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 私は冬子とうこのことが好きだ。これは紛れもない事実である。でも、どうしてだろうか。自分に素直になることができないのだ。

 3学期が始まる今日も、私は「意地悪」をする。
「北村さん、もうやめて……」
 私に泣きながら懇願する冬子。ああ、どうしてこんなことをしてしまうのか。自分が憎い。本当はこんなことしたくない。冬子の冬休みの課題を、破り捨てながら言う。
「あんたが悪いんでしょ!」
 違う。冬子は何も悪くない。悪いのは私だ。

 愛情とプライドのジレンマに陥った私。このような「意地悪」は、ちょっとした悪口から始まり、今では物理的な暴力にまでエスカレートしている。自分自身の感情に恐怖しつつ、憎しみを募らせていた。
 家に帰り着き、冬子の写真が飾ってある写真フレームが目に入った瞬間、私は心の底からの本心を吐露する。
「どうして、どうして、どうしてなの‼」
 声が枯れるほど、私は後悔の念を叫び続けた。

 始業式の次の日、冬子は学校に現れなかった。彼女が学校を休むのは珍しい。何かあったのだろうか。心配する私に、担任が話しかける。
「北村さん、ちょっといい?」
 朝のホームルームが始まると言うのに、それ以上に重要なことなのだろうか。疑問に思いつつ、担任に連れられ、普段は立ち寄らない会議室に入る。
「木野さんのことだけど……」
 唐突に冬子の名前を告げられ、戸惑う私。
「冬子がどうかしたんですか」
 激情を薄めた声音で問い返す。神妙な面持ちの担任の発言は、私の精神を殺した。
「彼女、昨日の夜に自宅のマンションから飛び降りて亡くなったのよ」
「え……」
 あまりに唐突な発言で、理解が追いつかない。
「それで、彼女の自室にこんな手紙が残されていたの」
 担任は、二つ折りにされた白いルーズリーフを差し出す。そこには、乱雑な字でこう書かれていた。

『こんな人生なんてもう嫌だ
 全部 北村優菜ゆうなのせいだ
 私から私を奪ったのは
 全部全部あの女だ!』

 言葉を失った私は、担任がこの後に何を言ったのかも覚えていない。そもそも、今日一日の記憶も消えてしまったのだ。しかし、変わらないことが一つだけある。それは、「冬子が死んだ」という事実だ。それも、私のせいで。
 自室で彼女の写真を見た瞬間、自分でも驚くような激情がこみ上げる。
「ああああああああああ‼ なんで、なんで、なんで、なんでえええええ‼」
 喉から血が出るほどに叫び続ける。写真立てを手に取った私は、それを閉まっている窓に投げつけた。バリンッと大きな音を立てて割れる窓ガラス。写真はすでに、アスファルトの地面へと落下していた。
「冬子のいない世界なんて考えられない!」
 床に散乱するガラスの破片を手に取り、手首に近づけた。
「はは、何やってるんだろ、私」
 視界が歪み、頬から雫がこぼれる。

 辺り一面には、赤い涙で彩られた宝石が輝いていた。
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