荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女の決戦。

歌に乗せて

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「なんだか……さっきから王都の方に、黒い靄みたいなのが流れてるわよね……」


アンネリーゼがレリアと対峙していたその頃―― 


王都の中央広場では、メメント・ムーンとメメント・ソレイユのメンバーが空を見上げていた。


普段の空には存在しない“黒い靄”。
それが糸のように細く束になって、王城へ吸い寄せられるように流れていく。


「ちょ、ちょっと……あれ、見て……!!」


ティアナが震える手で王城の上を指すと――


王城の高さを軽く越えるほど巨大な“黒い球体”が、脈打ちながら膨張していた。


ボコ…ボコ…ボコ…


生き物そのもののように形を変え、うねり、蠢く。


真っ黒な球体が瘴気を集めて形を変えていくのが見える。


「な、なにあれ……?」


「……生きてる……?」


誰かが呟いた瞬間、球体が大きく震えた。


ドクン……ドクン……


その鼓動は、王都の石畳すらわずかに震わせ、足裏へと伝わる。


空気が波打ち、風向きがねじ曲がる。


そして――


「あ、れは……花の……蕾……?」


黒い球体がゆっくりと裂け、“巨大な蕾”へと姿を変えていった。


蕾が脈動するたびに、黒い靄が吸い込まれ、一瞬青空が広がる。


しかし、次の瞬間――


蕾から先ほどよりも強い瘴気が溢れ出し、町の中を覆った。


「あ、れは…生きているのかしら…?」


咳き込む者、息が詰まり顔をしかめる者。


「ゴホッゴホッ…」


アンネリーゼと旅をしたことで、瘴気に耐性ができていたはずなのだが、


瘴気濃度が高すぎるようだ。


「ゴホッ…ゴホッ…これ……空気が……重い……」


クロエが胸元を押さえ、息を呑む。


「クシュッ…クシュッ…目が
……ちょっと痛いわね……」


フィナは涙を拭いながら何とか前を見据える。


各々がこの状態をやばいと思った時、


何かを思い出したかのようにティアナが明るい声を発した。


「あ、そういえば…何かあった時のためにって…これを持たされたの忘れていたわ。」


風呂敷をドサリと出せば包みを広げる。


そこには、アンネリーゼ特性のハンバーガーが入っていた。


「え!?いま!?!?」


「もっと早く出せたんじゃないの!?」


このタイミングで出したティアナに思わずツッコミを入れるジュリナとノアール。


「そんなこと言うなら食べなくてもいいわよ!!」


ティアナはハンバーガーを皆に配ると自分も一口食べる。



「やっぱり…これよね。」


ミレイユはほっと一息つくと、王城の方をもう一度見上げた。



「アンナ様……本当に……大丈夫なんだよね……?」


クロエが唇を噛み締めたまま言う。


ハンバーガーを持つ手が小刻みに震えている。


いつも落ち着いた表情を保つジュリナも、目に不安の色を浮かべている。


ティアナも、声が裏返りそうになりながら呟いた。


「アンナ達のこともだけど……私たちも結構やばいと思う。」


「あぁ……今は何とかなっているが……」


「周りの魔物、数が……増えてきてるな。」


胸の奥がぎゅっと締めつけられるような沈黙が落ちた。

これまで経験したどんな危機よりも重く、冷たい――


まるで“絶望そのもの”が街を包んでいるようだった。

誰も言葉を続けられない。


声が出ないのではなく、“言葉という概念”が奪われていく。


(このままだと……アンナが……)


(わたしたち……見てるだけ……?)


喉の奥が苦しくなるほど悔しくて、でもどうしようもなくて、胸がぎゅうっと痛む。


そのとき――


パチン!!


空気を断ち切るように、ミレイユが手を叩いた。


がたがた震える足を、必死に押さえつけながら。


それでも前だけを向いて。


「わ、わたしたちは……歌うことしかできないわ!アンナのために――今は、歌いましょう!!」


その声に、全員の視線が集まった。


足だけじゃない。手や口、声も震えている。


でも――目は逃げていなかった。


クロエがゆっくりと息を吐き出すと、震える足を止めるように叩き、立ち上がる。


「……そうだね。私たちに…できることを。」


クロエに続くように、ゆっくりと立ち上がった。


「アンナ達に――歌を届けましょう!」


「癒しの力を……」


「浄化の力を……」


「防御の力を……」


「攻撃の力を……!」


「「「「全部――歌にのせて!!」」」」


その声が重なった瞬間、空気がふるりと震えた。


覚悟がひとつになったそのとき。


王城へと続く石畳が白く光り――


ポンッ、ポンッ――


柔らかな音を立てながら、白い百合の花が次々と咲き始める。


風に揺れる花は、まるで鐘のように――


チリン……


透明で、あたたかい音色を響かせる。


そして――


百合が一斉に花開いた瞬間、王都中に音楽が流れ始めた。


それはまるで、王都すべてが


彼女たちの歌を歓迎するかのように…


「届け!!私たちの思い!」


「レッツゥゥゥゥ~~」


「「「「クッキ~~~ング♪」」」」


“聖女は笑顔の歌を響かせ
神官は光の剣を掲げる

キラキラ☆ハート みんなを癒す
ピカピカ☆ソウル 希望を灯す
ドキドキ☆スマイル 勇気をくれる
ワクワク☆ビート 力を満たす


痛みは消えて 勇気が満ちる
涙は光に 変わりゆく


癒しは笑顔 安らぎは力
歌声ひとつで 未来がひらく


戦場はステージ! 仲間とともに!
歌えば奇跡が ここに生まれる!


聖なる歌を 響かせよう
闇も嘆きも 溶けてゆく
この舞台で ひとつになり
癒しの調べは 永遠に続く
みんなの声で 未来へ響け!”


***


~♪~♪~♪


「外から……歌が聞こえない……?」


神殿の中で肩を寄せ合っていた住民たちが、ぴくりと顔を上げる。


「これは……あいつらが歌っているのか。」


「この歌……なんだか懐かしいね。」


ラケルは外から響くメロディを軽く口ずさみ、オリザールスは目を細め、遠い昔を思い出すように耳を傾けた。


彼らはそれぞれ聖女たちを連れて、小さな神殿に身を潜めていたが――


外には依然として巨体の魔物が徘徊し、


動けば見つかりかねない状況が続いていた。


(どうしたものか……)


(どうやって外に出ようかな……)


一人なら突破できる。


だが――背後にいるのは、逃げるだけでも時間のかかる住民たち。


その数、数十名。


声を出すことすらためらう静寂の中、神殿に満ちた緊張感を、外の歌がやさしく揺らしていった。



ラケルたちが試しに外に出てみると、

そこにはたくさんの百合の花が音楽を鳴らしながらゆらゆらと揺れている。


「わぁぁぁ~すごい…」


一人の女の子が、その光景を見て目を輝かせた。



(これなら…何とかなるかもしれないな。)


ラケルたちの目に光がさした。


「行くか…シルクトレーテの所へ」


「これならいけそうだね。戻ろう。シルクトレーテの元に…」


下を向いていた人たちが上を向いて歩き始めた。





***



「ふふ……あの子たち。どんどん強くなってるわね。」


「これは負けられないな……」


その歌は、確かにアンネリーゼとケルネリウスの元へ届いていた。


そして黒百合の蕾は、今まさに――


完全に“開こう”としていた。
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