思ってたんだ!」
その叫びが届いているのかいないのか――
マンネリウスは胸を掴むように押さえ、苦しげに身を震わせた。
「ウ”ゥ”ッ……(た、助けて……くれ……)」
その声は、先ほどまでの咆哮とは明らかに違った。
「あぁ、聞こえたよ。兄貴……次で終わりにしよう。」
ケルネリウスにも兄の本当の声が届いたのか、目から、一筋の涙が静かに落ちた。
だが次の瞬間――
マンネリウスの身体がビクンと跳ねた。
「ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」
苦しみの叫びが、再び獣の咆哮へと変わり、先ほどよりも黒い靄がマンネリウスを襲った。
理性が戻りかけた反動か、マンネリウスの力が暴走を始めた。
黒い髪が再び逆立ち、数十本の槍のようにケルネリウスへ襲いかかる。
それ以外にも髪は蛇の形へと変わり、生きているかのようにケルネリウスへ噛みついた。
「まだ……暴れられるのかよ!」
ケルネリウスは蛇となった髪をよけながら、フレア・レメディアを横薙ぎに振り、迫る髪をまとめて弾き飛ばす。
火花が弾け、床が抉れる。
だがマンネリウスは止まらなかった。
抜いた翼の刃を振るい、狂ったようにケルネリウスへ斬りかかる。
キィン! ガガァン!
鋼と鋼が擦れ合うような音が、王城内に響き渡った。
ケルネリウスは必死に受け止めながらも、兄の刃の重みと痛みに震えていた。
「兄貴……!」
彼が呼びかけるたびに、マンネリウスの身体は一瞬だけぴたりと止まった。
だが、まるで誰かに操られているかのように、すぐに黒い靄が包み、狂気の瞳が再びケルネリウスを襲う。
(まだ……兄貴は中にいる……!)
ケルネリウスは刃を交えながら、一瞬の隙をついて兄の手首を掴んだ。
「兄貴……頼む!俺を見ろ!帰ってこい!」
その叫びに、マンネリウスの瞳が一瞬揺れ、赤く濁った瞳に、わずかにケルネリウスが映った。
そして次の瞬間、ケルネリウスは手首を一気に引き寄せ、マンネリウスを抱きしめると、
そのままフレア・レメディアを突き刺した。
「うっ……ケル……か……」
刃が刺さった部分から、黒い靄がゆらゆらと抜けていく。
「そうだよ…。ったく……何してんだよ。」
「ありがとう……ケル。助かった……よ……」
次第に黒い靄が晴れ、マンネリウスの顔が静かに露わになる。
魔人化した者が人へ戻ることはない。
――それでも、最期の瞬間だけでも兄の心を呼び戻せたのは、紛れもない救いだった。
「……バカ兄貴……最後まで俺を守ろうとしなくていいんだよ。」
幼い頃から何かと比べられてきた二人だが、その奥には、確かな“信頼”だけが残っていた。
マンネリウスはケルネリウスを守るために父の駒となり、ケルネリウスは兄を自由にするために家を出た。
「何が……ありがとう……だよ。それは……こっちのセリフだ……」
黒い靄は金色の粒子へと変わり、静かに空へ舞っていく。
それを見送りながら、ケルネリウスは大きく息を吐いた。
胸の奥にあった緊張が、ゆっくりとほどけていった。
その声に、黒い影がゆっくりと振り返る。
「ケ…ル……ネリウス、カ……」
そこに立っていたのは、かつての兄とは似ても似つかない“何か”だった。
黒い翼が背から生え、頭にはねじれた角が二本。
白かった肌は闇を吸ったように黒く染まり、赤く濁った瞳だけが、かろうじて昔の面影を留めていた。
「……ずいぶん変わったな。イメチェンってレベルじゃないぞ?」
「フ……は…お前コそ、丸クなッたじゃナイか。」
ケルネリウスは前髪を軽く掻き揚げ、マンネリウスを見据えた。
その目には、わずかな戸惑いが浮かんでいる。
(まさか、久しぶりの再会がこんな形になるなんてな……)
(昔は、こんな目で俺を見るやつじゃなかったのに。)
マンネリウスの赤い瞳に、ケルネリウスの姿は映っていなかった。
そこにあったのは、嫉妬と憎悪――黒い淀みだけだ。
ケルネリウスとマンネリウスは、もともと仲が悪かったわけではない。
