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1.ギルド編
第36話 戦闘開始
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ダイウルフに対して捨て身で時間稼ぎを試みているギルド職員の姿。
「……後はまかせろ」
それを目にした時、僕は自然とそう口走っていた。
だがダイウルフを捨て身で抑えに行くギルド職員の姿は決して英雄譚の自己犠牲なんかではなかった。
何せ過失が自分にあり、それがなければそもそもこんな危機的状況に陥ることは無かったのだから。
だけども、僕はこんな声ではギルド職員には聞こえないとわかりながら、それでもそう告げていて……
「絶対にお前はここでつぶす」
そしてそれは僕の覚悟の表れだった。
目の前で僕を威嚇してくるポイズンウルフ。
その身体からは興奮しているせいで、毒気が溢れ出している。
それはポイズンウルフの持つ毒を考えれば微弱な効果しかないものであったが、吸い続けていれば僕の身体にかなりの被害をもたらすだろうことを僕は悟っていた。
「あっちがきちんと役目を果たしてくれたんだ。僕が逃げてどうする」
けれども、僕はその毒気を全く気にすることなく前へと踏み込んだ。
たしかにこの場で一番悪いのは状況も考えず、この事態を引き起こしたギルド職員だろう。
けれどもその次に責任があるのは僕だった。
何故なら僕だけがこの事態を予測できていたのだ。
ポイズンウルフの痕跡に気づき、そしてポイズンウルフの存在に対してほぼ確信を持ちながらこの事態を引き起こすことを防げなかったのだ。
しかもその理由は自分に対する自信のなさから発した優柔不断だ。
それはあまりにもお粗末過ぎる理由だった。
そして今、責任を負う一人の人間が命をかけて時間を稼いだ。
だとしたら、もう一人の責任を負う身である僕が、この好機を棒にふるなんて許されるはずがない。
「っ!」
そんな覚悟と共に、僕はポイズンウルフへと足を踏み出した……
◇◆◇
僕の唯一ポイズンウルフを倒せる手段、それは魔石を狙うということだった。
魔石、それは魔獣の核。
機械で言えば、電池と同じような部分で、それを狙うことで魔獣を即死させることができる。
大型の魔獣を相手にする時は最後の手段として魔石を狙うことがある程だ。
ポイズンウルフも、魔石を上手く砕くことができれば毒を放つひまを与えず殺すことができるだろう。
だが、そのセオリーはポイズンウルフには使えない。
何故なら魔石を狙うことができるのは魔石の位置がわかる魔獣だけなのだ。
ポイズンウルフの魔石の位置は不明だ。
何故なら、そんな魔石を探している間に毒に汚染される。
だからポイズンウルフを倒す時はその身体全体を押しつぶして倒す。
だからこそ、今までポイズンウルフの魔石の位置は分かっていない。
もし分かった人間がいたとしても、その次の瞬間にはポイズンウルフの毒で死んでいるだろう。
つまりポイズンウルフの魔石を狙うというのは本来ならばあり得ないはずの選択肢だった。
何せ殆ど賭けになる上に、失敗した時の代償が大き過ぎる。
けれども、僕はその魔石の位置を特定できる可能性があった。
それは魔力強化などの技術の延長線上にあるとあるもの。
つまり僕は他人が扱う魔力の動きを悟ることができるという、第六感的な機能。
そう、ダイウルフ達と同じことが僕には出来るようになっている。
けれども、それでも魔石を狙うというのは大きな賭けになるだろうことを僕は悟っていた。
相手がただのポイズンウルフであればまだマシだっただろうが、相手は戦闘能力もずば抜けている。
たとえ魔石が見つかったとしても、僕はそんな相手と戦いながら魔石を砕かなくてはならないのだ。
それは普通なら、あり得ないほどの難易度で……
「でも、僕なら達成できる手段がある、か」
けれども、僕だけが使える神経系の強化ならばその超難易度を成功させることのできる可能性があった。
決して確実に勝てるなどと言うわけでもなく、ただ達成できる可能性のあるだけ。
それが完璧に成功の確率はどれほど低いことか……
けれども、可能性さえあればそれに賭けることに躊躇などいるはずがなかった。
「うぉぉおお!」
「ガルゥゥウ!」
