異世界巻き込まれ転移譚～無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます～

1.ギルド編

第39話 すり抜けた勝利

 僕へとポイズンウルフが襲いかかってるその光景が酷くスローモーションに見える。
 さらに身体には魔力強化による溢れんばかりの力が溢れていて……

 ……けれどもこれがそれほど長く持たないことをその力に僕は悟った。

 ぼろぼろの身体では魔力を操りきることができず、身体を魔力が傷つける鋭い痛みが時間が緩やかに流れているせいか、普段の何倍もの痛みとなって僕の身体に走る。

 「っ！」

 そしてその痛みによる動揺で、決して失敗することはできないと今まで必死にコントロールしていた神経系の強化していた魔力も暴れ出す。
 じわじわと、毛細血管から血が溢れ目の前が赤くなって行くその痛みを伴う感覚は、湿地でさえ味わったことのない苦痛で……

 ……気づけば、僕の身体から力が抜けだしていた。

 前から完璧にコントロール出来ず漏れ出した魔力とは違い、その力の流出は致命的なものだった。
 何せその力が漏れ出してから、僕は立つことさえ困難になっているのだから。

 そしてそんな僕の状態に空中にその巨体を投げ出したポイズンウルフの顔に勝利の確信が浮かぶ。

 その時になってようやく僕は気づた。
 
 今まで僕は自分の身体の限界を感じながらも、一瞬だけなら限界を超えられるとそう思い込んでいた。
 だが、違ったのだ。

 ……もう既に僕は限界を超え、その状態でポイズンウルフと渡り合っていたのだ。

 それは今の状況ではあまりにも致命的すぎる事実だった。
 もはや身体に力が入らず、立つことさえ困難。
 そんな状態で、今からポイズンウルフの魔石を砕くなど不可能に近くて。

 「っ！」

 けれども、僕はそれでも諦めるつもりなかった。
 身体が限界を超えた、そんなこと湿地で僕は何度も体験した。
 何せ僕は最初はど素人だったのだ。

 ーーー そしてだからこそ、一瞬だけなら身体を無理やり動かすことができる術を知っていた。

 大量の魔力を無理やり身体に回し、暴走させるという。
 それは自爆技、そう言っても過言でもない技だった。
 恐らく湿地ではシュライトさんのポーションがなければ何度でも死んでいたに違いない、そんな攻撃。

 けれども今の僕には躊躇はなかった。

 シュライトさんからのポーションはたしかに今僕は持っている。
 けれどもこれだけの攻撃をした後に、無事に飲めるかどうかの自信さえない。
 それでも僕はなんの躊躇もなく魔力を暴走させた。

 「うぐっ！」

 その瞬間、ぼろぼろな身体に負担がかかり今までの比にならない痛みが僕の身体に走る。
 そしてその痛みに僕は意識を手放しそうになり……

 「うぉぉぉぉぉお！」

 ……けれども僕は決して意識を手放すことはなかった。

 雄叫びをあげ、薄れそうになる意識を保ち、そして僕は剣を前へと突き出す。

「っ！」

 そしてその剣は今まで勝利を確信していたポイズンウルフへと真っ直ぐに突きつけられ、僕は確信する。

 後は自然と、ポイズンウルフがこの剣に自ら刺さりに来てくれると。

 つまり、後はこの剣を固定していれば僕の勝ちは確定することを。
 そしてそのことをポイズンウルフも悟ったのか、空中で身体を捻ろうとするのがわかる。
 けれども、もう間に合うわけがなかった。
 何せポイズンウルフの身体に剣は突き刺さりかけているのだ。
 もう、勝負は決まった。

 ーーー そう僕が勝利を確信したその時だった。

 「ガルルッ！」

 「なっ！」

 僕の死角、そこから突然黒い二つの影が躍り出たのだ。
 さらにその二つの影は僕の剣の位置を逸らして……

 「うそ、だろ……」

 そして僕がその二つの影はダイウルフであることに気づいた時、僕の手の中にあったはずの勝利は消えていた……