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【7】エイジャー・ヘルムス。魔道師カムラと直接対決。カムラ、光力(ビームパワー)に驚く。

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元女神の妹から「光の力は神の力」と急に言われても!

略して『もといも』です。

     東岡忠良(あずまおか・ただよし)

【7】エイジャー・ヘルムス。魔道師カムラと直接対決。カムラ、光力(ビームパワー)に驚く。

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──1──

「アユット! どうしたの!」
 とドラゴン姿のアユットの足元に立っていたイーナが言った。巨大なドラゴンの身体がピクリとも動かない。
「どうなってんだ? 口と目しか動かせねえ! ヤベエ~、このままじゃ!」
 と焦るアユット。
 するとイーナの頭の中に声が聞こえた。
 ──イーナ。イーナ。聞こえるか?
「えっ? この声はお兄様」
 と辺りを見回すが、エイジャーの姿はない。
「えっ? どういうこと? まさか、お兄様が死んだ……」
 と言うと、
 ──死んではいない。足元を見てくれ。 
 との声を聞き、下を向くと、
「これはお兄様の光の線」
 と微笑んだ。
 ──イーナ。光力(ビームパワー)というのは凄いな。離れていても繋げれば、こうやって話せるのだからな。
 すると、
「お教えしたことをきちんとマスターされていますね。さすがはお兄様ですわ」
 ──褒め過ぎだよ。
「ではこれを応用した良いことを教えて差し上げますわ」
 ──良いこと?
「はい。今は細い光の線一本ですから、私の出した声しか聞こえないんですけど」
 ──うん。
「何十も渦巻きのようにすると、相手の思考レベルまで感じることが出来ますわ」
 ──そうなのか!
「ただし! お兄様、相手が光力(ビームパワー)の渦巻きの範囲を外れてしまったら、聞こえなくなります。それと!」
 ──なんだい。
「私を含めた女性らにはやらないように。プライベートは侵害しないで下さいね」
 とわざと怒ったふりをすると、
 ──ああ。分かった注意する。それよりもアユットの様子はどうだ?
「そうでした! アユットが突然、動けなくなったの。目と口はかろうじて動くらしいんだけど、身体は全く動かないんです」
 ──そうか。実はこの盗賊のリーダーは、伝説にもなっている魔王を倒した勇者一行の一人。魔道師カムラだったようだ。それも本物のようだ。
「本物の魔道師カムラですって!」
 ──そうだ。だから今から僕は、カムラとその部下の盗賊達と闘う。
「闘うったって、お兄様はお一人でしょう? 無茶です!」
 ──成功するかどうかは分からないが、カムラがアユットにかけている停止の術を今から無効にする。そうしたらアユットは人の姿に戻って、全員でどこかに身を潜めてくれ」
「お兄様、それは危険過ぎます! ここは一旦お引きになって、騎士団と軍の方々が来るまで待ちましょう」
 ──イーナ。それはダメだ。
「なぜですの?」
 ──相手は百戦錬磨の魔道師カムラだ。時間の猶予を与えたら、逃げるか戦いに備えるに違いない。
「でもお兄様!」
 ──何とかやってみる。かなりの強敵な上に、カムラは盗賊らから魔力(マジックパワー)を強制的に奪って使用しているようだ。
「それはますます危険ですわ!」
 ──何とかする。僕に考えがある。もう、時間がない。カムラは次はアユットを攻撃する呪文を唱え始めた。いいか。イーナとマザリーでアユットの前に防御壁(バリア)を張ってくれ。その後は必ず逃げて隠れるんだ。じゃあ、連絡を終わる。
 とブツリと切れた。足元を見ると、さっきまであったエイジャーからの光の線が消えていた。
「お兄様。無茶はしないで下さいね」
 とイーナは呟いた。
「イーナ。さっきから独り言を言っていたけど、それって離れている兄さんと話していたの?」
「はい。今から相手はアユットに向かって攻撃をするそうです。私もやりますから、お姉様も防御壁をお願いします」
 と言うと、
「なら私も手伝おう。身なりは騎士だが、これでも魔法は得意なんでね」
 とビース・ケール治安維持隊長が言った。
 すると、
「ヤベエよ! 砦方向に魔力が集まっている! 大掛かりなファイヤーを撃つ気だ!」
 と焦るアユット。
「いいですか。今からアユットを三重の防御壁(バリア)で守ります。私が防御壁を張りますから、大きさに合わせて下さい。前方にはお姉様が! 後方にはケールさんが防御壁をお願いします!」
 分かったわ!
 分かった!
 との声に「いきます!」とイーナはアユットの少し前に防御壁(バリア)を張った。
「今です!」
 と言うと、マザリーもケール隊長も完璧とも言える防御壁を前後に魔力で作り上げた。
「ケール隊長さん、上手いです!」
 と思わずイーナは感心した。
「どうしてそんなに上手いんですか? これだけ出来るなら騎士よりも、魔法使いの方が向いているんじゃないですか? あ! いや、ごめんなさい。別に騎士がダメって訳じゃないんですけど……」
 とイーナは純粋に驚きを隠せないでいた。
「家は代々、騎士の家系でね。私はどちらかと言うと、魔法使いの方に適性があったんだよ。実際、魔力(マジックパワー)は一五〇くらいはあるしね。学校では……」
 とケール隊長が話している時に、巨大なファイヤーが発射された。