年が近かったこともあり、幼い頃はよく一緒に遊んでいた。
(懐かしいな…あの頃の兄は、よく笑っていた)
しかし、年齢を重ねるにつれ――
二人は、何をするにも比べられるようになっていった。
勉強、剣術、ダンス、マナー……。
マンネリウスが劣っているわけではなかった。
それでも、いつも言われるのは「ケルネリウスの方がすごい」ばかりだった。
(俺は見栄っ張りのあの家を嫌って神殿に入ったが……)
「兄貴は……俺なんかよりずっと、家に縛られてたんだな。」
ケルネリウスは、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「な、何カ言ったカ……? マサカ……俺を“出来損ナイ”だト、また言ウつもりカ……?」
魔人化の影響か、ケルネリウスの独り言はマンネリウスの耳に届いていたようだ。
「俺は、兄貴のことを一度も出来損ないだと思ったことはねぇよ? むしろ……ずっと努力してたの、知ってるからな。」
その言葉を聞いた瞬間、マンネリウスの体がビクリと震えた。
ギリッ、と歯ぎしりの音が響き――次の刹那、拳がケルネリウスめがけて飛んでくる。
「うぉっ……危ないだろうが! なんで急に殴ってくるんだよ!」
「お、俺ハ、出来損ナい…出来損なイじゃない…出来そお”オ”ォ“ぉ"ォ"ォ"ォ~~~!!」
ケルネリウスの声は、もう兄には届いていなかった。
獣のような咆哮が神殿の空気を震わせる。
その声に、もはや兄の面影は一切ない。
そして次の瞬間――
マンネリウスの髪が、生き物のようにうねりながら伸び、ケルネリウスの体を絡め取った。
「うっ……」
髪は蛇のように首へと巻き付き、締めつけが増していく。
息が喉で途切れ、視界が揺らぐ中、ケルネリウスはもう一度兄を見た。
(……そうか。兄貴に戻る余地は、もうどこにも残ってないんだな。)
魔人化したシモンのように一瞬でも人に戻れるかもしれない――
そんな淡い期待が、今ようやく崩れ落ちた。
幼い日の笑顔が、一瞬だけ脳裏をかすめる。
ケルネリウスは目を閉じ、その記憶にそっと蓋をした。
そして、覚悟を宿した目で、再び兄を見据える。
「……そういえば、兄貴とは一度も本気で喧嘩したことなかったよな。」
その言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようでもあった。
ケルネリウスは腰からフレア・レメディアを抜き放ち、
首に絡みついた髪を一息で断ち切る。
「始めようぜ。俺と兄貴の、人生一度きりの――最大の兄弟喧嘩を。」
「オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ア”ァ”ァ”ア”ァ”ーーーッ!!」
ケルネリウスの言葉に呼応するように、マンネリウスが咆哮を上げた。
刹那、空気までも固まったように、二人の動きが止まる。
カラン――
金属片が床を転がる音だけが響く。
天井の破片がパラリと落ちた――。
その瞬間、マンネリウスの髪が針のように尖り、一直線にケルネリウスへと飛ぶ。
ケルネリウスは目にも止まらぬ速さで、迫りくる髪を一本、また一本と正確に弾き落とした。
キィーン、キィーン。
フレア・レメディアが火花を散らす。
(これは…一本でも当たれば致命傷だな…)
ケルネリウスが髪の雨を捌いている中、
マンネリウスは自身の翼を一本、ためらいもなく引き抜くと同時に、黒い羽軸がねじれ、剣のような形へと変質していく。
そして髪の針をすり抜け、マンネリウスは刃を構えてケルネリウスの喉元へ迫った。
キィーン。
「おっとぉ……さすが兄貴。戦闘センスは抜群だな。」
ケルネリウスの額を、一筋の汗がつっと流れ落ちる。
「覚えてるか? 昔っからさ……俺、兄貴に戦闘術だけは勝てなかったんだよ……な。」
フレア・レメディアで剣を押し返すと、マンネリウスはふわりと距離を取り、元の位置に戻る。
「俺は今でも兄貴を尊敬してる!
