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52:返り血を隠す残虐鬼
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クレアは未だ混乱状態から抜け出せずにいた。
相手が何を考えていようがお構いなしに、図々しく割り込んでいくのが素のクレアだというのに。
サイファスに顔を合わせるのが気まずい。
別にやましいところはないが、彼を見るだけでどうにも落ち着かない気分になってしまう。
(キスくらいで動揺するなんて馬鹿みたいだ)
わかっているのに、感情はどうにもならないのだった。
そんな中、謎の密偵が捕まったという知らせが入った。
その密偵は、先日クレアを襲った男たちの雇い主――レダンド子爵を逃がそうとして捕まったようだ。
尋問中のサイファスは、クレアを決して牢屋のある場所に入れない。
エグい光景を見せたくないという配慮だろうが、クレアにとっては今更なことだ。
密偵時代もクレオ時代も色々やって来た身なので。
尋問を終えて、サイファスが牢屋から出てくる。
そんな彼を見て、クレアはまたソワソワし始めた。
「クレア……」
妻を見つけたサイファスは、驚いた表情で尋問中についた返り血らしき染みを隠す。
「こんな場所に来るものじゃないよ? ここには悪人が捕らえられているんだから」
「サイファスは過保護すぎる。そんなもんにびびらねえよ」
「それでも、可愛いクレアに近づいて欲しくないんだ」
彼は尋問後の手でクレアに触れることを躊躇している。
その様子はまるで、血で妻を汚してしまうのではと恐れているようだった。
「で? 謎の密偵の正体はわかったのか?」
「隣国の者だったよ」
「ルナレイヴにちょっかいをかけている、アズム国か?」
「そう。最初に花嫁姿のクレアを襲ったのは、アズム国の息がかかった者たちだった。そして、レダンドは奴らに利用されていたんだ」
レダンドの凶行は止んだが、アズム国はまたクレアを狙ってきそうだ。
サイファスは、心配そうにクレアを見ていた。
「クレア、敵の密偵の話だと……これから、アズム国も本気で来るかもしれない。しばらくは、私の傍にいてくれないかな」
「……? いるじゃん、砦に」
「そうじゃなくて、目の届く範囲にいて欲しいというか。訓練止めて砦内か屋敷で過ごして欲しいというか」
モジモジするサイファスを横目に、クレアは首を傾げ口を開く。
「砦はともかく、屋敷で戦えるのはマルリエッタ他数人くらいだろ?」
「一応全員戦えるけど……本職の兵士には劣るかな」
「俺とアデリオがいるから大丈夫だ。たまにハクもウロウロしているしな」
何気に、ハクの監視に気づいているクレアであった。
「それでも、大切なクレアに何かあったらと考えるだけで、私はおかしくなってしまいそうなんだ」
サイファスが一歩近づくごとに、クレアは一歩後退する。
心臓がまた激しく脈打ち始め、全身が謎の緊張感に包まれていた。
もっと距離を縮めたそうな、けれど返り血や尋問後の手で妻を汚したくなさそうなサイファスは、やっぱりクレアに触れないままだ。
「今日のところはハクをつけるけれど、このことは、ちゃんと考えて欲しいんだ。君は大切な私の妻で、このルナレイヴの辺境伯夫人でもあるのだから」
「ああ、わかってるよ」
クレアは考えた。
(一日中屋敷で暇すぎる奥様生活なんて。悪夢の日々の再来だ)
なんとかして、回避しなければならない。
そのためには、アズム国のお偉いさんがいなくなれば……ルナレイヴが平和になればいい。
(よし、動くか)
よからぬ笑みを浮かべたクレアは、自分の未来のために計画を練り始めた。
相手が何を考えていようがお構いなしに、図々しく割り込んでいくのが素のクレアだというのに。
サイファスに顔を合わせるのが気まずい。
別にやましいところはないが、彼を見るだけでどうにも落ち着かない気分になってしまう。
(キスくらいで動揺するなんて馬鹿みたいだ)
わかっているのに、感情はどうにもならないのだった。
そんな中、謎の密偵が捕まったという知らせが入った。
その密偵は、先日クレアを襲った男たちの雇い主――レダンド子爵を逃がそうとして捕まったようだ。
尋問中のサイファスは、クレアを決して牢屋のある場所に入れない。
エグい光景を見せたくないという配慮だろうが、クレアにとっては今更なことだ。
密偵時代もクレオ時代も色々やって来た身なので。
尋問を終えて、サイファスが牢屋から出てくる。
そんな彼を見て、クレアはまたソワソワし始めた。
「クレア……」
妻を見つけたサイファスは、驚いた表情で尋問中についた返り血らしき染みを隠す。
「こんな場所に来るものじゃないよ? ここには悪人が捕らえられているんだから」
「サイファスは過保護すぎる。そんなもんにびびらねえよ」
「それでも、可愛いクレアに近づいて欲しくないんだ」
彼は尋問後の手でクレアに触れることを躊躇している。
その様子はまるで、血で妻を汚してしまうのではと恐れているようだった。
「で? 謎の密偵の正体はわかったのか?」
「隣国の者だったよ」
「ルナレイヴにちょっかいをかけている、アズム国か?」
「そう。最初に花嫁姿のクレアを襲ったのは、アズム国の息がかかった者たちだった。そして、レダンドは奴らに利用されていたんだ」
レダンドの凶行は止んだが、アズム国はまたクレアを狙ってきそうだ。
サイファスは、心配そうにクレアを見ていた。
「クレア、敵の密偵の話だと……これから、アズム国も本気で来るかもしれない。しばらくは、私の傍にいてくれないかな」
「……? いるじゃん、砦に」
「そうじゃなくて、目の届く範囲にいて欲しいというか。訓練止めて砦内か屋敷で過ごして欲しいというか」
モジモジするサイファスを横目に、クレアは首を傾げ口を開く。
「砦はともかく、屋敷で戦えるのはマルリエッタ他数人くらいだろ?」
「一応全員戦えるけど……本職の兵士には劣るかな」
「俺とアデリオがいるから大丈夫だ。たまにハクもウロウロしているしな」
何気に、ハクの監視に気づいているクレアであった。
「それでも、大切なクレアに何かあったらと考えるだけで、私はおかしくなってしまいそうなんだ」
サイファスが一歩近づくごとに、クレアは一歩後退する。
心臓がまた激しく脈打ち始め、全身が謎の緊張感に包まれていた。
もっと距離を縮めたそうな、けれど返り血や尋問後の手で妻を汚したくなさそうなサイファスは、やっぱりクレアに触れないままだ。
「今日のところはハクをつけるけれど、このことは、ちゃんと考えて欲しいんだ。君は大切な私の妻で、このルナレイヴの辺境伯夫人でもあるのだから」
「ああ、わかってるよ」
クレアは考えた。
(一日中屋敷で暇すぎる奥様生活なんて。悪夢の日々の再来だ)
なんとかして、回避しなければならない。
そのためには、アズム国のお偉いさんがいなくなれば……ルナレイヴが平和になればいい。
(よし、動くか)
よからぬ笑みを浮かべたクレアは、自分の未来のために計画を練り始めた。
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