──2──

「来るわよ!」
 とマザリーが叫んだ。
 巨大な球体の炎がマザリーの防御壁(バリア)に直撃する。
「学校では魔法学が得意だったし、先生からも魔魔法使いになるように勧められたよ!」
 と言うケール隊長の声をかき消すかのように、巨大なファイヤーはマザリーの防御壁(バリア)を突破した。
「ああ……。突破されたわ……」
「威力はかなり弱まっています。さすがはお姉様です」
 そして威力を弱まったものの、魔道師カムラのファイヤーはイーナの防御壁(バリア)に到達した。
「何とか防いで見せますわ」
 とイーナは言ったが、これだけ大きな光力(ビームパワー)の防御壁(バリア)は、光力七五では作れず、魔力(マジックパワー)による防御壁であった。
 マザリーの防御壁でかなり威力がなくなったとはいえ、敵のファイヤーはイーナの防御壁をもついに突破した。
「ウソだろ! 何て威力だ! それにまだ身体が動かねえ!」
 とアユット。
「何とか持ち堪(こた)えてみせる!」
 とケール隊長は気合を入れた。
 すると、防御壁が分厚くなり、二つに別れた。
「凄いわ。ケール隊長さんは、そんなことも出来るんですね!」
 とマザリーは感心した。
 二重になったケール隊長の防御壁は、一枚目は突破されたが、二枚目の八割を侵食されはしたが、何とかアユットを守った。
「ふえ~。生きた心地がしないぜえ~」
 と言いながら、腕を胸に当てた。
「おっ! 動けるぞ! 身体が動く!」
 と嬉しそうである。
「アユット、動けるのね。さあ、すぐに人の姿になって隠れるのよ!」
 とイーナ。
「え! 隠れるのかよ? このあたいが人間相手に? 冗談、よせよ! カムラか何だか知らねえが、停止の術なんかかけやがって、頭、きた! すぐにぶっ殺してやる!」
 とアユットの怒りが収まらない。
「殺しちゃダメなのよ! 降伏させるのよ!」
「え~でもさあ~」
 と言っている間に、二発目のファイヤーが飛んできて、アユットは腰を屈めて何とか避けた。
「ひええ~。あんなの食らったら、死にはしないけど火傷しちまうぜ」
「だから早く人の姿になりなさい! あなたにも最後は活躍してもらわないといけないんだから!」
「チェ! 分かったよ。仕方ねえな」
 とアユットは、人型の美しい顔と胸と腰の豊かなスタイルになった。
「さあ。皆さん、こっちです!」
 とイーナは森の奥を目指した。
「お兄様。後は頼みます」
 と三人を引き連れたイーナは呟いた。
 