あの頃の優しい兄貴に、戻ってきてほしいって……ずっと思ってたんだ!」
その叫びが届いているのかいないのか――
マンネリウスは胸を掴むように押さえ、苦しげに身を震わせた。
「ウ”ゥ”ッ……(た、助けて……くれ……)」
その声は、先ほどまでの咆哮とは明らかに違った。
「あぁ、聞こえたよ。兄貴……次で終わりにしよう。」
ケルネリウスにも兄の本当の声が届いたのか、目から、一筋の涙が静かに落ちた。
だが次の瞬間――
マンネリウスの身体がビクンと跳ねた。
「ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」
苦しみの叫びが、再び獣の咆哮へと変わり、先ほどよりも黒い靄がマンネリウスを襲った。
理性が戻りかけた反動か、マンネリウスの力が暴走を始めた。
黒い髪が再び逆立ち、数十本の槍のようにケルネリウスへ襲いかかる。
それ以外にも髪は蛇の形へと変わり、生きているかのようにケルネリウスへ噛みついた。
「まだ……暴れられるのかよ!」
ケルネリウスは蛇となった髪をよけながら、フレア・レメディアを横薙ぎに振り、迫る髪をまとめて弾き飛ばす。
火花が弾け、床が抉れる。
だがマンネリウスは止まらなかった。
抜いた翼の刃を振るい、狂ったようにケルネリウスへ斬りかかる。
キィン! ガガァン!
鋼と鋼が擦れ合うような音が、王城内に響き渡った。
ケルネリウスは必死に受け止めながらも、兄の刃の重みと痛みに震えていた。
「兄貴……!」
彼が呼びかけるたびに、マンネリウスの身体は一瞬だけぴたりと止まった。
だが、まるで誰かに操られているかのように、すぐに黒い靄が包み、狂気の瞳が再びケルネリウスを襲う。
(まだ……兄貴は中にいる……!)
ケルネリウスは刃を交えながら、一瞬の隙をついて兄の手首を掴んだ。
「兄貴……頼む!俺を見ろ!帰ってこい!」
その叫びに、マンネリウスの瞳が一瞬揺れ、赤く濁った瞳に、わずかにケルネリウスが映った。
そして次の瞬間、ケルネリウスは手首を一気に引き寄せ、マンネリウスを抱きしめると、
そのままフレア・レメディアを突き刺した。
「うっ……ケル……か……」
刃が刺さった部分から、黒い靄がゆらゆらと抜けていく。
「そうだよ…。ったく……何してんだよ。」
「ありがとう……ケル。助かった……よ……」
次第に黒い靄が晴れ、マンネリウスの顔が静かに露わになる。
魔人化した者が人へ戻ることはない。
――それでも、最期の瞬間だけでも兄の心を呼び戻せたのは、紛れもない救いだった。
「……バカ兄貴……最後まで俺を守ろうとしなくていいんだよ。」
幼い頃から何かと比べられてきた二人だが、その奥には、確かな“信頼”だけが残っていた。
マンネリウスはケルネリウスを守るために父の駒となり、ケルネリウスは兄を自由にするために家を出た。
「何が……ありがとう……だよ。それは……こっちのセリフだ……」
黒い靄は金色の粒子へと変わり、静かに空へ舞っていく。
それを見送りながら、ケルネリウスは大きく息を吐いた。
胸の奥にあった緊張が、ゆっくりとほどけていった。
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