婚約破棄するのは良いんですけど、瞬間記憶の能力で貴方を助けていたことをお忘れですか?

ルイス

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1話 婚約破棄

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「メリーナ、お前との婚約は本日をもって破棄させてもらおうか」

「あ、アンバス様……!?」


 私はその日、婚約者のアンバス・バルバドイ侯爵から婚約破棄を告げられてしまった。理由は幼馴染の女性と一緒になるからだとか……反論をしてみたが、彼は全く取り合ってくれない。


「まあ、そういうわけだ。お前はすぐに荷物を纏めて実家に帰るんだな。別の男でも見つけるが良かろう」

「そ、そんな……」


 とても身勝手な理由での婚約破棄だ……ここまで罪悪感の欠片もなく告げられるとは思わなかった。婚約破棄というのはそれだけありふれているといった印象さえ受けるけれど、そんなわけはない。婚約破棄された令嬢は傷物令嬢と呼ばれ、疎まれるとさえ聞いているのに……。


 しかし私は伯爵令嬢でしかなく、アンバス様に本気で逆らうことは出来なかった。それはお父様でも同じことだろう。彼が婚約破棄をすると言えば、受け入れるしか道はないのだ。

 私は悲しみの余り泣いてしまったけれど、アンバス様は完全に無視をしているようだった……。


------------------------


 私はその後、セラスタ伯爵家に帰ることになった。お父様やお母様は私を責めることはなく、優しくもてなしてくれた。それが逆に申し訳ない気持ちを増長させていたけれど。

「お気持ちをお察しいたします……メリーナ様」

「ありがとう、ネル。迷惑を掛けるわね」

「いえ、そんなことはありません。いつでも帰って来ていただけるように、お部屋の掃除をしていましたから」

 メイドの一人であるネルは急に私が帰って来たことを、とても心配してくれていた。すぐに私室のベッドメイクなどもしてくれる。


「これで特に何の問題もなく使用できるかと思います。何かございましたら、遠慮なくおっしゃってくださいませ」

「ありがとう、ネル」


 今日は少し疲れてしまった……もう、ベッドに入った方が良いだろうか? いきなりアンバス様の屋敷から追放されることになったからね。頭が付いて行かない。


「それにしても、アンバス・バルバドイ侯爵は大丈夫なのでしょうか? このような婚約破棄をしてしまって」

「大丈夫なんじゃない? たかが伯爵令嬢程度の反論なんて、侯爵であるあの人には効かないってことでしょう」

「いえ、そういうことではなくて……メリーナ様が今まで、あの方の元で行っていた仕事の方です」

「ああ、そういうこと」

「ええ……」

 そっちの方か。確かに私はアンバス様の屋敷で特殊な仕事を引き受けていた。私には「瞬間記憶」という能力がある。目で見た文章等を一瞬で覚えるというあれだ。これによって、書斎などにある本の何ページ目にどんな文章が書かれているかを瞬時に答えることが出来るのだ。

 この能力はアンバス様のところで使用しており、主に各文書の作成に活かされていたわけだけれど……。

「その辺りも考慮しているんでしょ、彼は。仮にも侯爵という立場なんだし、私の能力なんてそこまで当てにはしていなかったのでしょう」

「そうでしょうか? まあ、今さらアンバス様がどうなろうと知ったことではありませんが」


 ネルの言葉はアンバス様に対する憎しみが入っているようだった。という私も気持ちとしては彼女と同じだ。今さらアンバス様への愛情は欠片程も存在していない。
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