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第1章(4)レナside
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【レナ25歳/夢の配達人隠れ家】
「マスター、いらっしゃいますか?調査結果をお届けに参りました」
前回の任務結果をまとめた報告書を提出しようと、私はマスターの部屋の扉をノックして声をかけた。
すると、さほど間も無く「どうぞ」と女性の声で返事が返され、私は静かに扉を開けると部屋の中に足を踏み入れる。
「失礼致します」
そう言った私の目に最初に入ってきたのは、茶色い髪を肩まで伸ばした可愛らしい女性。
この人が先程私に「どうぞ」と、声をかけてくれた声の主。
現マスターの奥さんであり、秘書のホノカさんだ。
目が合って、お互い微笑みながら軽く会釈して挨拶を交わしていると……。
「……その声は、レナですね?」
ホノカさんの少し後ろにある机で仕事していた現マスター、シュウ様が私の方に顔を向けて微笑んでくれる。
その優しい笑顔に嬉しくなって、私はついつい弾むような早足でシュウ様の元まで歩み寄った。
「はい、レナです!
調査結果、机の上に置きますね?」
「ありがとう、助かります」
私が仕事机の上に報告書を置くと、それを確認するように手で触れて、シュウ様はお礼を言ってくれた。
……でも。
シュウ様はその報告書を、すぐに読んだりしない。
いや、読めないのだ。
「ホノカさん、この報告書に書いてある事。
読み上げてもらえますか?」
「はい、分かりました」
シュウ様の問い掛けにホノカさんは答えると、傍らに歩み寄ってきて報告書を丁寧に読み上げ始める。
ホノカさんの声に、静かに耳を傾けるシュウ様。
その光景を見ていると、仲睦まじい夫婦仲を微笑ましいと思うと同時に……。
胸がキュッと苦しくなって、思わず私から笑顔は消えた。
三年前の2月14日。
全てはあの日から、狂い始めた。
「マスター、いらっしゃいますか?調査結果をお届けに参りました」
前回の任務結果をまとめた報告書を提出しようと、私はマスターの部屋の扉をノックして声をかけた。
すると、さほど間も無く「どうぞ」と女性の声で返事が返され、私は静かに扉を開けると部屋の中に足を踏み入れる。
「失礼致します」
そう言った私の目に最初に入ってきたのは、茶色い髪を肩まで伸ばした可愛らしい女性。
この人が先程私に「どうぞ」と、声をかけてくれた声の主。
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目が合って、お互い微笑みながら軽く会釈して挨拶を交わしていると……。
「……その声は、レナですね?」
ホノカさんの少し後ろにある机で仕事していた現マスター、シュウ様が私の方に顔を向けて微笑んでくれる。
その優しい笑顔に嬉しくなって、私はついつい弾むような早足でシュウ様の元まで歩み寄った。
「はい、レナです!
調査結果、机の上に置きますね?」
「ありがとう、助かります」
私が仕事机の上に報告書を置くと、それを確認するように手で触れて、シュウ様はお礼を言ってくれた。
……でも。
シュウ様はその報告書を、すぐに読んだりしない。
いや、読めないのだ。
「ホノカさん、この報告書に書いてある事。
読み上げてもらえますか?」
「はい、分かりました」
シュウ様の問い掛けにホノカさんは答えると、傍らに歩み寄ってきて報告書を丁寧に読み上げ始める。
ホノカさんの声に、静かに耳を傾けるシュウ様。
その光景を見ていると、仲睦まじい夫婦仲を微笑ましいと思うと同時に……。
胸がキュッと苦しくなって、思わず私から笑顔は消えた。
三年前の2月14日。
全てはあの日から、狂い始めた。
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