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 ――サラを選ぶから、セイラ、君とは離縁だ。

(自分から離縁だと言ったのに、怖い――)

 エドガーにそう言われると思っていたのに――。

「――愛する妻に嘘を吹き込んで不快にさせる女は解雇にするよ」

 私は予想外の返答に目を見開いた。

「エドガー様、そんな……!」

(え……嘘……?)

「サラ、お前は俺と身体の関係があるように振舞ったそうだな。仕事は確かにそれなりにこなしてくれているが、俺は、俺の愛する人を傷つける存在をそばに置いておくことは出来ない。荷物を片付けて出て行ってくれ――」

 目の前のサラは、わなわなと震えている。

(エドガーは不貞は働いていなかった――)

 彼の菫色の瞳は、嘘は確かについてはいないような気がした。
 だけど、頑なになっていた私は、素直に喜ぶことが出来ない。
 サラが何かわめき散らした。

「でも、皆が噂するように、その女と結婚したのは爵位目当てなのでしょう!?」

 激高した彼女を尻目に、俯いていたままの私の顎をエドガーの長い指が掴んでくる。
 顔を彼の方に向けさせられた、その時――。

「ん……」

 彼の唇が、私の唇を覆った。
 そして、彼の舌が、私の唇を割って入り込んでくる。
 深く差し入れられた粘膜が、私の口の中の粘膜を這う。
 舌が歯列をなぞってきて、ぞくぞくとした感覚が背筋を這いあがってきた。
 
(いつもなら、重なるだけの口づけしかされないのに――)
 
 しばらく、くちゅくちゅとした水音が室内に響き渡った。
 唇が離れる時、舌同士が絡み合ったことが分かる銀糸が伸びて、恥ずかしくなる。
 そうして、サラに向かってエドガーが告げた。

「周りが何と言っているのかは知らないが――俺は、学生時代に、心優しいセイラと出会って以来――他の女性に目を向けたことなど一度だってない」

 彼から聞く初めての言葉に、私の胸に風が吹き抜けたような錯覚を覚える。
 火が灯ったように、心が温かくなっていく。
 サラは悔しそうに地団太を踏むと、部屋の外に出ていったのだった。


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