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『紺色のドレスを纏った貴婦人』
しおりを挟むとある別荘地にある屋敷。
この屋敷の主人が画商に持ち込まれた絵を見ていた。
絵には紺色のドレスを着た貴婦人が重たいドレスの裾をたくし上げられ今まさに何かを埋め込まれようとする寸前のような様が描かれ、貴婦人は薄く唇を開いて目を見開いている。
震えた唇から出るのは恋しい男の名か、それとも自分を引き裂く物への恐怖の叫びか。
屋敷の主人は髭を撫でて絵を堪能する。
しばし眺め満足した後、画商に断りを入れた。
「結構な品だが、私はもっと直接的な絵が好きでね。
この画家がもっと刺激的な絵を描いた際にはぜひ買わせてほしいが」
部屋に飾られている絵たちを見回して画商に伝える。
壁に飾られた絵には肌を晒した貴婦人が男の物を咥えこむ姿や待ちきれないと尻を突き上げている姿が描かれている。
机に置かれた彫刻は食い込む縄に悶えるメイドの姿。
主人の趣向をわかりやすく伝える品々だった。
好みに合わず残念ですと答える画商へ主人が提案をする。
「良かったら、次の客を紹介しよう。
私と違って想像の余地のある絵が好きだから、この絵も気に入ってくれるかもしれん」
「ありがとうございます。
すでにお声がけいただいている方がお先にはなりますが、その後にぜひ伺わせていただきたいと存じます」
画商の答えに主人は頷く。
いくつかの商談をした後、画商を使用人に見送らせた。
◆◆◆
「しかし彼の方も残酷なことをなさる。
すでに地まで落ちた『彼女』の名誉をこんな手段を用いてさらに貶めるとは」
あの紺色のドレスは遠目から主人も見たことがあった。
新年を祝う国王主催の夜会で『彼女』が身に着けていたものと同じ色。
実際の『彼女』は髪に白い花を挿していて、絵とは似つかない清廉さだった。
現実とは少しだけ変え、しかしわかる者にはわかるモチーフを入れる。
それだけで『彼女』を知る者、貴族たちには誰の絵かわかるようにしてある。
意図は明白だ。『彼女』を貶め、苦しめること。
あの絵が出回り噂になれば、もう社交界には出てこれない。
一生領地で飼い殺しにされるか、修道院にでも行くしかないだろう。
あるいは生き恥を晒すことに耐えられず自死を選ぶか。
若さに見合わない良い趣味をお持ちだと喉で笑う。
次にあの絵が持ち込まれるのは誰のところだろうか、引き込まれる良い絵だった。
知り合いが手に入れたらもう一度見せてもらおうかと考える主人は、確かにあの絵に魅せられていた。
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