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婚約者オフィーリア
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公爵令嬢・マーガレットは学園卒業と共に国を出た。
第二皇子妃としての教育を受けて、そのまま婚姻となる。
見送りに出向いたオフィーリアの手を温かな両の手で包みながら、「オフィーリア、殿下をお願いしますね。」とマーガレットは云った。
内々で王太子妃と内定していたであろうマーガレット。
敬愛するマーガレット。
自分に王太子妃など、と不安に曇らせるオフィーリアの深翠の瞳を、マーガレットの蒼い瞳が真っすぐに見つめる。
王太子と同じ色の瞳に、まるで王太子に見つめられているような錯覚を覚えながらも、一人旅立つマーガレットの心中を思えば頷くしかない。
「マーガレット様、どうか、どうかお幸せに」
言葉に詰まりながら伝えたオフィーリアに
「ええ、勿論ですとも」と、マーガレットは美しく微笑んだ。
胸が苦しくなる。
本来ならばマーガレットこそが殿下に寄り添い支え得る人なのだ。
王太子妃に立つなど思いもしていなかったオフィーリアは、王太子妃としての未来も王妃としての己も全く思い浮かべられなかった。
********
婚約候補であった時には月に一度の王太子との会合は、婚約者となってからは週に一度と相成った。
元より聞き役ばかりで、話を振られれば応える程度であったオフィーリアにとって、王太子と二人きりの茶会は覚悟を要した。
それまで自邸にて行われた妃教育は、その場を王城へと移されて、学園が休みの日に登城する。
教育が終わると、その後に王太子との会合となる。
応接室にて香り豊かな紅茶で饗され、王太子の訪れを些か緊張の心持ちで待つ。
王太子・アンドリューとは、もう一年以上の付き合いとなる。
今更、初顔合わせと云うわけではないのだが、二人きりなのは初めてである。
「待たせたね」
穏やかな声色で、約束の刻限より10分ばかり遅れたアンドリューが訪れた。
「はぁ~、疲れた疲れた。君も学園の休みの日まで教育とはお疲れ様だね。」
気さくな物言いも粗野に感じさせず、気のおけない柔らかさな雰囲気を覚えさせるのは流石は王太子である。
多忙は王太子の方であろう。
彼の時間を奪っているような後ろめたさを感じるのは仕方のない事だろう。
「失礼」という一声と共に徐ろに隣に椅子を置いたアンドリューに、オフィーリアは声を出すことが出来なかった。
ガタンと小さな音が立って、椅子に座したかと思うと、よっこらしょとばかりにオフィーリアの太腿に頭が乗る。
あっ、と思わず小さく声が漏れると同時に、「殿下!」という、囁くような、それでいて窘めの強さを持つ侍従の声が重なる。
頭をオフィーリアの腿の上に、身体は隣に並べた椅子に乗せて、所謂「膝枕」である。
驚き戸惑うオフィーリアにアンドリューは
「少し眠らせてもらうよ。半刻したら起こしてしれないか。ああ、君も楽にして休んで。」と宣った。
第二皇子妃としての教育を受けて、そのまま婚姻となる。
見送りに出向いたオフィーリアの手を温かな両の手で包みながら、「オフィーリア、殿下をお願いしますね。」とマーガレットは云った。
内々で王太子妃と内定していたであろうマーガレット。
敬愛するマーガレット。
自分に王太子妃など、と不安に曇らせるオフィーリアの深翠の瞳を、マーガレットの蒼い瞳が真っすぐに見つめる。
王太子と同じ色の瞳に、まるで王太子に見つめられているような錯覚を覚えながらも、一人旅立つマーガレットの心中を思えば頷くしかない。
「マーガレット様、どうか、どうかお幸せに」
言葉に詰まりながら伝えたオフィーリアに
「ええ、勿論ですとも」と、マーガレットは美しく微笑んだ。
胸が苦しくなる。
本来ならばマーガレットこそが殿下に寄り添い支え得る人なのだ。
王太子妃に立つなど思いもしていなかったオフィーリアは、王太子妃としての未来も王妃としての己も全く思い浮かべられなかった。
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婚約候補であった時には月に一度の王太子との会合は、婚約者となってからは週に一度と相成った。
元より聞き役ばかりで、話を振られれば応える程度であったオフィーリアにとって、王太子と二人きりの茶会は覚悟を要した。
それまで自邸にて行われた妃教育は、その場を王城へと移されて、学園が休みの日に登城する。
教育が終わると、その後に王太子との会合となる。
応接室にて香り豊かな紅茶で饗され、王太子の訪れを些か緊張の心持ちで待つ。
王太子・アンドリューとは、もう一年以上の付き合いとなる。
今更、初顔合わせと云うわけではないのだが、二人きりなのは初めてである。
「待たせたね」
穏やかな声色で、約束の刻限より10分ばかり遅れたアンドリューが訪れた。
「はぁ~、疲れた疲れた。君も学園の休みの日まで教育とはお疲れ様だね。」
気さくな物言いも粗野に感じさせず、気のおけない柔らかさな雰囲気を覚えさせるのは流石は王太子である。
多忙は王太子の方であろう。
彼の時間を奪っているような後ろめたさを感じるのは仕方のない事だろう。
「失礼」という一声と共に徐ろに隣に椅子を置いたアンドリューに、オフィーリアは声を出すことが出来なかった。
ガタンと小さな音が立って、椅子に座したかと思うと、よっこらしょとばかりにオフィーリアの太腿に頭が乗る。
あっ、と思わず小さく声が漏れると同時に、「殿下!」という、囁くような、それでいて窘めの強さを持つ侍従の声が重なる。
頭をオフィーリアの腿の上に、身体は隣に並べた椅子に乗せて、所謂「膝枕」である。
驚き戸惑うオフィーリアにアンドリューは
「少し眠らせてもらうよ。半刻したら起こしてしれないか。ああ、君も楽にして休んで。」と宣った。
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