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2.王国編
第3話 躊躇の理由
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僕が考えているパラスに魔力操作を覚えさせる方法、それは酷く簡単なことだ。
つまり、僕が分からないなら、わかっている人間に聞けばいいという。
残念ながら、その候補の1人であったエイナは僕と同じような知識しかなく、役には立たなかった。
だが、僕の考えている候補はエイナ1人だけではない。
いや、それどころかぼくはもう1人はエイナは知っていれば御の字であったのに対し、必ずなんらかの打開策をくれるだろうという確信さえ抱いているのだ。
「……シュライトさんに今、会いたくないんだよな」
……けれども残念ながら僕は今、その人間、シュライトさんと会うということに非常に気まずさを感じて二の足を踏んでいた。
その理由、それはもちろんエイナから教えてもらったシュライトさんの性別のことが理由で……
「真実を確かめるのが怖いんだ……」
……でも、決してそれだけではなかった。
シュライトさんの性別が男じゃなかったそのことについては僕は今、疑っていない。
何せ、そのことを聞いた際に蘇ってきたシュライトさんと過ごした日々。
それはそのエイナの言葉を裏付けるのに十分な説得力を有していたのだから。
「辛い……」
……だからこそ、僕はそのシュライトさんの身体の柔らかさの後に浮かんでくる、逞しい肉体の映像に頭を抱えた。
シュライトさんが女性だと確信した後に僕の頭に浮かんできたのは、初めて出会った時に川で見てしまったシュライトさんの全裸だった。
いけない、僕はそう思いきかせてその映像を必死に頭に浮かべないようにしようとした。
けれども、頭は自然とその時の光景を頭に浮かべてきて……
……そして次の瞬間、僕の脳内を埋め尽くしたのはあの日見た逞しい肉体だった。
そこには一切、シュライトさんが女性であることを示す証拠など無かった。
その映像は、思い出し僕が力の限り絶叫してポイズンウルフの毒の後遺症だと思われ、病院に連れ込まれかけた程鮮明。
つまり僕の記憶違いで、その時見たのは女性の身体だったなんてことはあり得ないのだ。
……そして、瑞々しい女性の肉体の代わりに暑苦しい男性の筋肉を見せつけられた僕は絶望の中、あることに思い至った。
確かに僕はシュライトさんに性別を変えたように見せる魔法具があることは知っている。
けれども、それがどれほどの能力を持っているのかなんて僕は知らないのだ。
つまり、魔法具に男女の特徴だけを変える能力しかなくても決しておかしくはない。
……そしてそれは、シュライトさんの素の外見があのむさ苦しいおっさんであることを示している。
それはなんの証拠もなしに、シュライトさんを美人だと信じ込んでいた僕からすればあまりにも辛すぎる現実だった。
「な、なぁ!そんなことないよな!」
だから僕は救いを求めて、真正面にいるエイナへとそう言葉を投げかける。
「………え?」
「……マジで?」
……しかし、次の瞬間僕は悟ることになる。
この世界がどれほど残酷であるのかということを。
「くそぉ!」
「あ、いや、シュライトさんは美人だよ!ほんと!本当だからね!」
「明らかに嘘だろうが!なんだよその念押し!疑わしさ以外感じねえよ!」
僕の魂の叫びに正気に戻ったエイナはそう言葉を重ねるが、しかしその言葉に僕が騙されることはなかった。
……何せそう必死に言葉を重ねるエイナの目は、未だ泳いでいるのだから。
「いや、違……」
「決めた!絶対にシュライトさんのところにはいかない!」
だから僕は、未だなにかを言おうとするエイナの言葉を遮ってそう宣言する。
「……え?本気で?」
そして、その僕の言葉にエイナは呆然と言葉を失う。
当たり前だろう。
何せ今のこの状況は、シュライトさんと合わして欲しいというエイナの言葉から始まっているのだ。
それをこんな理由で断れれば誰でも文句が言いたくなる。
……けれども、今僕はシュライトさんの元に戻るつもりはなかった。
決してシュライトさんの見た目がどうであろうが、僕の持つ尊敬と感謝の念は変わらない。
……けれども、現実という悲劇によってつけられた心の傷は深かった。
そう、せめて今すぐ行くのは勘弁して欲しいと思うほどに。
「ああ!そもそもまだ僕はシュライトさんに返すお金も集められていない!」
そして、まだシュライトさんの元に帰らない理由、それは心の傷だけではなかった。
そう、僕は未だあまりお金を集められていないのだ。
未だ相棒は育成期間中なのだからあまり仕事を取れていないのだ。
そしてだから僕は未だ戻らないと、そうエイナに告げようとして……
「だからあともう少し待って……」
「お、ここにいたか」
「はい?」
しかし、その前に僕へと何者かが声をかけてきた。
そしてその突然のことに僕は驚いた。
何故なら今僕に声をかけてきた人物は本当ならばこんな場所にはあまりいない人物なのだから。
「何ですか?支部長」
