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しおりを挟むテレーゼが成人を迎えた日、盛大な誕生パーティが開かれた。
けれども、ちょうど遠征に出ていて、マクシミリアンは城にはいなかったのだ。
(誕生日の約束があったけれど、仕方がない……)
主役だというのに会場を抜け出し、城の中庭にある花園で甘い香りを堪能していると、茂みがガサリとなった。
期待して後ろを振り向いたが、立っていたのは皇太子の長男ベルナルドだった。王家の血を引くことが一目で分かる金髪碧眼の少年だ。
「テレーゼ姫、マクシム様は貴方のところに絶対来ると話していたよ。だから安心して」
「ベルナルド様、ありがとうございます」
しばらく二人で談笑した。
その時、向こうで枝がパキリと鳴る音がして、テレーゼは目を凝らす。
(マクシム様?)
けれども、そこには誰もいなかったのだ。
(もう私も大人になったのだし、マクシム様にご迷惑をかけてばかりではダメね。ちょうど彼から卒業する良い機会だったかもしれない)
成人を境に初恋を諦めようとしたテレーゼだったけれど、事態は思わぬ方向に進んだ。
※※※
だけど、成人して数日後のある日、まさかマクシミリアンの方からテレーゼの前に現れた。
ちょうど淡いローズピンクのコスモスの世話をしていた時だ。
「テレーゼ、話がある」
「なんでしょうか?」
彼がコスモスの花を一輪とり、彼女の髪に挿してきた。
距離が近くて、彼女はごくりと唾を飲み込んだ。
マクシミリアンが蒼い瞳を向けてくる。
まるで宝石のように美しい瞳。いつもは穏やかで飄々とさえしている彼の瞳には、王城で迎えに来てくれた時のように真摯な光が宿っていた。
騎士団の制服をまとった彼が跪くと、テレーゼのライラック色のチュールのドレスがひらりと揺れる。
小さな手を取り、マクシミリアンが口づけを落とした。
「一回りも年上の俺だが、どうか結婚して欲しい」
「え?」
気づけば、左手の薬指にはサファイアの指輪が飾られていた。
鼓動が鳴りやまない。
思いもかけない、想い人からの申し出。
出会って以来、彼のことが好きだった。
妻にと望まれて嫌なはずはなくて――。
だけど――先日、テレーゼとは結婚しないと主張していたマクシミリアンのことが脳裏をよぎった。
「マクシム様は……それで本当に良いんですか?」
緊張した面持ちでテレーゼは返した。
マクシミリアンがいつもの柔和な笑みを浮かべる。
「ああ。先日は覚悟が決まらず、すまなかった。どうか俺と結婚してくれないか?」
ふわりと心の中に温かな光が灯ったような気がした。
「はい、喜んで……!」
そうして、テレーゼは初恋の相手と結婚することが決まったのだった。
初秋だったけれど、胸の中はまるで春の木漏れ日に照らされたかのように幸せだった。
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