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44話 フォルセの想い その1
しおりを挟む(フォルセ視点)
私はアーチェ姉さまのことが好きだった。子供の頃は、本気で結婚したいと思える程にその想いは本気だった。
ただ6歳の頃、血の繋がった姉弟での結婚は出来ないと知った。それを知った後は姉さまには幸せになって欲しいと考えるようになっていた。
アーチェ姉さまの幸せを考える上で、ウォーレスとニーナという幼馴染は邪魔でしかなかった。あの二人が離れてくれたのは、本当に良かったと思っている。ただし、現在はある意味で一番厄介な人物が、アーチェ姉さまの近くに居るわけだが……どうしたものか。
「フォルセ、どうかしたの?」
「いえ……なんでもありません、姉さま」
本日はアーチェ姉さまと一緒に舞踏会に出席している。今日の舞踏会は私やアーチェ姉さまにとって、特別なものにしたいと思っている。私の交友関係を通して、アーチェ姉さまに相応しい人物を選りすぐっていた。なんとか、姉さまが気に入ってくれればいいけど、果たしてどうなるだろうか。相手側はアーチェ姉さまの外見を気に入ってくれてるので、上手く行く可能性はあると思う。
私の願いはただ一つ……アーチェ姉さまをネプト国王陛下から遠ざけたいというものだった。
「さて、フォルセ。どうしようかしら? 適当に料理でも食べる? 何か欲しい物はない?」
「大丈夫ですよ、姉さま。お気遣いありがとうございます。それよりも……」
「えっ、どうしたの?」
私は目配せをして、近くに待機させていた、伯爵令息のセルガス・ウインドウに来るようにお願いした。セルガスは私の合図に気付いたのか、アーチェ姉さまの前にやって来る。
「失礼致します。アーチェ・ノーム伯爵令嬢ですかね?」
「あ、はい。左様でございますが。貴方様は確か……」
「申し遅れました。ウインドウ伯爵家の次男、セルガスと申します。以後、お見知りおきを」
「セルガス様……まさか、フォルセの?」
「はい、フォルセ殿とは知り合いになりますかね」
セルガスに「殿」を付けられるのは、面映い気がしてしまうけどまあいいか。とりあえず、セルガスとアーチェ姉さまの接触は成功した。
「アーチェ様。よろしければ少し、お話など如何でございますか?」
「えっ、私とですか……?」
マズイ……アーチェ姉さまは戸惑っているように感じられる。きっと、ネプト国王陛下のことを考えているのだろう。
「姉さま、せっかくですのでセルガスと二人でお話しされることを推奨いたします」
「で、でも……」
「せっかくの舞踏会なわけですから、楽しむのも良いかと思いますよ?」
「そ、そうね……では、セルガス様。少しお話し致しましょうか」
「はい、喜んで。よろしくお願い致します」
「こちらこそ……」
ふう、やれやれ……セルガスとの会話に持って行くだけでも、神経を使うものだな。それほど、アーチェ姉さまは「幼馴染」という呪縛に囚われていたということなのだろうけど。
くそ……! ニーナ嬢の罪は非常に重いぞ……姉さまを上手く操り、自分の都合の良い行動をさせていたのだろうが。伯爵家からの追放くらいはして欲しいものだ。不敬罪とかも追加されればさらに重くなるだろうな。
ああ、駄目だ……こういう考えは良くないな。アーチェ姉さまが大切に想っていた相手ではあったのだし。どういった罰になるのかは、ネプト国王陛下に任せるとしよう。私はとにかく、セルガスとアーチェ姉さまが上手く行くように祈るだけだ。
セルガスは誠実な男だし、伯爵家の次男ということもあって伯爵家を継ぐことはない。国家機関の要職に将来は就く可能性が高いから、アーチェ姉さまとしても平穏無事な結婚生活を送れると思う。少なくとも、側室になるよりは遥かにマシだろうからな。
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