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7話 現れた大公殿下 その1
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「失礼するぞ、シルマール殿。急な訪問で申し訳ないが……」
「ブラックル・ウォルト大公殿下、ようこそいらっしゃいました。急なご訪問ということでしたので、ご満足の行くおもてなしが出来ないことはご容赦いただけますでしょうか?」
「うむ、それは構わない」
「ありがとうございます」
ブラックル様……本当に現れた。実際にこの目で見るまでは、来るのかどうか半信半疑ではあったのだけれど。
ベストタイミングとは思ったけれど、普通にブラックル様の常識を疑うわ。多額の慰謝料請求をすると啖呵を切っておいて、レイクス家の屋敷を訪問してくるなんて。通常なら目的が分からず四苦八苦しそうだけれど、彼の表情を見るに、優越感に浸って見下したいだけのようね。
「ようこそいらっしゃいました……ブラックル様」
「ジェシカか、ふふふ。元気そうで何よりだな」
「……」
私は敢えて返さなかったけれど、ブラックル様はとても上機嫌だった。ブラックル様に合わせているのか、付き人の執事も笑っているようだった。
お父様は応接室の隣の客間にブラックル様と執事を案内する。彼は上機嫌のまま部屋へと入り、用意されていたソファに座った。
「さて、シルマール殿。私がここに来た理由は分かっているか?」
「はい、ブラックル様。我が娘の一件でございますね? 具体的には慰謝料の件かと存じますが……」
「その通りだ。こちらの執事のバームを通して話は行っていると思うが、ジェシカが私との婚約を破棄したいなどと言って来てな」
バームと言う人物はブラックル様の専属の執事だ。事務仕事に長けていて、今回の慰謝料請求もこの人が中心で行っているはず。
とっくに伝わっている内容だけれど、ブラックル様は怪しく笑いながら説明を開始した。こちらの反応を見て楽しみたいという下衆な欲求が丸見えだ。
「それについても承知しております。ですが、ブラックル様。娘のジェシカが婚約破棄を申し出たのは、ブラックル様の浮気が原因でございましょう? 第一夫人であるセレナ様が居ない間に、随分と楽しんでおられるようですが?
そちらは大丈夫なのですか?」
「……何が言いたいのだ?」
お父様はとても強気だった。まさか、第一夫人のセレナ様の名前を出して牽制するとは思ってなかったし。
少し、ブラックル様も焦っているように見えるわ。隣室には伯父様とラクロアが控えているし……明らかにブラックル様は不利な立場ね。それに加えてセレナ様まで……お父様もなかなか凄いことを考えているわ。
「ブラックル・ウォルト大公殿下、ようこそいらっしゃいました。急なご訪問ということでしたので、ご満足の行くおもてなしが出来ないことはご容赦いただけますでしょうか?」
「うむ、それは構わない」
「ありがとうございます」
ブラックル様……本当に現れた。実際にこの目で見るまでは、来るのかどうか半信半疑ではあったのだけれど。
ベストタイミングとは思ったけれど、普通にブラックル様の常識を疑うわ。多額の慰謝料請求をすると啖呵を切っておいて、レイクス家の屋敷を訪問してくるなんて。通常なら目的が分からず四苦八苦しそうだけれど、彼の表情を見るに、優越感に浸って見下したいだけのようね。
「ようこそいらっしゃいました……ブラックル様」
「ジェシカか、ふふふ。元気そうで何よりだな」
「……」
私は敢えて返さなかったけれど、ブラックル様はとても上機嫌だった。ブラックル様に合わせているのか、付き人の執事も笑っているようだった。
お父様は応接室の隣の客間にブラックル様と執事を案内する。彼は上機嫌のまま部屋へと入り、用意されていたソファに座った。
「さて、シルマール殿。私がここに来た理由は分かっているか?」
「はい、ブラックル様。我が娘の一件でございますね? 具体的には慰謝料の件かと存じますが……」
「その通りだ。こちらの執事のバームを通して話は行っていると思うが、ジェシカが私との婚約を破棄したいなどと言って来てな」
バームと言う人物はブラックル様の専属の執事だ。事務仕事に長けていて、今回の慰謝料請求もこの人が中心で行っているはず。
とっくに伝わっている内容だけれど、ブラックル様は怪しく笑いながら説明を開始した。こちらの反応を見て楽しみたいという下衆な欲求が丸見えだ。
「それについても承知しております。ですが、ブラックル様。娘のジェシカが婚約破棄を申し出たのは、ブラックル様の浮気が原因でございましょう? 第一夫人であるセレナ様が居ない間に、随分と楽しんでおられるようですが?
そちらは大丈夫なのですか?」
「……何が言いたいのだ?」
お父様はとても強気だった。まさか、第一夫人のセレナ様の名前を出して牽制するとは思ってなかったし。
少し、ブラックル様も焦っているように見えるわ。隣室には伯父様とラクロアが控えているし……明らかにブラックル様は不利な立場ね。それに加えてセレナ様まで……お父様もなかなか凄いことを考えているわ。
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