そして次の瞬間、僕とポイズンウルフは雄叫びをあげてぶつかった……
「……後はまかせろ」
それを目にした時、僕は自然とそう口走っていた。
だがダイウルフを捨て身で抑えに行くギルド職員の姿は決して英雄譚の自己犠牲なんかではなかった。
何せ過失が自分にあり、それがなければそもそもこんな危機的状況に陥ることは無かったのだから。
だけども、僕はこんな声ではギルド職員には聞こえないとわかりながら、それでもそう告げていて……
「絶対にお前はここでつぶす」
そしてそれは僕の覚悟の表れだった。
目の前で僕を威嚇してくるポイズンウルフ。
その身体からは興奮しているせいで、毒気が溢れ出している。
それはポイズンウルフの持つ毒を考えれば微弱な効果しかないものであったが、吸い続けていれば僕の身体にかなりの被害をもたらすだろうことを僕は悟っていた。
「あっちがきちんと役目を果たしてくれたんだ。僕が逃げてどうする」
けれども、僕はその毒気を全く気にすることなく前へと踏み込んだ。
たしかにこの場で一番悪いのは状況も考えず、この事態を引き起こしたギルド職員だろう。
けれどもその次に責任があるのは僕だった。
何故なら僕だけがこの事態を予測できていたのだ。
ポイズンウルフの痕跡に気づき、そしてポイズンウルフの存在に対してほぼ確信を持ちながらこの事態を引き起こすことを防げなかったのだ。
しかもその理由は自分に対する自信のなさから発した優柔不断だ。
それはあまりにもお粗末過ぎる理由だった。
そして今、責任を負う一人の人間が命をかけて時間を稼いだ。
だとしたら、もう一人の責任を負う身である僕が、この好機を棒にふるなんて許されるはずがない。
「っ!」
そんな覚悟と共に、僕はポイズンウルフへと足を踏み出した……
◇◆◇
僕の唯一ポイズンウルフを倒せる手段、それは魔石を狙うということだった。
魔石、それは魔獣の核。
機械で言えば、電池と同じような部分で、それを狙うことで魔獣を即死させることができる。
大型の魔獣を相手にする時は最後の手段として魔石を狙うことがある程だ。
ポイズンウルフも、魔石を上手く砕くことができれば毒を放つひまを与えず殺すことができるだろう。
だが、そのセオリーはポイズンウルフには使えない。
何故なら魔石を狙うことができるのは魔石の位置がわかる魔獣だけなのだ。
ポイズンウルフの魔石の位置は不明だ。
何故なら、そんな魔石を探している間に毒に汚染される。
だからポイズンウルフを倒す時はその身体全体を押しつぶして倒す。
だからこそ、今までポイズンウルフの魔石の位置は分かっていない。
もし分かった人間がいたとしても、その次の瞬間にはポイズンウルフの毒で死んでいるだろう。
つまりポイズンウルフの魔石を狙うというのは本来ならばあり得ないはずの選択肢だった。
何せ殆ど賭けになる上に、失敗した時の代償が大き過ぎる。
けれども、僕はその魔石の位置を特定できる可能性があった。
それは魔力強化などの技術の延長線上にあるとあるもの。
つまり僕は他人が扱う魔力の動きを悟ることができるという、第六感的な機能。
そう、ダイウルフ達と同じことが僕には出来るようになっている。
けれども、それでも魔石を狙うというのは大きな賭けになるだろうことを僕は悟っていた。
相手がただのポイズンウルフであればまだマシだっただろうが、相手は戦闘能力もずば抜けている。
たとえ魔石が見つかったとしても、僕はそんな相手と戦いながら魔石を砕かなくてはならないのだ。
それは普通なら、あり得ないほどの難易度で……
「でも、僕なら達成できる手段がある、か」
けれども、僕だけが使える神経系の強化ならばその超難易度を成功させることのできる可能性があった。
決して確実に勝てるなどと言うわけでもなく、ただ達成できる可能性のあるだけ。
それが完璧に成功の確率はどれほど低いことか……
けれども、可能性さえあればそれに賭けることに躊躇などいるはずがなかった。
「うぉぉおお!」
「ガルゥゥウ!」
そして次の瞬間、僕とポイズンウルフは雄叫びをあげてぶつかった……
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2025/06/22
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