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食いしん坊聖女の決戦。
ケルネリウス 決戦の時。
しおりを挟む「……まさか、お前ごときがその剣を扱えるとはな……」
ケルネリウスが腰から抜いた剣を見て、ヴァルドリクは細めた目でじろりと品定めする。
「意外か……? これでも一応、アンナのお守りをするくらいには力があるんだ、ぜ!」
ケルネリウスは軽く踏み込むと、空気を切り裂くように音もなく距離を詰め——
フレア・レメディアを一気に振り抜いた。
しかし…
キィィィン!
ヴァルドリクは、迫り来る斬撃を、まるで虫でも払うように、片手の爪で軽く弾き返す。
と、同時にもう片方の腕が影のように動く。
ズドォォォォンッ!!
「……ッ!」
ケルネリウスの身体が壁ごと吹き飛び、王城の石壁に大きな穴を開けた。
「ペッ……」
瓦礫を払いのけながら立ち上がると、口の中に溜まった血を吐き出し、脇腹を押さえた。
(さすが魔人だな……威力が桁違いだ。 さっきのをフレア・レメディアで受け流してなきゃ……今頃、身体が二つに割れてたかもな)
ケルネリウスが立ち上がったのを見て、ヴァルドリクは「ククッ」と喉を鳴らす。
「ククッ……意外に根性があるではないか。あれで倒れないとはなぁ……」
「はは……こんなのまだまだ序の口だ。アンナの相手をしてきた毎日に比べればな」
自由奔放すぎるアンネリーゼの世話で鍛えられた日々を思い出し、ケルネリウスはニヤリと笑った。
その顔を見た瞬間、ヴァルドリクの眉がピクリと動く。
「ほぅ……アンナか。そ奴にも会ってみたいものだ」
アンネリーゼの名前が出た途端、黒い瘴気がヴァルドリクの周囲をゆらりと揺らし、空気が音もなく軋み始めた。
(これは……また瘴気濃度が上がったな……)
“存在そのものが災害”――
そう錯覚させるほどの圧力に、ケルネリウスも一瞬息を呑んだ。
(……恐らく、簡単には刃が通らないだろうな。もう少し力があればいいんだが……)
エルネストとは思えないほど鍛え抜かれた肉体。
そして鋼鉄そのもののような硬度を誇るヴァルドリク。
ケルネリウスは、その異形を前に一瞬だけ思考が止まった。
その瞬間――
~~♪~~♪
どこからともなく、風に乗って歌声が流れ込んできた。
「ん……なんだ……?」
歌は確かにヴァルドリクにも届いたらしい。
わずかに眉をひそめ、顔をそちらへ向ける。
(今だ!!)
ほんの数秒――されど致命的な隙。
ケルネリウスは地面を蹴り、ヴァルドリクの懐へ一気に飛び込む。
そして…
ズゴォォォン!!
右ストレートがヴァルドリクの頬に突き刺さり、魔人の身体を壁へ叩きつけた。
瓦礫が砕け散り、城内に重低音が響いた。
その間にも、歌声はどんどん強くなっていく。
ただの歌じゃない。自分の中にしみこんでくるような、暖かい歌。
握った拳に力が入り、鼓動に響く。
ケルネリウスは自分の胸の奥が熱くなるのを感じた。
「あいつら……いつの間にこんなに強くなったんだよ……」
あの時、シルクトレーテに言われるがままに始めた“アイドル”の訓練。
彼女たちが必死に磨いてきた力が、
今――確かな応援としてケルネリウスの背中を押していた。
フレア・レメディアを掲げ、ケルネリウスは力強く踏み込む。
「さぁ、最終ラウンドと行こうか! エルネスト……いや、ヴァルドリク!」
そして心の中で静かに呟く。
(あいつらのためにも……負けるわけにはいかねぇな)
ヴァルドリクは切れた口から流れ出る地を軽く拭うと、わずかに笑みを深めた。
「ふ、ふふ……ふははははは!! 流石ではないか、お主。 いいだろう。私の全力をもって相手してやる」
瞬間、周囲の瘴気が渦を巻き、掌に生まれた黒球は重力すら歪めるほど圧を帯びる。
「見せてやろう……これが“魔人”の本気だ。
全て、踏み潰してくれる――!」
言葉が終わるより早く、ケルネリウスが地を蹴った。
黒球が打ち出される。
空気が悲鳴を上げ、衝撃で壁が砕け散る。
ガシャァァンッ!! ドゴォォォン!! ズドォォン!!
(チッ……あれはまともに受けたら終わりだ!)
ケルネリウスは疾風のように走り始めると、するりとヴァルドリクの懐に滑り込んだ。
そして、フレア・レメディアを下から上へ。
――ザシュッ。
続けて、同じ軌跡を“なぞるように”、上から下へと振り下ろした。
――ザシュッ!!
ヴァルドリクの身体が弓なりにのけぞり、腹の底から絞り出すような咆哮をあげる。
「グッ……グアァァァァァァァアアアアア!!?」
巨体がよろめき、地面が震え、斬れた箇所から黒い瘴気が“噴き上がるように”溢れ出した。
その瘴気は、まるで意思を持つかのように蠢き、やがて、人のような輪郭を形作っていく。
「この器はもうダメだな。もう少しもつと思っておったが……この軟弱が!」
吐き捨てるように言うと、影の塊はふわりと浮かび、空へ逃れようとする。
「待て!! ヴァルドリク!!」
ケルネリウスが叫ぶが、影は止まらない。
「フハハハ……お前が生きているのであれば、まだどこかで相見えようぞ」
黒い靄は風に溶けるように散り、そのままセラフィエルの方角へと吸い込まれていった。
「……と、とりあえず……勝ったということでいいのか……」
(あっちの方角は…何事もないといいが…)
ケルネリウスは靄が消えていく方を見るて小さく息を吐くと、目の前にいるエルネストに視線を戻した。
二人の間に一瞬の静寂が訪れる。
その静寂を終わらせたのはケルネリウスだった。
「エルネスト…」
ケルネリウスは痛む脇腹と、黒い球がかすった足と腕を引きずりながら、倒れ込むようにエルネストへと近づく。
「ぼ、僕は……なんて事を……」
エルネストは力なく膝をつき、震える声で呟いた。
「いつから操られていたか知らないが……お前のやった事は大きい」
「分かっている。ここの瘴気は全部、僕が引き受けよう……このくらい、させてくれ」
その声音は、あの日とはまるで別人のようで――
ケルネリウスは、思わず息をのむ。
(……こっちが素なのか……? いや……分からないな)
ケルネリウスがフレア・レメディアをもう一度構え、迷いのない動きでエルネストの胸を貫いた。
瘴気がパリンと弾けるように浄化され、光の粒となってふわりと浮き上がり、空へと登っていく。
周囲の瘴気も次々と金色の粒へと姿を変え、川の流れのように夜空へ吸い込まれていった。
「ケルネリウス……アンネリーゼに、すまなかったと……伝えてくれ」
その一言が、
嘘なのか、本心なのかはケルネリウスにも分からない。
だが――
少なくとも、最後の声音だけは。
(……あれは、嘘じゃなかった)
そう信じたかった。
「……分かった」
ケルネリウスは短く答え、消えていくエルネストを見送った。
「……とりあえず……こっちは何とか……終わった、ぞ……」
力が抜けたように瓦礫の上に座り込み、壁にもたれかかりながら、そっと目を閉じる。
深く、静かに息を吐き――
「後は頼んだ……アンネリーゼ」
その言葉が風と一緒にアンネリーゼの元に飛んでいった。
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