妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス

文字の大きさ
5 / 19

5話 読書の時間

しおりを挟む
「ウィリアム……ちょっと良いかしら? 気になっていることがあるんだけれど……」

「どうかしたのか、ファラ?」

「ええ、私とウィリアムは、こうして同じ部屋で過ごすことが多くなってきたでしょう?」

「そうだな、もう何回目になるんだっけ」


 私とミゼル様の婚約解消が成立してから数えても、10回くらいにはなる。あの日から1カ月しか経過していないのに、この回数は多いと言えるだろう。

「10回くらいになるわね。だから、私とウィリアムの間で変な噂が立っているんだけど……」

「変な噂? 幼馴染なんだし、同じ部屋で読書をするくらい普通だと思うけど。使用人だって出入りはしているんだし」

「確かにそうなんだけれど……」


 個人的には特に気になる噂ではない。むしろ、嬉しい噂と言えるかもしれないからだ。つまり……年頃の男女が同じ部屋に入れば必ず流れる噂、というわけで。

「なんとなく予想は付いたよ。俺とファラの関係が怪しまれているってところか」

「ご名答、流石はウィリアムね」

「いや、これは流石に分かるよ。しかし、そんな噂が流れているか。貴族というのは、わりかし暇な連中が多いのかもしれないな」

「そうかもしれないわね」


 私とウィリアムはこれでも、忙しい日程の中を選んで会っている。別に暇人だから読書の時間を楽しんでいるのではない。特にウィリアムは私に付き合ってくれているわけだ。付き合い始めたのではないか? とか、そういった噂が流れても、お互いに変な気分になることはなかった。

 昔もそんな風に言われたことはあるからね。もう、慣れてしまっている。

「ねえ、ウィリアム」

「なんだい、ファラ?」

「私はミゼル様と婚約解消になっているから、問題はないけれど……貴方は大丈夫なの?」

「ん? どういうことだ?」


 ウィリアムが誰かと付き合っているという噂は聞いていないけれど、念のために確認しておく必要があった。誰か、お目当ての方が居るだけでも、私の読書の時間に付き合わせているのは失礼になってしまうし。

「ほら、その……お目当てのお方が居たりしないの? 将来、結婚を誓った相手とか」

「そうだな……公爵令息という立場で20歳も目前だが、今のところ運命の相手は居ないかな」

「まったく、居ないわけ? それは流石にまずいんじゃ……」


 彼ももう19歳だ。公爵令息という立場なら、そろそろ、次期当主になることも考えて婚約者候補くらいは作っておかないとマズイはず。私はそっちの方が心配になってしまった。

「まあ、俺も悲しい経験をしたからね。失恋、というやつかな」

「そ、そうなんだ……ごめんなさい、思い出したくないことだったわよね」

「いや、大丈夫だよ。その悲しみはもしかしたら、報われるかもしれないからね」

「そうなの?」

「まあね」


 特にウィリアムは悲しんでいる様子はない。でも、失恋の経験はあるんだ……まあ、そうよね。彼も恋の1つや2つしていてもおかしくないし。と、そんな時だった……私の部屋がノックされたのは。

「あれ、誰かしら? どうぞ、開いています」

「失礼するぞ、ファラよ」

「ファラ、失礼するわね」

「お父様、お母様……!?」


 まさか、ウィリアムが居るタイミングで二人が入ってくるとは思っていなかった。今までは、恐れ多いということで入って来なかったのに。二人はなにかニヤニヤと笑っているような……それに、揉み手をしているわね。どういうつもりかしら?
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

貴方との婚約は破棄されたのだから、ちょっかいかけてくるのやめてもらっても良いでしょうか?

ツキノトモリ
恋愛
伯爵令嬢エリヴィラは幼馴染で侯爵令息のフィクトルと婚約した。婚約成立後、同じ学校に入学した二人。フィクトルは「婚約者とバレたら恥ずかしい」という理由でエリヴィラに学校では話しかけるなと言う。しかし、自分はエリヴィラに話しかけるし、他の女子生徒とイチャつく始末。さらに、エリヴィラが隣のクラスのダヴィドと話していた時に邪魔してきた上に「俺以外の男子と話すな」とエリヴィラに言う。身勝手なことを言われてエリヴィラは反論し、フィクトルと喧嘩になって最終的に婚約は白紙に戻すことに。だが、婚約破棄後もフィクトルはエリヴィラにちょっかいをかけてきて…?!

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

(完結)婚約解消は当然でした

青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。 シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。 お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。 エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。 でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。

【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。

まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。 私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。 お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。 けれど、彼に言われましたの。 「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」 そうですか。男に二言はありませんね? 読んでいただけたら嬉しいです。

はじめまして婚約者様  婚約解消はそちらからお願いします

蒼あかり
恋愛
リサには産まれた時からの婚約者タイラーがいる。祖父たちの願いで実現したこの婚約だが、十六になるまで一度も会ったことが無い。出した手紙にも、一度として返事が来たことも無い。それでもリサは手紙を出し続けた。そんな時、タイラーの祖父が亡くなり、この婚約を解消しようと模索するのだが......。 すぐに読める短編です。暇つぶしにどうぞ。 ※恋愛色は強くないですが、カテゴリーがわかりませんでした。ごめんなさい。

処理中です...