──3──

「貴様。どうやって私の『行動停止(アクションストップ)』を解読して無効にしたのだ……」
 と隅の方から現れた若者に魔道師カムラは言った。
「さあ。どうやったんですかね?」
 とエイジャーはとぼける。
「まあ、よい。私の恐ろしさを全く分かっておらんようだな。魔王にも遅れを取らなかった私の術の数々を受けるがよい」
 と数十人の賊らもエイジャーを睨む。その連中の真ん中に、黒いベールに黒いマントに捻じれうねった杖を高々と上げた。
「若いの。挨拶代わりだ。ファイヤー!」
 と言うと、エイジャーに向かって人間を焼き尽くすには十分な炎の球体が飛んできた。
 だがエイジャーは素早く光力(ビームパワー)を使って防御壁(バリア)を張り、防いだ。
「ほお。なかなかやるのう。ではこれはどうかな?」
 と皺だらけの腕が、エイジャーを指差すと、そこから水色の光が出た。
 それをエイジャーは、
「ファイヤー!」
 と叫んで水色の光を防いだ。
「一瞬で何でも凍らせる『冷凍(フリーザ)』を、高温の炎で相殺するとはなかなかやるな。ではこれでどうだ」
 と捻れた杖を高々と頭上に上げると、巨大な人食いワシのモンスター『イーグルイーグル』が飛んできたが、
「巨大『円盤光輪』!」
 と言いながら、右腕から『イーグルイーグル』とほぼ同じ大きさの光の円盤を作り出した。
 それを投げると『イーグルイーグル』は頭から首そして胴体が真っ二つになって、地上に落ちた。血は一滴も出なかった。
「あ、あれでさあ~。あれで親方の首をヤツは切ったんでさあ~」
 と最初にエイジャー達を襲った生き残りの男が、魔道師カムラにしがみつきながら震えている。
「何だ、あれは? あんな術はこの私も知らん。見たことも聞いたこともないぞ! どういうことだ……」
 と焦りを隠せないでいる。
 エイジャーは、
「魔王から人々を救った英雄の一人、魔道師カムラ様。どうか、このような悪行はおやめになり、騎士団へ自首して下さい」
 と訴えた。だが、
「笑わすな、若造。この私、魔道師カムラに意見するとは百年早いわ」
 と鼻で笑う。周りにいる盗賊達も笑いながら、
 こいつ、カムラ様に何を言い出すんだ!
 こいつ、バカか!
 ちょっと上手く術を避けたからって、調子に乗ってやがるんですよ!
 と盗賊達は口々にエイジャーを罵った。
「私は負けん。そうだ! あの日から絶対に負ける訳にはいかんのだ!」
 と目を見開きながら、過去のことを思い出した。

