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8話 現れた大公殿下 その2
しおりを挟む「せ、セレナのことは今は関係ないではないか!」
「いえ、確実に関係はあるかと思われますが。慰謝料請求の件の原因が、第一夫人であるセレナ様や我が娘のジェシカの許しを得ずに愛人を作ったことにあるのですし……いわゆる、浮気ということですね。それが原因であるにも関わらず、ジェシカが婚約破棄を言い出すと高額の慰謝料請求をするとおっしゃる始末」
「シルマール殿……誰にそのようなことを言っているのか、分かっているのか?」
「もちろんでございます。目の前の……ブラックル・ウォルト大公殿下に申し上げているのですよ」
堂々としたお父様の態度……とても頼りがいのあるものだった。ブラックル様は明らかに追い詰められている様子だ。
「いいのかな、そんな偉そうな口を聞いて? 私は現在は王族ではないにしても、国王陛下の弟になるのだぞ? 議会へも顔は利く。こちらに居るバームが既に報告書を纏めて提出しているからな、準備は万端だということだ。そうだな、バームよ」
「はい、その通りでございます。慰謝料請求の為の準備は全て完了していることになりますので……」
ブラックル様もバームも随分と自信満々の様子だった。「どちらが優勢か見物だな」と言っているようにしか見えないけれど……。
この様子だと国王陛下や議会は彼らの報告書を受理したようにも聞こえるけれど、本当に受理されたのかしら?
「国王陛下と議会への報告については理解いたしました。しかし、それはまだ受理されていないでしょう? まだ、審議の段階のはずだ」
お父様の言う通りだった。何かしらの答えが出ていれば、私達やラクロアにも連絡が入るはずだし。王族や議会が本格的に動き出すとなれば、私達の屋敷を差し押さえなんて事態になってもおかしくないわけで……そういうことは、現段階では一切ないし。
「そうだな、シルマール殿。お前達はギリギリのところで踏ん張っているのだ。陛下が承諾するのも時間の問題……だからこそ私は、こうして来てやったのだからな」
「どういうことでしょうか……?」
「陛下からの正式な通達が来る前に、私に謝罪をして慰謝料を支払うと言えば、いくらかの慈悲を与えてやると言っているのだ。悪い話ではあるまいて」
「じ、慈悲……?」
ブラックル様の言葉で私は確信してしまった。彼はやはり優越感に浸る為だけに、バームを引き連れてやって来たのだ。とても大公殿下とは思えない態度……こんな幼稚な人が大貴族の一角だなんて。他国に知られたら大変なことになるわね。
「ブラックル様、私が謝罪をするとお思いですか? そもそものお話として、私達には何の非もないのですから。謝罪をする意味合いが分かりません」
「ジェシカ、お前……そんな強気な発言をして、後悔しないのだろうな……?」
ブラックル様の表情はさらに余裕のないものに変わっているようだった。優越感に浸れないのが悔しいのかもしれない。後悔、か……私が後悔をする未来が見えないのはおそらく気のせいではないはずだ。
「随分と楽しそうですね、叔父上。いや、今はウォルト大公と呼んだ方が良いかな」
「まあ、非公式の場ではあるのですし、叔父上で問題はないでしょう」
「なっ……!」
「ラクロア王子殿下! カイマール大臣まで……!」
そして、このタイミングでやって来るのは、ラクロアと大臣参謀の一人である伯父様。予想はしていたけれど、ブラックル様とバームの表情は凄いことになっていた。
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