久々に実家に帰ったら、俺にはライオンの様に凶暴な義妹が出来ていました。父「ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^」俺「◯ね」

ゆうらしあ

文字の大きさ
7 / 49
第1章 最低です

第7話 大切なもの

しおりを挟む
 人にはそれぞれ大切なものが存在する。

 金や命が大切と言う者も居れば、時間が大切と言う者もいる。その他にも多くの大切なものがあるだろう。

 この世には大切なものが多過ぎる。

 人もそうだ。

 獅子は我が子を千尋の谷に落とす、このことわざを知っているだろうか?

 これは、深く想う相手、大切な人にわざと試練を与えて成長させること、またはそのようにして成長させるべきであるという考えを意味する。



 だから俺は、

 大切なもの等から距離を置いた。

 幸せを願って。





 数時間前。

 俺は玄関から出て、商店街のある方へと向かっていた。

 そして、親父のあの言葉が胸に刺さっていた。


『ハハッ、その…あー…葵ちゃんとは上手くやってるか?』


 さっきは無難に普通だと答えた。

 しかし、実際には2日連続で殴られ、まともに話さない関係。これが果たして普通と言えるのだろうか。

 それに…

『もし何かあったらすぐ連絡しろよ! すぐ駆けつけるからな!!』

 何もない。

 ないようにする…。

 折角の新婚旅行。1週間は2人で楽しんで欲しい。俺が邪魔をするなんて、あり得ない。

 その為にはアイツにまず謝らないといけない。誠意を見せる為にはやっぱり物かなんか買うか? でも好きな物とか知らないし…

 世理は頭を悩ませながら進む。

 そんな時だった。

「こんな所で何してるの?」

 どこか男勝りな声、だがその声は高く鼓膜を揺らした。

 振り返るとそこにいたのは、高校の時の1つ上の先輩、高橋《たかはし》 那由《なゆ》さんだった。

「えーと…散歩に」
「バカ。そんな事聞いてるんじゃないわよ。今ロンドンにいるんじゃないの?」

 那由がそう言うと、頭を軽く叩かれる。

 那由は世理の高校の時の美術部の先輩だった。よく絵の描き方などを教わっており、その帰りにはご飯に行ったりとよくしてもらっていた。

 たが世理にとっては1番会いたくなかった相手でもある。

 世理は目線を下げる。

「? なによ?」

 格好はダボダボの灰色スウェット。このような明るい時間帯の服装とは思えない。せめてそういう格好は深夜コンビニに行く時だろう。

 まぁ、パーツは良いんだけど…服が…

 俺は自然と目線を下から上に移動させる。

 …せっかく綺麗な見た目してんのに…勿体ない。

 黒く艶のある長髪。透き通るかの様に白い肌にぱっちり二重の目。目尻は少し上がっており、少し明るい雰囲気を醸し出している。

「だ、だからなによ?」

 那由は世理の呆れたる様な表情を見て、顔を顰め、自分の身体を隠すように抱きしめる。

「別に…夏休みなんですよ。去年は課題とかで帰って来れなかったですけど今年は頑張って終わらせました」
「へー…! じゃあ今暇って事?」
「いや、暇じゃ…
「散歩してるんでしょ? ちょっと付き合え!」

 那由はそう言って世理の腕を掴むと、商店街とは逆の方向に歩き出す。

「いや、俺やる事が…!」
「…何よ、私を日本に置いて行った癖に」
「それはそれ、これはこれ! 兎に角、今俺にはやらないといけない事があるんです! 今、俺は貴方に会いたくなかった!!」

 俺は腕を振り解き、商店街の方へと進む。

 那由は世理を悲しげに、懇願する様に見つめる。

 が、世理はそれを無視する様に商店街へと向かった。



「はぁ…」

 まさかこんな所で会うとは…いつもならあの人まだ寝てるだろ。

 まだ午前10時。あの人の職業を考えればまだ起きるのは早い。

「空白の渇望」。これは累計発行部数9000万部を超える大ヒット漫画である。その多大に張り巡らされた伏線。独特な絵のタッチから、絶妙な進行。銃撃戦などが主で、残虐さが多くあるシーンながら、続きを読ませたくなるストーリーの内容で、ダークストーリーながら1億部を超えそうな、今1番勢いのある漫画である。

 その原作者があの人だからな…普通なら寝てるか、漫画書いてるんだろうけど…。

 高橋 那由。初めて作った漫画を出版社に持って行った高校2年生の頃、編集長に光る物があると言われて半年にして世に漫画が広められた。まぁ、所謂天才って奴だ。

「俺とは生きてる所が違うよな…」

 世理が空を見上げながら呟く。

「って…どういう事よ!!」
「ぐふっ!?」

 突然、俺の腰にとんでもない衝撃が訪れる。

「うおぉぉぉぉぉ……」

 イッテェェェェェ…!! 何が起こった!?

 世理は後ろを振り返ると、そこには仁王立ちをしている那由がいた。

「何が生きてる所が違う、よ!! 世理くんと変わらないわ!!」

 どうやら、つけられていたらしい。

 あんな事を言えば追ってこない、そう思ってたがそうでもなかったらしい。

 しかも、さっき言った言葉、自分に言われたって事分かってる…

「変わりますよ」

 俺は地面に座りながら言った。

 俺とは違う、天上人。もう将来が約束された人。この人にはブランドがついた。高橋 那由という名のブランドが。

「変わらない!! 変わらないの!!!」

 那由は訴える様に叫んだ。

 今にも泣きそうに声を震わせて。

 …いつもこの人はそうだ。機微に聡い。

 苦手だ。

「はぁ…分かりました。変わりませんよね。はいはい」
「……今はそれで許すけど、今度また言ったらこれじゃ済まないわよ!!」

 那由さんはそう言うと、満足そうに強く縦に首を振る。

 全く、昔から変わらないな…この人は。

「ほら!! 彼氏なんだから私のご機嫌とって!!」

 少し頬を赤らめ膨らませる那由は、地面に座り込む世理に手を差し伸べる。

「はぁ…"元"ですけどね」

 そう言って俺は那由さんの手を取った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...