 魔道師カムラが若かりし頃、魔王を倒した勇者一行は国に凱旋を果たした。
 市民らは大いに盛り上がり、勇者一行を大いに歓迎した。
 だが、歓迎したのは市民らだけで、国王や大臣等はそれを面白く感じていなかった。
 褒美として多額の金品を渡さなければならないし、最低でもどこか主要な都市を治めさせる地位を与えなければならない。
 いや、それよりも彼らの力は魔王以上ということは証明されている。下手に都市でも治めさせたら、いつ謀反を起こすかしれないとも、大臣らは国王に訴えたのである。
 四人はまずはそれぞれ地方の自治を任すという名目で、離れ離れになった。
 人の良い勇者は道中で猛毒を盛られた食事を食べさせられた。だが治癒能力で復活しようとしたが、そこを数人に襲われ殺された。
 戦士は道中で崖から馬車ごと落とされた。何とか生きて這い出たところを、無数の矢を射られ死亡した。
 史上最も美しい神官と呼ばれたマイは城に残った。理由は国王の妾になるようにしつこく言われ、そして家族の命を奪うと脅され続けていた。
 用心深い魔道師カムラは道中、彼らのただならぬ様子と殺気に気づき、猛毒の食事を食べたふりをして、わざと苦しみ倒れた。
 襲いかかってきた護衛のための兵士らを瞬時に魔法で捕えて理由を聞き出した。
 国王直々の命令により、マイ以外の勇者一行は殺せ。
 とのことだった。
「マイは! なぜ、マイだけは殺さないのだ!」
 と尋ねると、
「マイ様はお美しい。なので国王様はマイ様を妾か側室にするそうだ」
 と答えた。
 勇者一行は四人とも貧しい村の出身だった。苦しい生活を強いられながらも、ただ純粋に人々の生活を守りたいがために、勇者はパーティーを作り、カムラはその志(こころざし)に大いに同調して参加し、苦難の旅をして魔王を倒したのだった。
 その中でも特に純粋だったのは、神官マイだった。
「何でもきちんとしましょう!」
 と言うのが口癖で、カムラ達も何度か叱られたが、それも心地よかったのである。
 月夜にカムラは高度な飛行術を使って、急いで国王のいる城に戻ると、城の二番目に高い塔にマイが立っていた。
「マイ! そこで何をしているんだ!」
 とカムラが話しかけると、
「……カムラ。私、もう処女じゃなくなったわ……」
「え……」
「国王様と一夜を共にしないなら、父母兄弟を殺すと言われて……」
 と無気力に笑った。
「そんな……」
 神官は異性と交わると、しばらくは能力が低下またはなくなるのである。
「私……。国王様に言われたわ……。とてもいい女だって……。でもね……」
 とカムラを見つめる瞳から、涙が溢(こぼ)れ、
「私は……。カムラ。あなたの妻になりたかった……」  
 と言うと、
「ごめんね、カムラ……」
 と静かに言うと、塔から落ちて行き、地面から大きな音がして動かなくなった。
 この後、怒り狂ったカムラは、集団の魔力(マジックパワー)を集めて、自分の力に出来る『集積(しゅうせき)の杖』を国庫から奪い、国民にこの事実を伝えて、市民らからの魔力(マジックパワー)を集めた。
「ファイヤー!」
 と叫んだ攻撃先は国王や大臣らが集まった城だった。
 城は一瞬のうちに溶けて蒸発し、国王を失ったその国は、他国に奪われ地図から消えた。

──4──

「お前のような若造に何が分かる……。この一生の苦しみを貴様などに分かられてたまるか……」
 と言うと、
「『落雷(サンダー)』!」
 と叫んだ。
 太い稲妻がエイジャーの頭上に落ちようとしたが、逆に空へ飛び上がり、右手を立て、右手首に左手を添えると、銀色の光線が飛び出し、それを受けた雷が消えた。
「な! なぜだ! なぜ、私が仕掛けようとした術が分かるのだ!」
 と空中に浮いているエイジャーに向かって言った。
「それは、あなたの思考を、考えを読んでいたからです」
「考えを、読む、だと?」
「これを見て下さい」
 とエイジャーは自分の右足を指差した。
 何だ、あれは?
 銀色の光が地面にまで続いているぞ!
 と盗賊達は口々に言う。
「この銀の光は、カムラ様。あなたの足元で渦になっていますでしょう」
 と言うと、
「なに? はっ! いつの間に!」
 とよく見ると、砂の下に銀色の光が渦を巻いていた。
「この光は上に立っている人と会話ができます。そしてそのように渦を巻けば、その人の思っていること。考えが分かるのです」
 と言いながら、ゆっくりと地上に下りていき、銀の光の渦を消した。
「覗く気はなかったのですが、あなたの心から勇者パーティー一行の最後を知ってしまいました……。マイさんは、本当にお気の毒としか……」
 と悲しい顔をした。
「マイの名前は歴史書には記されておらん! 控えめなマイは名前を残さないことを希望していた。ただ『真面目な神官』としか載っていないはずなのに、なぜ名前を!」
 とカムラは目を見開いた。
「これが僕が最近、目覚めた力なのです。それにカムラ様、あなたは高齢のためにほとんど、その場から動かなかった。この力は動く相手の考えは察知できません」
「貴様……。なぜ、手の内を明かす……」
「僕は子供の頃、カムラ樣の勇者パーティーの話を本で読みました……。素晴らしい正義の心と、高い志(こころざし)と、奇想天外な冒険譚にワクワクした記憶があります」
「ほお。でその本の最後はどうなっておる?」
 とカムラ。
 エイジャーは、
「全員、故郷(ふるさと)に帰り幸せに暮らした、とありました……」
 と静かに言った。
「……そうか」
 と言うと、
「お前さんはこの私の最後の強敵に相応しい。いざ、勝負じゃ!」
 と『集積(しゅうせき)の杖』を高々と上げた。
 すると、エイジャーは右手を立てて、左手を右手首に添える銀色の光を放った。先程『落雷(サンダー)』を無効化したその光はカムラが掲げた『集積(しゅうせき)の杖』を直撃し燃やした。
「くっ、くそ!」
 と黒焦げになった『集積(しゅうせき)の杖』をカムラは捨てた。
 カムラ樣の杖が!
 カムラ様はもう、わしらの魔力(マジックパワー)は使えない!
 と盗賊達が言う。
 周りの雰囲気は完全にエイジャーの勝ちだった。その証拠に盗賊の中には逃げ出す者も出だした。
 魔道師カムラは最後を悟ったのか、エイジャーを睨みながら言った。
「カムラ様。そしてここにいる者達。今、降伏するなら命までは取らないように、ケール隊長に僕からお願いしてみます。だから降伏して下さい!」
 と強く訴えたが、
「バカを言うな。戦いはこれからだ。この私のとっておきの技を見せてやろう!」
 と腕を組むと素早くそれを解いて、右手で十字を切り、
「『死神の道(リーパーロード)』!」
 と叫んだ。
 それは自分の命を使って、相手の命を奪う現在では禁断の魔術だった。
 つまり同士討ちであった。