顔を上げた僕の目の前、そこには好々爺然として笑いかけてくるこのギルドの支部長が笑いかけていた。
つまり、僕が分からないなら、わかっている人間に聞けばいいという。
残念ながら、その候補の1人であったエイナは僕と同じような知識しかなく、役には立たなかった。
だが、僕の考えている候補はエイナ1人だけではない。
いや、それどころかぼくはもう1人はエイナは知っていれば御の字であったのに対し、必ずなんらかの打開策をくれるだろうという確信さえ抱いているのだ。
「……シュライトさんに今、会いたくないんだよな」
……けれども残念ながら僕は今、その人間、シュライトさんと会うということに非常に気まずさを感じて二の足を踏んでいた。
その理由、それはもちろんエイナから教えてもらったシュライトさんの性別のことが理由で……
「真実を確かめるのが怖いんだ……」
……でも、決してそれだけではなかった。
シュライトさんの性別が男じゃなかったそのことについては僕は今、疑っていない。
何せ、そのことを聞いた際に蘇ってきたシュライトさんと過ごした日々。
それはそのエイナの言葉を裏付けるのに十分な説得力を有していたのだから。
「辛い……」
……だからこそ、僕はそのシュライトさんの身体の柔らかさの後に浮かんでくる、逞しい肉体の映像に頭を抱えた。
シュライトさんが女性だと確信した後に僕の頭に浮かんできたのは、初めて出会った時に川で見てしまったシュライトさんの全裸だった。
いけない、僕はそう思いきかせてその映像を必死に頭に浮かべないようにしようとした。
けれども、頭は自然とその時の光景を頭に浮かべてきて……
……そして次の瞬間、僕の脳内を埋め尽くしたのはあの日見た逞しい肉体だった。
そこには一切、シュライトさんが女性であることを示す証拠など無かった。
その映像は、思い出し僕が力の限り絶叫してポイズンウルフの毒の後遺症だと思われ、病院に連れ込まれかけた程鮮明。
つまり僕の記憶違いで、その時見たのは女性の身体だったなんてことはあり得ないのだ。
……そして、瑞々しい女性の肉体の代わりに暑苦しい男性の筋肉を見せつけられた僕は絶望の中、あることに思い至った。
確かに僕はシュライトさんに性別を変えたように見せる魔法具があることは知っている。
けれども、それがどれほどの能力を持っているのかなんて僕は知らないのだ。
つまり、魔法具に男女の特徴だけを変える能力しかなくても決しておかしくはない。
……そしてそれは、シュライトさんの素の外見があのむさ苦しいおっさんであることを示している。
それはなんの証拠もなしに、シュライトさんを美人だと信じ込んでいた僕からすればあまりにも辛すぎる現実だった。
「な、なぁ!そんなことないよな!」
だから僕は救いを求めて、真正面にいるエイナへとそう言葉を投げかける。
「………え?」
「……マジで?」
……しかし、次の瞬間僕は悟ることになる。
この世界がどれほど残酷であるのかということを。
「くそぉ!」
「あ、いや、シュライトさんは美人だよ!ほんと!本当だからね!」
「明らかに嘘だろうが!なんだよその念押し!疑わしさ以外感じねえよ!」
僕の魂の叫びに正気に戻ったエイナはそう言葉を重ねるが、しかしその言葉に僕が騙されることはなかった。
……何せそう必死に言葉を重ねるエイナの目は、未だ泳いでいるのだから。
「いや、違……」
「決めた!絶対にシュライトさんのところにはいかない!」
だから僕は、未だなにかを言おうとするエイナの言葉を遮ってそう宣言する。
「……え?本気で?」
そして、その僕の言葉にエイナは呆然と言葉を失う。
当たり前だろう。
何せ今のこの状況は、シュライトさんと合わして欲しいというエイナの言葉から始まっているのだ。
それをこんな理由で断れれば誰でも文句が言いたくなる。
……けれども、今僕はシュライトさんの元に戻るつもりはなかった。
決してシュライトさんの見た目がどうであろうが、僕の持つ尊敬と感謝の念は変わらない。
……けれども、現実という悲劇によってつけられた心の傷は深かった。
そう、せめて今すぐ行くのは勘弁して欲しいと思うほどに。
「ああ!そもそもまだ僕はシュライトさんに返すお金も集められていない!」
そして、まだシュライトさんの元に帰らない理由、それは心の傷だけではなかった。
そう、僕は未だあまりお金を集められていないのだ。
未だ相棒は育成期間中なのだからあまり仕事を取れていないのだ。
そしてだから僕は未だ戻らないと、そうエイナに告げようとして……
「だからあともう少し待って……」
「お、ここにいたか」
「はい?」
しかし、その前に僕へと何者かが声をかけてきた。
そしてその突然のことに僕は驚いた。
何故なら今僕に声をかけてきた人物は本当ならばこんな場所にはあまりいない人物なのだから。
「何ですか?支部長」
顔を上げた僕の目の前、そこには好々爺然として笑いかけてくるこのギルドの支部長が笑いかけていた。
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