異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸

文字の大きさ
41 / 60
1.ギルド編

第40話 蘇る記憶

しおりを挟む
 「っ!」

 あと一歩、そこまで追い詰めたところで届かなかった勝利。
 それに僕は唇を噛みしようとして……

 ……けれども、もうそんなことをする余力さえ身体には残っていなかった。

 視界の端に血だらけな状態でギルド職員が必死に喘いでいるのが見える。
 恐らくギルド職員の様子を見て、ダイウルフ達はもう時間の問題だとそう判断してこちらにきたのだろう。
 実際に今生きているのがおかしなくらいギルド職員は傷だらけで……

 そして僕は彼が必死に時間を稼いでくれていたことを悟った。
 彼は最大限時間を稼いでくれていて……

 ………けれども僕はその稼いでくれた時間をうまく扱うことが出来なかった。

 それがこの状況を引き起こした最大の理由で、だから僕は情けなさを感じながら地面へと倒れこむ。
 もう、僕の身体は力を入れても動こうとはしなかった。
 視界が真っ赤に染まり、頭はもうほとんど働かない。
 それは考えられる限り最悪の状況で……

 「がルルッ」

 ……けれども自分の元へと歩いてくるポイズンウルフの姿を目にしても僕の心は酷く落ち着いていた。 
 何故か僕の頭に今の状況に対する既視感があって……

 「っ!」

 そして動けない身体のその感覚を意識した時、僕の頭に怒涛の如くある情報が流れ込み始めた……






 ◇◆◇


 


 怒涛の如く頭に流れ始めた情報、それは決して未知の情報なんかではなかった。 
 それは僕が体験していたはずの、記憶。
 けれども、僕が忘れ去っていた情報で……

 そしてその記憶の中で僕はある男と共に浮かんでいた。
 そのある男というのは、あの勇者と呼ばれていた人間で……

 ……そしてそのことが分かった時僕は自然と悟った。

 それは僕達が召喚された時、その直前の記憶であることを。
 そのことを悟った僕の目の前で眩しい光が勇者に注ぎ出した。
 それは酷く神秘的な光景で、その時隠しきれない嘲笑の笑みが勇者の顔に浮かんだ。

 そしてその時僕は悟ったのだ。
 自分は選ばれた人間でないことを。
 隣にいる男、その存在に巻き込まれたことを。

 ……なのにその男は選ばれなかったと、僕を嘲ったことを。

 そのことを悟った時、僕は自然と動いていた。

 ーーー そう、勇者へと降り注いだその光を強引に奪ったのだ。

 光は手で掴めるものではない。
 なのに、どうやってかは分からないが僕はその光を奪い取っていて……

 「っは!そういうことか……」

 そしてその光景を見た瞬間、ようやく僕は悟った。

 ーーー 自分が奪った力の本当の使い方を。






 ◇◆◇






 「ガルッ!」

 記憶から戻り、目を開いた僕の目の前には突然目を閉じた僕に対して警戒心を抱いたように唸っているポイズンウルフがいた。
 どうやら、僕が目を閉じた瞬間に警戒心を抱かせるくらいには僕はポイズンウルフに対して苦手意識を抱かせていたらしい。

 「警戒してくれて助かったよ」

 そしてそのことを悟り、僕は自分へと唸るポイズンウルフへと微笑みかけて。

 次の瞬間、身体に鞭を打ってシュライトさんから貰っていたポーションを取り出した。

 「ガルルルッ!」

 その僕の突然の行動に呆気を取られてポイズンウルフが吠える。
 ポーションを取り出せたこと、それはまさに奇跡以外の何物ではないだろう。
 だが、これを自分に振りかける前にポイズンウルフに殺されることを僕は悟っていた。
 ポーションの入った瓶を開けようとした時点で僕は死ぬ。
 その前にポイズンウルフにポーションを弾かれ、殺される。
 けれどもポイズンウルフも下手に傷つければ僕の身体の前に置いているポーションを割り、僕を回復させてしまうことに気づいて動きを止める。

 「よし、いい子だ」

 ーーー そして、そのポイズンウルフの動きに笑って僕はポーションを投げ捨てた。

 「ガッ!?」

 その僕の態度にポイズンウルフは警戒心をさらにあげて僕を見る。
 けれども、そのポーションを投げた動きで力尽きたように僕は脱力する。
 先程の動きで僕は限界を迎えたのだ。
 もう、身体を動かせる自信はない。

 「ガルッ!」

 そしてポイズンウルフはしばらくして僕の状態を悟る。
 それから牙をむき出してる僕へと襲い掛かろうとして……

 「我は、望む、」

 「ガッ!」

 ………そしてようやく、背後に膨らむ強大な魔力に気づいた。

 その魔力の膨らむ方向、それは僕がポーションを投げた方向。
 そう、つまり僕は最初から自分を回復させようとしてポーションを取り出したわけではないのだ。
 僕が狙っていたのは、ぼろぼろになっていたギルド職員を回復させることで……

 ーーー そしてポイズンウルフがそのことに気づいた時、彼が唱える詠唱は、もう最後になっていた。

 先程ボロボロになって死にかけていたギルド職員は、それでも必死に詠唱を続けていたのだ。
 傍目には喘いでいるようにしか見えず、魔術用の魔力さえ練れない状態になってもなお。

 「悪魔への、主の鉄槌を!」

 そしてその命懸けの詠唱が遂に報われる。

 次の瞬間、轟音とともにその場へとギルド職員が命をかけて練り上げた魔術が炸裂した。
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...