「あっ! この感覚は……」
 とイーナは精神を集中した。
「私も感じる……。これ、今まで一度も感じたことのない、何と言うか強力な魔術だわ……」
 とマザリー。
「この感覚は一度経験がある。そうだ! 『死神の道(リーパーロード)』だ! すべての魔力(マジックパワー)を持つ者に影響を与える禁断の術だ! 魔道師カムラめ。エイジャー様と差し違えて死ぬ気か」
 とケール隊長は焦りを隠せない。
「おいおい。助けに行った方がいいんじゃねえか!」
 とアユット。
「このままだと、お兄様が死んでしまう! お兄様を生き返らせるほどの神力(ゴッドパワー)は残っているかしら?」
 とイーナは慌てて、何もない空間に縦長長方形を切った。そこにイーナ自身の能力値(ステータス)が表示される。
「人間の命の復活には、最低九〇〇は必要だわ。でもこれじゃ足らない。みんなの神力を集めても足らないわ」
 とイーナは身体を震えさせる。
「エイジャーお兄様が死んじゃう。お兄様が!」
 と慌てるイーナを、マザリーが優しく抱きしめた。
「大丈夫……。きっと大丈夫……。お兄様は死なないわ……。イーナ……」
「お姉様……」
 とイーナはマザリーの胸の中でも泣き止まなかった。

 カムラはほとんどの攻撃を『集積(しゅうせき)の杖』で行なっていたために、最後の自分の魔力の全てを、『死神の道』一点にかけてきたのだった。
「どうする? エイジャー。よく考えろ。考えるんだ!」
『死神の道』は防御も中和する呪文はない。
 実際、魔王を倒した最後の方法はこの『死神の道』だと言われているほどだが、『死神の道』は単独で一八〇もの魔力(マジックパワー)を必要とする。
 つまり魔道師に取っては、本当に最後の魔術なのであった。
「『死神の道』は学校でも詳しくは習っていないし、禁断であるために書かれているのは極秘の書物だけで閲覧できないものだ。どうする!」
 エイジャーは決断した。右手を高々と上げて、空に向かって光力(ビームパワー)を発した。その光は渦巻いて雲を突き抜けて上空に消えた。
「死ねい! 小僧! 『死神の道(リーパーロード)』!」
 と叫ぶと、ただでさえ老いのために痩せていたカムラの頬から赤みが消え、服から出ている指が一気に骨と皮になった。
 すると、
「うっ! くっ苦しい!」
 とエイジャーは心臓を抑えた。立っておられなくなり、膝から崩れるように倒れると、目は開けたままに絶命した。
「ふふっ。成功だ。小僧……。最後にお前の名前が聞きたかったよ……」
 とカムラも自分の身体を支えられずに倒れ込んだ。
 すると、空から再び銀色の光が落ちてきたかと思うと、雲を突き抜けた瞬間に虹色の光に変わった。
「まさか……。あの光は……。神力(ゴッドパワー)だと……。つまり、ヤツの銀の光は魔力(マジックパワー)だけでなく、神力(ゴッドパワー)にも変換できるのか……!」
 と言うと同時に、虹色の光はエイジャーを包みこんだ。
「さすがは最強の魔道師と言われたカムラ様だ。さすがですね」
 とエイジャーはゆっくりと立ち上がった。
 すべての魔力(マジックパワー)と生力を奪われたのか、カムラはもう視線すらエイジャーに向けることはできなかった。
「一体、どうなっている? どういうことだ? ……そうか……。神は私よりも、お前さんを選んだということか……」
 と弱々しく言うと、
「それは違います。僕はただ、光力(ビームパワー)を上空に飛ばして、十数えたくらいに、神力(ゴッドパワー)の蘇生の光になって戻ってくるようにしただけです。ただ、すべてが初めてだったので、これほど上手くいくとは思いませんでしたが……」
 とエイジャーは語った。
「……そうか……。お前の工夫だったのか……。負けた……。完敗だ……」
 と言うと、
「……最後に名前を……知りたい……」
 と『最強の魔道師』『滅ぼしの魔法使い』と言われた大魔道師カムラは小声で言った。
「僕の名前はエイジャー・ヘルムス」
 と倒れたカムラの老いと術で痩せ細った軽い身体を、エイジャーは抱き抱(かか)えた。
「エイジャーか……。我、生涯で最強の相手であったわ……」
 と言い残して、息を引き取った。
 すると、
 貴様、よくもカムラ様を!
 ただじゃおかねえ!
 とエイジャーを取り囲んだが、
「あれを見ろ!」
 と空を指差すと、レッドドラゴンになったアユットの両腕にはマザリーとケール隊長が乗っており、イーナは光力(ビームパワー)で横に飛んでいた。
 実はエイジャーは生き返った瞬間に、イーナと連絡を取り、魔道師カムラが死んだことを伝え、盗賊達を降伏させるように言っていたのである。
 ドラゴンの巨体を地上に下ろしたアユットは、砦の無人の建物を踏んで壊した。そして同時にマザリーとケール隊長を降ろした。
 睨みつけるように、震え上がる盗賊達を見つめると、
「貴様ら! 下手をすりゃ、エイジャーの旦那が死んじまうところだったんだ! お前ら、絶対に許せねえ!」
 と数人の盗賊を踏んづけて、殺した。
 この時点で、三分の一の盗賊は震え上がり、土下座して許しを請(こ)うた。
 だが、アユットは怒りに任せて逃げ出す盗賊らに炎を吐いて、焼き殺した。
「こら! アユット! 殺しちゃダメじゃないの!」
 とイーナ。
「うっさいな、黙ってろ! こいつら、あたいの大切な旦那様を、危うく殺しちまうところだったんだぜ! 絶対に全員許せねえ!」
 と土下座している盗賊までも、踏んで殺そうとした。
「お兄様は生きているでしょうが! このバカドラゴン!」
 と言いながら、イーナはアユットの頭を叩いた。
「あ、痛っ! 何すんだよう!」
 と言っているが、ドラゴン化したアユットには、イーナの拳骨(げんこつ)なんて痛くも痒くもない。
 はずだった。
 するとそれを見ていた盗賊らから、
 女の子がドラゴンを殴った!
 ドラゴンが痛がっているぞ!
 ドラゴン化したアユットは、牙を見せてニヤリと笑うと、
「アイタタタッ! ま! 参った~! やられた~!」
 と言いながら、ゆっくりと横に倒れた。
 イーナは、
「え? 何で?」
 と不思議がると、
 あの女の子、ドラゴンを一撃で倒したぞ!
 これは只者(ただもの)じゃねえ!
 化け物だ!
 と口々に言って盗賊ら全員が降伏した。
 なぜ、アユットがわざと倒れたかを理解したイーナは、顔を真っ赤にしながら、
「アユットったら!」
 と叫んだ。
 この一件から『ドラゴンを一撃で倒した最強の少女』ということで、『ドラゴン令嬢』という名誉なのか不名誉なのか分からない異名がついた。

2023年10月12日

※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
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